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AI小説・『運命の代償』


第一章:謎の出会い

桐生信一は、都内の大学に通うごく普通の大学生だった。講義もバイトもほどほどにこなすが、どこか物足りなさを感じていた。周りの友人たちが真剣に将来について話す中、自分は漠然と日々を過ごしているだけだった。そんな退屈な毎日に、変化が訪れたのはある日のことだった。

その日、信一はいつもの帰り道を歩いていた。秋の乾いた風が街路樹を揺らし、カサカサと音を立てる。その中で、不意に道端に黒い表紙のノートが落ちているのが目に入った。誰かの落とし物だろうかと思い、周囲を見渡したが、拾い主らしき人物は見当たらない。

「まぁ、落とし物なら交番に届ければいいか…」

そう思い、信一は軽い気持ちでそのノートを拾い上げた。表紙には何も書かれていない。ただ黒一色の無地だ。少し不気味にも思えたが、ふと気になり、ノートをめくってみると、最初のページにだけ文章が書かれていた。

「このノートに名前を書かれた者の運命は変わる」

何の意味があるのか、いたずらなのか、理解に苦しむ。だが、信一は妙な引力を感じた。自分の退屈な日常に、何か刺激が加わるのではないかという期待が芽生え始める。

「運命が変わる? そんな馬鹿な…」

一笑に付そうとするが、どこかで心がざわつくのを抑えられない。冗談半分で、信一は自分の中で少しだけ不満に感じている友人、同じゼミの岩井涼太の名前を書いてみた。涼太は勉強もスポーツもそつなくこなすタイプで、信一にとっては「完璧すぎる」存在だった。そんな彼に「少しばかりの変化が起きてもいい」と、軽い気持ちで名前を記したのだった。

その夜、信一は特に何も起こらないだろうと考えながら眠りについた。


翌朝、信一はいつものように大学に向かった。講義を受け、昼休みに入ったとき、涼太がいつもと違う表情で近づいてきた。普段は余裕を持っている彼が、どこか興奮しているように見える。

「信一、聞いてくれよ! 昨夜、俺の論文がある学会に取り上げられたんだ! まさかこんな早く注目されるなんて思ってなかった」

信一は驚き、思わず声を失った。涼太はこの春からずっと自分の論文に取り組んでいたが、こんな早く成果が出るとは思っていなかったらしい。だが、信一の心に浮かぶのは、昨夜書いた「名前」だった。

「いや、偶然だよな……?」

信一は頭を振って、そんな馬鹿げた考えを追い払おうとした。だが、その心の片隅には一抹の疑念と興奮が混ざり合っていた。ノートには、本当に「運命を変える力」があるのだろうか?

第二章:予想外の結果

信一は、涼太の急な成功がただの偶然だと自分に言い聞かせようとしたが、心の奥底に不安と期待が渦巻いていた。ノートに名前を書いた直後に涼太が注目される出来事が起きた。それが一度だけなら、ただの偶然と片づけられただろう。しかし、何か胸騒ぎが収まらない。信一は、どうしてもこのノートの力を確かめたくなってしまっていた。

数日後、信一は再びノートを手に取り、ページをめくる。そこには何の指示もなければ、さらなる説明もない。唯一、最初のページに書かれた「このノートに名前を書かれた者の運命は変わる」という一文が、不気味に響く。

信一は再び友人の名前を書く決意を固める。今回は、バイト先の後輩である佐藤真希の名前を書いた。真希は明るく誰にでも愛されるタイプだが、仕事に対して悩みを抱えているようだった。信一はふと、彼女が何か素晴らしい機会を得て、悩みが解消されるようにと願いを込めて名前を記した。


翌日、バイト先に向かった信一は、真希が目を輝かせて自分に話しかけてくるのに驚いた。

「先輩、聞いてください! 昨日、なんと有名な映画プロデューサーがうちのバイト先に偶然来て、私に映画のオーディションの話を持ちかけてくれたんです!信じられませんよね、こんなこと!」

真希は興奮しきりで、信一の肩を掴んで揺さぶった。信一はその話に言葉を失い、ただ無言で彼女の話を聞いていた。まさか二度も自分の書いた通りの「運命の変化」が起こるとは思っていなかった。

