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変人。

 ロック界には変人が多い。その裡でも突出した変人中の変人が、キース・ムーンである。
 前に書いたイングヴェイ・マルムスティーンは、ハードロックかヘヴィメタルに興味のあるひとにしか知られていないが、キース・ムーンの名はロック・ミュージックや映画に詳しいひとならば「ああ、あのひとね」と思い当たるだろう。
 変と云えばシド・バレットも変だったが、彼は精神がイカレていたので暗い。キース・ムーンは、エピソードを読む限り、かなりアッパー系の変人であったようだ。
 本来ならこんな奴とは拘わる筈のなかったスティーブ・マックイーンなどは、謂われのない迷惑行為を受けた気の毒なひとである。

 キース・ムーンは、スティーブ・マックイーンの隣へ引っ越し、車を暴走させた揚げ句敷地に乱入し、高笑いを残して去った。
 塀の下に穴を掘って抜け道を作ろうとしたが、マックイーンに見つかった。
 ジャンプ台を作りバイクで塀を飛び越えようとした。
 マックイーンが出掛けた時、ナチスの軍服を着て待ち伏せをした。(この三つは『大脱走』から思いついたのであろう)
 キースの奇行に堪えかねたマックイーンが塀を高くしたら、何故かそれより高い塀を作った。
 マックイーン宅に週一の頻度でバイクで突っ込んだ。
 塀の下の穴を掘り上げ敷地に這入ったら、恰度番犬が居る処で、尻を噛まれた。が、噛み返した。
 マックイーンが友人を招いて盛大なパーティーを催したら、トランポリンで飛び跳ねその様子を見ようとした。

 マックイーンが何をしたというのだ。
 そして奇行はバンドマンとしても行われる。


 ホテルの窓からテレビを投げ捨てた。
 ホテルの窓から家具を放り出した。
 ホテルの9階で廊下を使わず壁を伝って行った。
 ホテルの部屋の壁に小便をした(自分の部屋ではなく)。
 ホテルの部屋を爆破した。
 ホテルのトイレを爆破した。
 ホテルのフロントへ車で突っ込み、部屋を頼んだ。
 ドラムセットを爆破した。
 ひとの家に月に一回、車で突っ込んだ。
 自宅プールに車で突っ込んだ。
 象に使う麻酔を酒に混ぜて飲んで気絶した。
 ライブ中、薬のやり過ぎで仆れた為、メンバーが客席に向かってドラムの出来る奴は居るかと声を掛け、観客が代わりを務めたことがあった。
 ピート・タウンゼントの服をテレビの収録中に引き千切った。
 ピート・タウンゼントがアルコール依存症の治療の為に病院へ行くのにつき合った際、あまりにも言動がおかしかった為、医者から入院を勧められた。
 隣の家の子供に麻薬を勧めた。
 ビートルズに入れてくれと頼んだ。
 ジョン・レノンとふたりでニューヨークの繁華街を立ち小便して歩き、逮捕された。
 オノ・ヨーコのスカートをめくった。
 リンゴ・スターの家へクリスマスの夜サンタクロースの恰好をして現れたが、衣装のレンタル代が払えずリンゴが肩代わりした。
 酔っぱらってマンホールに落ち、そのまま夜を明かした。
 自分の車の運転手を間違ってひき殺した。(死ぬまでアクセルとブレーキの区別がつかなかった)
 ドノヴァンがレコーディング中、犬を二匹暴れさせた。
 自宅から僅か500メートルの処にあるパブにヘリコプターで行った。
 入店を断られたレストランを買い取り、自分を追い出したボーイを馘にした。
 整髪料が切れた為ジャムを塗って出掛け、ひとにそれを舐めさせた。
 バスドラの中に金魚を泳がせた。
 パーティでは必ず全裸になり、会場を滅茶苦茶に破壊した。ミック・ジャガーは彼を見かけるとそそくさと退散した。
 全裸で車のボンネットにしがみつきスタジオ入りした。

 こんなことをしているものだから、三十二才で死んだ。が、彼のドラミング・テクニックを超える者は居ないとされている。


 

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