見出し画像

生成AIによる電力消費増大への懐疑

生成AI利用のための電力急増が電力危機を呼ぶという論調を否定する記事が出たのでご紹介します。


電力危機?

日本は原発の停止によって電力は逼迫しています。地球温暖化によるエアコン需要の増大も顕著です。
さらに生成AIによって電力危機が起こるというのは電力中研の2050年電力予想のうち電力消費が増えるシナリオに基づく予測によるデータです[nikkei]。
たしかに生成AIの開発には膨大な計算資源が必要です。計算資源の利用とはある意味、電力消費に直結します。

電力危機にならない

最近、これを否定する記事が日経に出ました ([nikkei2])。もっとも端的に言えば、2050年に電力が37%増えるとしても年率1%にも満たないので関係ないというしごくもっともな話です。
さらに:

  • 技術革新による省エネルギー効果

  • 全体的な生産性向上による省エネルギー効果

によって、中長期的には激減すると述べています。
いずれもその通りだと思います。
第一の点ではBlackwellの性能向上に顕著にみられます。出荷の遅れもささやかれるNVIDIAの最新Blackwellは4ビット浮動小数点による計算をチップ上で実現しています。普通の浮動小数点の32ビットや半精度浮動小数点16ビットに比べても1桁に近い電力消費効率向上が見込めます。より多くの計算がチップ上で行えるネットワーク効率向上などを考えればさらなる省エネルギー効果が見込めます。直接 Transformer エンジンを駆動できることも効率向上に寄与します。
NVIDIAは電力消費を気にせず高性能を追求する会社です。いまや高性能すぎて電力がボトルネックになっています。これを解決するために生成AIに対する知見をこれでもかというほどチップレベルで盛り込んでいます。追随を許さないソフトウェア能力が高効率、低消費電力にも直結すると思います。
第二の点も納得です。人間がえんえんと検索しなくても一発でAIが答えてくれたり、人間より速く正確にソフトウェアを開発してくれれば、人間の活動全体でのエネルギー消費は減少します。生成AIの事前学習は一度きりあり、推論過程はずっと少ないエネルギー消費で済むので、利用が進めば進むほど、事前学習の膨大なコストは相対的に無視できるようになります。

生成AI開発の寡占化

そもそも生成AIの膨大な電力消費は大量のデータで限りなく繰り返す事前学習によるものです。これができる企業は限られています。Alphabet (Googleの親会社) , Meta, Microsoft, Amazon(あるいはX.aiをいれてもいいかもしれません)のAIデータセンターGPUの占有率は4割と推定します。これらの会社が他社に負けないようにと急ぐので生成AIデータセンター市場は過熱しています。これらの企業は投資を緩めることはないでしょうが、青天井に投資し続けるものでもないと思います。
最近のStanford大学での講演でEric Schmit (元Google)は大企業とスタートアップの生成AI開発のギャップは縮まってくとと思ってスタートアップに投資してみたが、最近、その信念はゆらいでいる、と述べています。
生成AIの進展は続き、応用面でさまざまなスタートアップは出てくるとは思います。メインの大規模言語モデル開発は引き続き 2-3年は巨大IT企業が同じペースでリードすると予想します。

むすび

OpenAIとMicrosoftが10兆円かけて原発付AIデータセンターを作る計画とかもささやかれていました。実際には地球がヒートアップするほど生成AIが電力を過剰消費することはないようです。
実際、過去の例をみても、インターネットの普及によって電力消費は増えていないというデータもあります([[renewable_energy_institute] )。

参考文献

  • [nikkei] 電力消費、2050年に4割増 生成AI普及で「想定外」https://www.nikkei.com/article/DGKKZO79934590Q4A410C2EP0000/ 2024年

  • [nikkei2] AIデータセンター急増で電力需要は“激減”か https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00138/082001588/ 2024年

  • [nhk]生成AI普及で電力需要に異変? https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240521/k10014455901000.html 2024年

  • [renewable_energy_institute] AIの普及は電力需給に影響を及ぼさない、自然エネルギー100%を実現できる期待も https://www.renewable-ei.org/activities/Column/REupdate/20240712_2.php

いいなと思ったら応援しよう!