「まさか……本当に、このノートは……」

信一は再びノートの力を信じざるを得なくなっていた。だが、好奇心と共に生じた一抹の恐怖も、彼の心に根を下ろし始める。


信一は、それからというもの、友人や知人の名前を次々とノートに書き込んでいくことにした。今度は講義で隣の席に座る山田という学生の名前を書き、彼が成績で上位に入るように願った。また、ゼミで不仲だった教授との間にトラブルが起きないよう、彼の名前も書いた。ノートは常に信一の願望に応え、それぞれの人物の運命を意のままに変えていった。

しかし、ノートを使う度に信一の中で感じる罪悪感も増していった。彼は運命を操るという行為がどれほど恐ろしいものか、徐々に実感し始めていた。自分の力によって他人の人生が変わっていくのを目の当たりにし、その重みが彼の心にのしかかっていた。


そんなある日、信一がノートを使っていたことに気づいたかのように、突然「クロ」と名乗る謎の人物から連絡が入った。信一は最初、いたずらかと思ったが、クロは信一がこれまでに行ってきた「運命の操作」について具体的に話し始めた。誰にも話していないはずの詳細が次々と暴かれ、信一は次第に冷や汗をかき始めた。

「どうやって…?」

信一が震える声で問うと、クロは静かに答えた。

「君が手に入れたノートの本当の力、そしてその代償について教えよう」

クロの言葉は、信一の中に潜む恐怖を呼び起こした。ノートがもたらした「運命の変化」は、ただの幸運ではないかもしれない。信一の背筋を冷たいものが走り抜け、彼の心は混乱と疑念に包まれるのだった。


こうして信一は、ノートを使うたびに一層深く不可解な出来事に巻き込まれていくことになる。彼が望んだ「変化」は、果たして彼にとってどのような結末をもたらすのか──。

第三章:クロの正体

信一は「クロ」との謎の接触によって、これまでの軽い気持ちが一変し、胸の内に冷たい不安が広がっていた。クロは信一のノートの使い方や、それによって引き起こされた「運命の変化」をすべて知っているかのように話す。ノートを手に入れてからというもの、信一は周囲にこの事を話したこともなければ、見られたこともなかった。それにもかかわらず、クロは彼の行動の一部始終を知っていた。

ある夜、信一がノートを机に置き、悩むように眺めていると、窓の外から不意に影が動いた気がした。驚いて見返すと、黒いコートを身に纏った人影が窓の外に立っているのを見つけた。驚愕と恐怖に息を呑む信一の前で、その影は音もなく窓を開けて、部屋に滑り込んできた。

「初めまして、桐生信一君。私はクロだ」

低く落ち着いた声が信一に向けられる。クロは顔に大きなフードを被り、表情がほとんど見えないが、その瞳だけが不気味に光っていた。信一は、言葉を失いながらもクロを凝視し、ようやく声を絞り出した。

「…君は、何者なんだ? どうして俺のことを知っている?」

クロは微笑むような気配を見せ、冷静に答えた。

「君が拾ったノートは、偶然見つけたものではない。選ばれた者にしか手にすることができないものだ。私はそのノートの"監視者"として、君がどう使うのか見守っていたに過ぎない」

「監視者…? それってどういうことだ?」

クロは一歩信一に近づき、さらに言葉を続けた。

「ノートは強力な力を持っている。しかし、それには必ず代償がある。君は他人の運命を変えることで、少しずつ自分自身の運命を失っていっている」

「自分の運命を…失っている?」

クロの言葉に信一は愕然とした。彼はノートを使うことで他人の人生に少なからず影響を与え、良い方向に導いてきたつもりだった。しかし、クロはその行為が信一自身の未来を削り取っていると告げたのだ。

「君がノートを使うたびに、君の人生の一部が消えていく。気づいていないかもしれないが、君が好きだったこと、君の夢や目標が少しずつ薄れていっているはずだ。いつか、君は自分が何を望んでいたのかさえ忘れてしまうだろう」

信一は思わず心の奥を探るように考えた。最近、何に対しても興味を持てなくなり、どこか空虚な感覚に襲われていたことに気づいた。しかし、それがノートの影響だとは思いもよらなかった。

