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サッカーボールから出たエッチな音

ゴールデンウィーク。日曜日。早朝の公園。いるのは老人と子どもだけ。老人でも子どもでもないのは私だけだ。

サッカーボールを蹴っている3人の子どもがいる。鉄棒をゴールに見立ててゲームをしている。一人はキーパー。あとの2人がお互いにボールを取り合う。

緑のユニフォームにオレンジ色のシューズをはいた子が一番大きい。縦にも横にも大きい。推定、小4。
上下バルセロナのユニフォームを着た子が一番小さい。背番号は10番。推定、小2。
その中間くらいの身長の子どもは、黒いポロシャツに濃いブルージーンズを履いている。推定、小3。
彼は基本的にキーパーを担当しており、年下であるバルサの10番によくダメ出しをしている。「あんどう!もっとタッチしろよ!」「あんどう!もっといけよ!」とかと。そのやりとりから、バルサの10番は「あんどう」という名前だと分かった。
あんどうはそれに対して笑っている。あんどうはよく笑う子どもだ。

緑の小4がボールを蹴る。ボン。
跳ね返ってきたボールを、また蹴る。ボン。
それが何度か繰り返される。ボン。ボン。ボン。
何度目かで、変な音が出る。ベチンッ。
スネに当たるとこういう音が出るよなあ、と私はなんとなく思う。その音に、バルサの10番こと、あんどうが笑う。
「ぎゃは、なに今の音! べ、べちんって! 変な音ぉ! エッチな音! ぎゃは」
エッチな音?
エッチな音と言ったか?
「ぎゃは、エッチな音ぉ!」
あんどうは言う。二人の少年は何も言わない。あんどうだけが笑っている。小2以上には見えない、バルサの10番だけが笑っている。
エッチな音か。
最近の小学生は進んでいる。
いささか進みすぎじゃないか?

サッカーをやめた3人のうち、緑の小4だけがひとりで公園の中央、土を掘り出す。
あんどうとブルージーンズは並んでブランコをこいだ後、裏手の林(のような斜面)を探検(のようなことを)しに行った。

やがて土いじりに飽きた緑の小4は立ち上がりベンチへ。
あんどうは林から一人走って戻ってきて、サッカーボールの元へ。
私はサッカーに詳しくないが、おそらく3人の中では彼が一番サッカーが上手い。
さすが10番。
あんどうはサッカーが上手い。

緑が言う。
「泥団子をつくる」
あんどうが言う。
「一日じゃできない」
緑が言う。
「俺は泥団子を作る」
あんどうが言う。
「一日じゃできないよ」

ブルージーンズが、緑が掘り起こした土の所へ来てしゃがむ。
「あんどう作ろうぜ」
「えー」

あんどうは一人でサッカーを続ける。鉄棒相手に何度もゴールを決めている。
緑とブルージーンズは本格的に泥団子づくりをはじめる。
GWはまだ始まったばかりだ。

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