放課後

「なんかすげえ頭してねえか」（牧田）
「雨が降ってるからだよ」（江木澤）
「湿気が多いとそうなるのか」（牧田）
「そう」（江木澤）
「ひでえな」（牧田）
「酷いとか云うなよ」（江木澤）
「天パってそうなのか」（牧田）
「そうなんだよ」（江木澤）
「気の毒……」（亮二）
「云うなよ」（牧田）
「牧田だって云ったじゃねえか」（亮二）
「云ったけどさ」（牧田）
「くりんくりんして可愛いわよ」（亮二）
「嬉しくない。頭を撫でるな」（江木澤）
「もっと短くしたらどうなんだ」（牧田）
「子供の頃、やられた」（江木澤）
「どんくらい短くされたのよ」（亮二）
「五分刈り」（江木澤）
「それはやだなあ」（亮二）
「おれ、ずっとこのくらいだからなあ」（牧田）
「中学の校則、緩かったんだ」（江木澤）
「髪型には煩瑣くなかったな」（牧田）
「ぼくんとこは厳しかった」（江木澤）
「リョウの学校も割と自由だったよな」（牧田）
「そうかね」（亮二）
「不良は多くなかったみたいだけどさ。おれんとこはヤンキーがやたら居た」（牧田）
「中学で」（江木澤）
「おれらの世代は荒れてるだろ」（牧田）
「まあね」（江木澤）
「校内暴力」（亮二）
「警察沙汰になったこともあるな」（牧田）
「うそ」（江木澤）
「ネンショー送りがふたり居て、一般生徒にも取り調べがあったくらいだけど」（牧田）
「凄いなぁ」（江木澤）
「江木澤は南第三中だろ」（牧田）
「うん」（江木澤）
「地味」（亮二）
「ほっといてくれよ」（江木澤）
「公立中は選べねえんだから」（牧田）
「江木ちゃんは地味じゃないわよ」（亮二）
「ああそう」（江木澤）
「むくれちまったじゃねえか」（牧田）
「可愛い」（亮二）
「撫で廻すなよ」（江木澤）
「縮んで」（亮二）
「おまえ、ほんとに小さいもんが好きだな」（牧田）
「そうか？」（亮二）
「背の低い奴ばっか構うし、小動物とか虫が好きだし」（牧田）
「可愛いから」（亮二）
「だからって部室で蟻を飼うな」（牧田）
「あれは面白いよ」（江木澤）
「江木澤、おまえも変人だったのか」（牧田）
「違うよ。小学校の頃、瓶で観察しなかった？」（江木澤）
「やったけど、特に面白いとは思わなかったぞ」（牧田）
「冷血人間」（亮二）
「うるせえ」（牧田）
「巣を作る様子が面白かったけどなあ」（江木澤）
「子供だったからだろ」（牧田）
「今観ると懐かしくて」（江木澤）
「こいつは過去現在未来、つまり一生、ガキ臭えことを楽しんでんだよ」（牧田）
「それが何か悪いかよ」（亮二）
「なんだかそう謂うのは羨ましいけど」(江木澤)
「あれは夏休みの自由研究のつもりか」（牧田）
「早春だもん。寒いから蟻もまだ冬眠してる」（亮二）
「もんとか云うな、あほんだら。おまえは一生冬眠してろ」（牧田）
「ひどすぎる。江木ちゃん、このひと成敗して」（亮二）
「自分でやりなよ」（江木澤）
「よし、やる」（亮二）
「おまえに何が出来るんだ」（牧田）
「指相撲？」（亮二）
「……笑かすな」（牧田）
「そんなら、けん玉で」（亮二）
「何処にあんだよ、そんなもん」（牧田）
「此処」（亮二）
「なんであるんだ」（牧田）
「こいつ、郷土玩具研究部と掛け持ち」（亮二）
「そんな部があんのかよ」（牧田）
「あるよ」（部員）

　……………。

「おまえ、得意すぎだろ」（牧田）
「じいさんが土産でくれてから、三年間やり続けた」（亮二）
「やりすぎだっつーの」（牧田）
「話は戻るけどさ、江木澤が髪伸ばしたらどうなるんだ」（亮二）
「ぶわーっと大きくなる」（江木澤）
「アフロ」（亮二）
「そんな風にはならないよ」（江木澤）
「アフロのドラマーって居たっけか」（牧田）
「知らんな」（亮二）
「アフロじゃないって」（江木澤）
「長くなったところが想像出来んからな」（亮二）
「こう、くるくる広がる感じ」（江木澤）
「ああ、おばさんパーマみたいになるのか」（牧田）
「……リョウ、牧田を殴ってもいいよ」（江木澤）
「いいのか。右フック、左フック、アッパーカット、どれにする？」（亮二）
「おまえに出来るのか」（牧田）
「……江木ちゃん、あたしには牧田ちゃんを殴ることなんて出来ないわ」（亮二）
「それどころか抱きしめてる」（江木澤）
「可愛いもの」（亮二）
「牧田の表情、見てご覧よ」（江木澤）
「…………」（亮二＆牧田）
「もの凄く厭がってる」（江木澤）
「馬鹿」（亮二）
「牧田の顔」（江木澤）
「能無し、変態、ロリコン、短小、包茎、早漏、いもち病」（亮二）
「なんだ、いもち病ってのは」（牧田）
「そこに反応するのか」（江木澤）
「稲の病気」（亮二）
「田圃に生えたことはねえぞ」（牧田）
「そうよね」（亮二）
「どうでもいいけど、いい加減離せ」（牧田）
「抱きしめたままでよくあれだけ悪口が云えるな」（江木澤）
「悪口じゃねえからな」（亮二）
「じゃあなんだよ」（牧田）
「事実」（亮二）
「殴るぞ」（牧田）
「蹴ってから云わないで」（亮二）