「じゃあ、どうすればいいんだ…? このノートを手放せば、全て元に戻るのか?」

クロはゆっくりと首を横に振った。

「残念だが、一度運命を操ってしまった者に元の人生は戻らない。君は既に、他者の運命に手を加えすぎた。これから君がすべきは、自らの選択の結果に向き合うことだ」

信一は混乱し、焦りの色を隠せなかった。ノートを手にした時の興奮と好奇心は、今や後悔と恐怖に変わり果てていた。しかし、クロの言葉は冷たく、容赦のないものだった。

「君は他人の運命を弄んだ。その代償は、君の未来に暗い影を落とし続けるだろう。だが、その暗闇を選んだのは君自身だ。ノートを使うも使わないも、全て君の選択次第だ」

そう言い残し、クロは再び闇の中に消え去った。その背中には、一抹の温かみも救いも感じられなかった。


一人残された信一は、呆然とノートを見つめた。彼の中にある疑念と恐怖は、次第に募り始めた。しかし同時に、「ノートの力」を手放す決断ができずにいる自分にも気づいていた。

「俺は…どうすればいいんだ…」

信一のつぶやきは、夜の静寂に吸い込まれ、ただ虚しく響くだけだった。

第四章:追い詰められる

クロとの接触以来、信一の日常は徐々に崩れ始めていた。ノートの存在を知りながら、それを手放せない自分への嫌悪が募る一方で、彼は依然としてノートに頼らざるを得なかった。自らの運命が奪われつつあるという恐怖があっても、他人の運命を変えられる力の誘惑は簡単には消えなかった。

そんな中で信一の周囲には、次々と異変が起こり始めた。かつてノートを使って運命を操作した友人や知人が、不可解な事故やトラブルに巻き込まれるようになっていった。特に、最初にノートで運命を変えた岩井涼太が、突然退学を余儀なくされる事件が発生したのは、信一にとって衝撃的だった。

涼太は、自分の意図とは全く逆の方向に人生を狂わせ始めた。信一がノートで涼太の成功を願ってからわずか数週間後、彼は何らかの理由で大学からの除籍を言い渡され、彼の家族までもが謎の借金問題に巻き込まれていた。信一は、自分が直接的に彼の人生を狂わせたわけではないにせよ、その影響力が間違いなくあると感じずにはいられなかった。

「俺がやったんだ…俺が、彼の人生を壊したんだ…」

その罪悪感が日に日に彼を苛み、信一は寝つきが悪くなり、食事も喉を通らなくなった。だが、恐ろしいことに、彼の心の中にはまだ「ノートを手放せない」自分がいた。その力に依存してしまった自分を自覚しながらも、その力にしがみついてしまっている。


ある夜、信一はついに限界を迎え、ノートを燃やそうと決意した。もはや、この力が自分に与える影響を無視できなくなっていたのだ。しかし、いざノートを手にすると、燃やすためのライターが手から滑り落ち、彼はその場に立ち尽くした。

「手放せない…俺は、この力を…」

そのとき、部屋のドアが突然ノックされた。信一は驚き、心臓が跳ね上がるのを感じながらドアを開けると、そこには見知らぬ男が立っていた。彼は無表情で、警察手帳を掲げながら自己紹介をした。

「宮沢刑事だ。少し話を聞かせてほしい」

信一は息を呑み、ドアの向こうで立つ宮沢をじっと見つめた。彼がここに来た理由を問おうとしたが、言葉がうまく出てこなかった。宮沢は部屋に入ると、信一に向かって冷静な口調で質問を投げかけた。

「君の友人である岩井涼太が最近トラブルに巻き込まれているのは知っているか?」

信一はその問いに肯定も否定もできないまま、ただうなずくしかなかった。宮沢はさらに続けた。

「彼は突然退学し、家族にも問題が起きている。そのきっかけが君との関係にある可能性があると聞いている。君が彼の人生に何らかの影響を与えた可能性があると考えられているんだ」

