レバノンを知るための10皿 ‐また、みんなで一緒にご飯を食べよう!‐
衝撃的な事件が起きた。ベイルートの自宅を留守にした際に、爆発によって自宅が入っているビルが壊滅的な被害を受けた。例の8月4日のレバノンでの爆発事件で。
普段、ベイルートで勤務しているが、COVID-19のために暫く前から日本で自宅勤務をしていた。8月5日の深夜頃、ふとスマホを見たら、画面上に「ベイルートで大規模爆発発生」というメッセージがあり、事務所のワッツアップグループには大量のメッセージと写真が入っていた。そのうちの1つに“your house probably down”とあった。第一報を聞いた時点で、爆発現場から近いし、爆発規模を考えると窓も吹き飛んで中もぐちゃぐちゃになっているだろうな、というくらいの想像はできた。「ビル自体がないってこと?」と恐る恐る聞くと「その可能性もある」と。翌朝のメッセージでどうやらビル自体は残っていることが判明した。が、その数時間後に送られてきたビルの外観や、内部の写真や動画を見て「あぁ、ここにいたらきっとダメだっただろうな」と感じた。あの場に居合わせなかったのは本当に幸運なことだと思う。
思えば、レバノンは着任当初から騒がしかった。シリアから多くの難民を受け入れ、経済はもともと不安定で国内の失業率も高くなっていた。昨年10月に始まった社会情勢不安、年末にはゴーン氏の逃亡、年明けにはコロナ、そこに追い打ちをかけるような深刻な経済危機、そして、今回の爆発事件。2020年は誰にとっても、どの国にとっても困難な年だけれど、レバノンの状況はひときわ厳しい。
今回の爆発事故では既に100名以上が亡くなり、4000人以上が負傷したと言われている。ベイルートの目ぬき通りのジュメイゼや、レストランやバーが多く、週末には文字通り人が溢れているマル・ミハイルは甚大な被害で崩れ落ちている建物もあり、窓ガラスの破片が飛び散っている。救急隊員が人々を救出し、周囲の人々も自発的に救助作業を支援している。翌朝には、多くの人々が街に出て瓦礫やガラスを取り除いていた。クラウドファンディングを立ち上げた人もいる。レバノン人の同僚は自分と家族のことで手一杯なはずなのに、外国人の同僚を気遣っている。
レバノンの人々は逞しい。内戦時代でも銃声が鳴りやんだらおしゃれをして、カフェに繰り出しておしゃべりをし、美味しい食事を楽しんだのだという。今回の爆発事故で、ロックダウンは解除された。人が多く集まるからCOVID-19感染者数も増えるかもしれないし、病院だってもうキャパオーバーだろう。多くの人々が家を失った。再建しようにも個人・国家の経済的余力はない。国民の政府に対する信頼はどうだろうか。既に、新たな抗議行動が予定されているという。先は、恐らく、相当に厳しい。でも、レバノンの人々はきっとこんな状況でも、着飾って、美味しいものを食べて強く逞しく生きていくに違いない。
自宅のビルの様子は何となくわかったけど、自宅そのものの様子はまだよくわからない。ビルの損傷が激しくて上階まで上がれないのかもしれない。荷物はどれくらい持ち出せるだろうか。まだ暫くは戻れないだろうから、どうしたものかといろいろ考えが巡る。が、多くのレバノンの人達と同じように今できることはないかな、と考えた。信頼できる機関に寄付をした。同僚の仕事を引き受けた。そして、レバノンの美味しい10皿を紹介してみようと思った。きっとまた近いうちに友人達と美味しい食事を楽しめる日のことを考えながら。
①びっくり創作料理
アンマンからベイルートに出張してきた同僚に「今日の夜、何食べたい?」と聞いたら、「行きたいレストランがある。お勧めはカリフラワー」と言われ???と思いながら行ってみたらこれが出てきた。他にも、とうもろこし、ズッキーニ、じゃがいも、等々野菜の名前そのままがメニューになったものが多々ある。タラの卵入りのホンモスを出してくれたのもここ。
②ザアタルセレクション
以前に事務所を借りていたビルでは、月一で、ちょっとしたイベントがあった。例えば、ドーナッツの日、マナキーシュ(レバノン風ピザ)の日、クロワッサンの日、等々。マナキーシュの日にも、クロワッサンの日にも出てきた、ザアタル(タイムという名前のハーブ)。マナキーシュでザアタルがあるのは知っていたけど、クロワッサンを半分にしたらザアタルがザクザク出てきた時にはびっくりした。
