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ふたりの会話

「え、お父さんに云ったの」
「うん。いけなかった?」
「いいけど、なんて云ってた?」
「ぎゃびーん、ライアル」
「……何、それ」
「判んない」
「育子が判らなかったら、ぼくに判る訳がない」
「閎一君の方がつき合い長いじゃん」
「そりゃ、七つ上だから」
「お父さんがロリコンなのかって云ってた」
「違うよ」
「わたしが赤ちゃんの時にもう結婚するつもりだったって云ったら、異常者だって」
「そんな頃は可愛いって思ってただけだよ」
「お襁褓替えさせるんじゃなかったって後悔してた」
「そんなことして劣情もよおすと思う?」
「思わない。っていうか、恥ずかしい」
「赤ちゃんなんだから」
「衿子ちゃんの時はどうだったの」
「衿子は妹だからなんとも思わなかった」
「じゃあやっぱり特別な気持ちだったんじゃない」
「そりゃそうだよ。特別可愛かった」
「閎一君って、ちょっとお父さんみたい」
「どこが」
「思ってることはっきり云う」
「子供の頃、憧れてたからかな」
「憧れてたの? どこに」
「自由奔放なところに」
「奔放かな」
「そうじゃないってことは大きくなったら判ったけど」
「大きくなり過ぎ」
「しょうがないじゃん」
「お父さんより背が高い」
「昔はお父さんや木下さんが凄く大きく思えた」
「一八〇センチくらいあるからね」
「本人が一七九って云ってるだけで、一八〇あるだろ」
「健康診断では一七九・七とか八とか」
「それはもう、一八〇って云った方が早いよ」
「半端な数字が好きなんだって」
「変なひとだなあ」
「そこが好きだったんでしょ」
「そうだけど」
「自分のお父さんと違うから?」
「それはあるかも知れない」
「おじさんも充分変わってるよ」
「どこが」
「お父さんとバンドやってる」
「それは高校の時に始めたんだから」
「高校の時からなら筋金入り」
「なんだよ、それ」
「おじさんも牧田さんも変人」
「牧田さんは違うだろ」
「お父さんのこと変だって云うけど、あのひとの方が変だよ」
「結婚しないから?」
「そんなひとは幾らでも居るよ。考え方が変」
「そうかな」
「音楽のことばっかで、偏ってて、制服フェチ」
「学生の制服が好きな訳じゃないから、まだいいと思うけど」
「採血してもらう時、看護婦さんの服ばっか見てるから目隠しされたんだって」
「それはプレイなんじゃない?」
「病院でそんなことするの」
「しないか」
「楽器屋に勤めてて、よく銀行員とか受附嬢を引っ掛けられるよね」
「そういう処に行くようにしてるんだろ」
「閎一君も制服にくらっとするの」
「特別しないな」
「わたしが中学に入った時から迎えにきてくれてるじゃん。ぞろぞろ居る女の子、どう思ってたの」
「女子中学生」
「そうだけど」
「子供にしか思えなかったよ」
「わたしは?」
「中学生の女の子」
「抱き締めたりしたのに」
「可愛いから」
「お父さんみたい」
「それ、やめてよ」
「お父さんは貶し言葉なの?」
「木下さんに関しては」
「酷い」
「ごめん。で、結婚のことはどう云ってたの」
「高校卒業するまで駄目だって」
「ってことは、許してくれたんだ」
「気が変わるかも知れないけど」
「あのひとは意見を変えたりしないよ」
「よく知ってるね」
「つき合いが長いから」
「溜め息つかないでよ。小さい頃は懐いてたんでしょ」
「親より好きだった」
「今は」
「変わらなさ過ぎて呆れる」
「そこがいいんじゃない」
「あんなひとになれと?」
「うん」
「無理だよ」

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