「そ、そんな…俺は何もしていない…」

震える声で否定する信一だったが、宮沢は疑念を拭おうとせず、さらに彼に詰め寄った。

「それならば、なぜ彼の身の回りで突然変化が起きたのか、説明してもらおう。君は何もしていないと言っているが、証拠は?」

その問いに、信一は完全に言葉を失った。何もしていないわけではない、しかし何もしていないと証明することもできない。心の奥底に抱える罪悪感が、彼をさらに追い詰めていく。宮沢の視線は鋭く、彼の心を見透かすかのようだった。


その夜、信一は再びクロの言葉を思い出していた。「ノートを使い続ければ、最終的には自分自身の運命が狂う」という警告が、今になって真実味を帯びてきたのだ。しかし、ノートの力を手放すことができない自分への嫌悪もまた増していく。彼は自分が他人の運命を弄んでいるという事実を認識しつつ、それを止められない自分を責め続けていた。

信一の心は、絶望と恐怖で満たされていた。ノートの存在が彼を狂わせ、彼の運命もまた暗闇へと引きずり込まれていくことを予感せずにはいられなかった。

そして、彼はある決意を胸に、次の運命の変化を求めてノートを開く。その視線はもう、かつての興味や好奇心とは異なり、ただ「恐れ」そのものだった。

第五章:選択の時

信一の心は日に日に追い詰められ、ついに彼は限界に達していた。ノートの力に取り憑かれたことを後悔し、捨てるべきかどうかを何度も考えたが、決断することができなかった。その一方で、警察の宮沢刑事が彼の周囲を調査し続けており、逃げ場がなくなっている感覚に苛まれていた。

ある夜、信一はノートを握りしめ、独り悩み続けていた。宮沢刑事は、信一の生活に徐々に入り込み、彼の行動を鋭く監視しているように思えた。このままでは、いずれ全てが暴かれ、彼の使った「運命の操作」についても知られてしまうのではないかと恐れていた。

「もし…宮沢刑事の運命を操作すれば、全てが解決するのではないか…?」

この思いが彼の心に浮かんだ瞬間、信一は自分の中に宿る恐怖と誘惑を強く感じた。宮沢を操作し、彼の追及を止めることができれば、自分は解放される。だが、その選択はもう後戻りできない道であることも理解していた。


次の日、信一は大学を出た後に宮沢刑事と再び遭遇した。宮沢は冷静な表情で彼を見つめ、簡単な挨拶を交わしたあと、静かに言った。

「君には、まだ隠していることがあるようだな。正直に話す気はないのか?」

信一は内心の焦りを隠し、笑顔を作ろうとしたが、その場の緊張感が彼を支配していた。宮沢の目は、彼をじっと見据え、全てを見透かしているかのようだった。信一は、ついに決断の時が来たことを悟った。

「…宮沢刑事、俺は…」

彼の言葉は震え、言い訳を思い浮かべるが、それが無意味であることも分かっていた。ノートを手に入れてから、自分が犯した罪は数えきれない。だが、ここで宮沢を操作することは、さらに深い罪の道へと進むことを意味する。それでも、もう後戻りはできない気がしていた。

その夜、信一はノートを開き、宮沢刑事の名前を書こうとペンを握った。しかし、ペン先が紙に触れる直前、彼の心にクロの言葉が蘇った。

「運命を弄んだ者には必ず代償がある」

信一は、クロの警告が脳裏に焼き付くように響いているのを感じた。自分がここで宮沢を操作すれば、さらなる運命の操作が待っている。代償は避けられない。彼はそのことを理解していた。


しばらくして、信一はペンを下ろし、ノートを見つめた。その視線にはかすかな涙が滲んでいた。

「…俺には、もう戻れないんだな」

そうつぶやいた瞬間、信一はペンを持ち直し、迷うことなく宮沢刑事の名前を書き込んだ。彼の運命に何が起こるかを想像しようとしないまま、ただ自分がこの地獄から逃れられることだけを願った。

翌朝、信一はニュースで宮沢刑事が急病で入院したことを知る。その容態は重く、意識も戻っていないという。信一は恐怖と安堵が入り混じった感情に苛まれた。罪悪感が襲いかかってくるが、それと同時に、彼は逃れられたというほのかな安堵を感じた。

