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人間と計算機の関係について2023年にわかったこと
はじめに
次の2つの問題群についてかつては明確な合意があった。
人間にとって簡単だが、機械にとって難しい問題がある
人間にとっては難しいが、機械にとって簡単な問題がある
たとえば、たくさんの数の加減乗除や大きな数の加減乗除は計算機にとっては簡単だが、人間にとっては難しい。
実際には大部分の認知的な問題は人間にとっては簡単だが、機械にとっては難しい問題に分類されていた。
2023年に生成AIでわかったこと
大規模言語モデルは簡単に言うと次のように回答文を作る。
文章を単語のようなもの(トークンと呼ぶ)に分割する
トークンを実数のベクトルに変換する
実数のベクトルをならべて行列を作る
行列を加減乗除するとベクトルがでてくる
そのベクトルに近い単語(トークン)を返す
出てきた単語を質問の後ろにつけて、以下繰り返す。
これで回答文を作って以下のような作業を行うことができる。
文章を書く
文章を要約する
文章を翻訳する
プログラムを書く
詩を書く
脚本を書く
質問した人の感情を推定する
文章の間違いを直す
プログラムにコメントを挿入する
プログラムの処理フローを書く
これらは人間にとっては簡単だが、計算機にとって難しいとされていた問題の数々である。言語の例からは逸脱するが同じようなメカニズムで画像や音声も処理できる。
絵を見て何が書いてあるか判断する
とかもできるわけである。
このように、かつて人間にとって簡単だが、計算機にとって難しいとされていた問題は実数の行列計算のようなもので少なくとも近似的には解けてしまう。実数の加減乗除は計算機のもともと得意な分野である。人間が敵わないような速度で処理することができる。
この結果、いままで人間にしかできない、あるいは少なくとも計算機で解くのはとても難しいと思われていた認知的な問題が、計算機にとって劇的に難しくない問題になってしまったわけである。
知能のバーを上げつつける人類
知的処理をすることについて地上の王として振る舞ってきた人類にとって、認知的問題が計算機で解けてしまうというのは受け入れがたいことらしく、2023年の間中、人類は知能のバーを上げ続けている。
10年前ならChatGPT(GPT-4)レベルの対話なら十分自然な対話として、人間に匹敵する知能として認められたであろう。
生成AIではないが、自動運転だって、縦列駐車ができれば立派なものだ。
しかし、人類はいや人間の知能はそんなものでないと言い続けている。
もちろん、計算機が人間を超えたということは言えないだろう。人間の柔軟さは相当なものだ。人間の脳のニューロンの相互関係の数は大規模言語モデルのパラメータ数を桁違いに上回っている。
しかし、その差がどんどん縮まっているのは事実である。
まだ差があると主張し続けるより、どうやって使うかを考えることのほうがはるかに生産的である。
まとめ
計算機の知能がどんなにあがっても、人間がその日に全員いなくなるわけではない、社会が突然なくなるわけでもない、と思っている。どうやって使うかを考えるほうが生産的である。