見出し画像

企業における生成AIエージェントの展望

これまで、企業への生成AIエージェントの浸透はまだ先の話だと考えていました。しかし、OpenAI Deep Researchの登場によって、その見方が大きく変わりました。本記事では、企業における生成AIのエージェント化の現状と展望について考察します。


OpenAI Deep Researchのインパクト

GoogleのGeminiも「Deep Research」というサービスを提供しており、紛らわしいですが、OpenAIのDeep Researchのほうが高品質な出力を生み出しているようです。2024年には、Google Deep Researchと高性能推論モデルo1-miniの組み合わせが最強との声もありましたが、OpenAIがDeep Researchとo3-miniを発表しました。この組み合わせは、Gemini Deep Researchの10倍のコストがかかるものの、非常に強力な性能を発揮しています。

従来の生成AIは「正しい情報がなければ正しく答えられない」という欠点がありましたが、ウェブ検索との組み合わせによってこの課題を克服しつつあります。さらに、Deep Researchの登場により、情報収集・整理・論理的分析の能力が格段に向上しました。この進化は、企業の経営企画部門におけるコンサルティング業務の内製化を促進する可能性があり、新たなビジネスチャンスが生まれると考えられます。

生成AIエージェントの実現

GoogleとOpenAIのDeep Researchが発表された当初、特別な検索基盤を活用しているのではないかと推測されました。しかし、実際にはそうではなく、GoogleはGemini、OpenAIはo3を活用し、自律的に検索を行いながら思考を深めるというアプローチを採用していることがわかりました。

これはまさにエージェントそのものです。指示を受けて検索し、結果をもとに次の検索を実行し、最終的にまとめる。このプロセスを繰り返すことで、より精度の高い分析を行うことが可能になります。Deep Researchは、外部環境を変えたり有料サービスを注文したりする機能を持たないため、企業活動へ比較的安全に組み込むことができます。そのため、セキュリティリスクを一定範囲に限定しながらエージェント技術を活用できるのです。

企業カスタマイズ生成AIへの影響

一般的な生成AIは公開データをもとに学習しているため、企業が最初に求めるのは自社データ資産に基づいたカスタマイズAIです。しかし、自社データを用いたファインチューニングには大きなコストがかかるため、多くの企業はRAG(Retrieval Augmented Generation)を活用しています。

RAGの精度が向上しない限り、カスタマイズ生成AIの精度向上も期待できません。しかし、Deep Researchのアプローチを応用すれば、この課題を克服できる可能性があります。特に興味深いのは、Deep Researchが特別な検索インフラを構築せず、高度な推論を活用して検索を行っている点です。

現在、企業向けRAGで最も一般的なのはチャンクベースのベクトルデータベースです。しかし、もしこの手法が最適ならば、Googleの検索エンジンも同じ手法を採用しているはずですが、そのような動きは見られません。Googleは、個別の情報に対して品質ランキングを付与する方式を維持しており、大きな変化はないようです。これは、現在の企業向けRAGがまだ発展途上であり、さらなる改良が求められることを示唆しています。

最終的には、企業データを「意味的データベース」として再構築することが必要になりますが、これは時間のかかるプロセスです。2024年内に実現できそうなアプローチとしては、検索インターフェースを導入し、推論エンジンに検索させたうえで、その結果を生成AIで処理するフローが考えられます。これは「企業版Deep Research」を前処理として活用する形になり、RAGを完全に置き換えるかどうかは別として、2025年の企業向けカスタマイズ生成AIの重要な挑戦となるでしょう。

むすび

生成AIのエージェント化は、スキミングなどのセキュリティリスクが伴うため、企業への導入はまだ先だと考えていました。しかし、OpenAI Deep Researchの登場は、エージェントサービスの新たな可能性を示しています。

OpenAIがOperatorを発表した際、2025年を「エージェント化元年」とする見方には半信半疑でした。しかし、検索を主体とするエージェントであれば、リスクを抑えながら企業活動に活用できる可能性が高まっています。Deep Researchは、企業のデータ活用や業務効率化に革命をもたらす技術であり、今後の進化が非常に楽しみです。

参考文献



いいなと思ったら応援しよう!