③クナーフェサンドウィッチ
クナーフェ自体は、他の中東諸国でもよく見かける。でも、クナーフェをサンドウィッチにしたものはレバノンでしか見たことがない。仕事の関係でナクーラを訪れた際に見たのが初めてだった。レバノン人の同僚に「これは何?」と聞いたら「あぁ、クナーフェサンドウィッチ」としれーっと普通に答えていた。「ええっ、クナーフェのサンドウィッチ?!」と驚きを隠せずにいたら、周囲の同僚が口をそろえて、「半年以上もレバノンにいるのに、クナーフェサンドウィッチ食べたことないって?食べなきゃ!」と。
このクナーフェサンドウィッチは、金曜の夜に仕事が終わってクラブで一晩中騒いで土曜の朝帰り前に締として食べたりもするらしい。
④各種ドルマ
ブドウの葉っぱでお米やミンチを巻いてトマトソースで煮込んだワラカイナブに、キャベツバージョンもある。キャベツバージョンは同僚のお母さんが作るものがものすごくおいしい。他にもズッキーニやトマトなど。ドルマ用に中をくりぬいたズッキーニを見かけたときにはちょっとびっくりした。
⑤チェリーケバブ
ベイルートのケバブで一番新鮮だったのは、チェリーケバブ。ミンチのお肉を焼いたものに、ヨーグルトソースをかけてその上にチェリーソース!オシャレなケバブで、ケバブの常識を覆してくれた。きっと他にもびっくりするようなケバブがあるに違いない。
⑥クッベセレクション
ベイルートのクッベのセレクションはちょっとすごい。クッベ自体は、ラグビーボール型の揚げ物の中にお肉や松の実が入っている。
クッベハジーネは、そのまま訳すと悲しいクッベだ。なぜかというと、お肉なしで野菜だけのクッベだから。かぼちゃとホウレンソウ(ケールかな?)のクッベを食べながらお店のマスターに、「悲しいクッベがあるってことはハッピーなクッベもあるんでしょ?」とアラビア語で聞いたら、皆に大爆笑された。どうやら語呂が良かったらしい(笑)。
お魚クッベは街のオシャレシーフードレストランで初めて食べたし、後にも先にもここでしか見たことがない。海産物までクッベにしてしまうなんて、さすがレバノンだ。あぁ、また食べたいなぁ。
モスルクッベは、円盤状のクッベ。大きくて、家庭でお母さんが作ってくれる料理なのだとか。確かに、普通にクッベはラグビーボール型で作るの難しそうだものね。
クッベナイエは、生肉のクッベ。これはある程度の衛生環境が整っている場所で出てくる贅沢なクッベ。私の同僚は「僕、生魚食べられないから、お刺身だめなんだよ」と言いながらクッベナイエを美味しそうに食べていた。そういえば、彼は、「僕、チーズ苦手なんだよね」と言いながらピザを食べていたこともある。しかもとっても美味しそうに。
⑦カアク
朝、路上でよく売られている硬いパン。顔よりも大きいサイズで、事務所で誰かが買ってくると、皆でシェアしている。チーズや野菜を挟む人(多数派)、エスプレッソに浸す人(仏人)、そのまま食べる人(レバノン人)、ゆずジャムをつける人(私)等々楽しみ方は人それぞれ。
⑧マナキーシュ
レバノン風ピザ。これは朝ご飯を食べ損ねた時やファーストフード的に食べることが多い。窯から出ていた焼き立てホカホカは皆を笑顔にさせる。チーズやザアタル、野菜やお肉がのっているものもある。
⑨大衆食堂のご飯
お家でお母さんが作ってくれそうな、こういうご飯が大好きだ。ミートボールのトマトソース煮込み、クッベのヨーグルト煮込み。バターライスと一緒に頂きます。
⑩デザート
レバノン独自のデザートは、ムグリー。これはプリンのようなもので、赤ちゃんが生まれた時にお祝いでよく食べるのだそう。
クナーフェも、この国ではえらくオシャレになって出てくる。かと思えば、前述のようにサンドウィッチになって出てくることもある。
アイスクリームは、クラシックなハンナ・ミトリーのものが大好きだ。特に、ローズウォーター味。でも、頼む時はいつも欲張りコースに決めている。
書いていると、みんなで一緒に食事をしたことや、アイスクリームをひっくり返して上司のカバンを大々的に汚したことが思い出される。大丈夫、きっと、またみんなで一緒にご飯や美味しいスウィーツを食べられる日がくるから。それまでは、今、自分にできることをしよう。
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