だが、その夜、再びクロが現れた。クロは信一の心を見透かすように微笑んだ。

「おめでとう、信一君。君は、自分で選んだのだね」

信一は震えながらクロに向き直った。

「俺が選んだのか? 自分の意志でこんなことを…?」

クロは冷酷な笑みを浮かべながら言葉を続けた。

「そうだ。君が選び、君が代償を払う。それが、このノートの本当の意味だよ。君は他人の運命を操ったが、代わりに自分の運命を失っていく。運命に逃れはない」

その言葉が信一の心を深く突き刺し、彼は全てを理解した。ノートの力に取り憑かれ、他人の人生を弄んだ代償として、自分の人生はもう、クロの言う「暗闇」に飲み込まれてしまったのだ。

信一は最後の抵抗として、ノートを手放そうと決心するが、彼の手は動かない。ノートは、彼の運命を完全に絡め取り、もはや彼の手から離れることを拒んでいた。

「これが…俺の選んだ道なのか…」

信一は深い絶望の中で、自らの選択の結果を呆然と見つめていた。そして、彼は知る由もないままに、すべてが終わりに向かって進んでいたのだった。

第六章:運命の代償

信一の心は完全に崩れ果てていた。宮沢刑事をノートで操作したことで、一時的な安堵を得たものの、その後、彼の心には空虚感と深い罪悪感が取り憑いていた。クロの言葉通り、運命を弄んだ者には代償が伴う。それを痛感しながらも、信一にはもうこの力から逃れる術がなかった。

宮沢刑事の入院から数日後、信一の周囲にはさらに多くの異変が起こり始めた。最初に、彼が名前を書いた友人や知人が次々と奇妙なトラブルや事故に巻き込まれていった。彼が意図した変化は、やがて逆転し、彼らの人生を暗い影が覆うように蝕んでいった。

涼太は退学後、心身ともに疲弊し、日常生活すらもままならなくなっていた。後輩の真希もオーディションでの成功を手にしたはずが、突然の中傷や噂によって業界から締め出されてしまった。ノートを使って運命を変えた全ての人々が、不幸な結末に引きずり込まれていくのを、信一はただ見守るしかできなかった。

「俺が…俺がみんなを不幸にしているのか…?」

信一の声は震え、涙が頬を伝う。しかし、ノートを手放すことも、元に戻すこともできない。クロの言葉が再び頭に響く。

「運命を弄んだ者には、必ず代償がある」

信一は自分が何をしてしまったのか、その重さを全身で感じていた。彼はノートの呪縛から逃れるために何度も手放そうとしたが、ノートはあたかも彼の手に吸い付くように離れなかった。何度試しても、ノートは彼の元へ戻ってきた。


ある夜、信一のもとに再びクロが現れた。クロは彼の憔悴した顔を見て、静かに言葉をかけた。

「信一君、これが君の選んだ運命だよ」

信一はクロに向かって叫んだ。

「なぜだ!なぜこんなことをしたんだ!俺が一体何をしたっていうんだ!ただ少し運命を変えたかっただけなのに…!」

クロは無表情で信一を見つめ、冷たく答えた。

「君は、他人の運命を勝手に弄び、己の欲望を満たした。それがどれほど罪深い行為か、理解できていなかったのだろう。しかし、今になって君は知ったはずだ。運命とは、人が勝手に操れるものではない」

信一は涙を流しながら、クロにすがるように訴えた。

「お願いだ…全て元に戻してくれ。俺がやったことを無かったことにしてくれ…」

しかし、クロは冷たい視線を崩さずに言った。

「一度選んだ道を戻ることはできない。君が運命を弄んだその代償は、君の一生をかけて背負わなければならないのだ」

その言葉を聞いた瞬間、信一の中にわずかに残っていた希望が完全に砕かれた。彼の顔は愕然とし、目の光が消えていくようだった。


その日以来、信一は日常から姿を消した。大学にも行かず、友人や家族とも連絡を絶った。彼の住む部屋には、彼の存在を示す痕跡は何も残されていなかった。ノートだけが、机の上にひっそりと置かれていた。

月日が流れ、信一の失踪について知る者は誰もいなくなった。彼が運命を操った人々も、少しずつ彼の存在を忘れていった。しかし、彼らの心には、なぜか理由の分からない不安と空虚さが残り続けた。

信一が最終的にどうなったのか、誰も知ることはなかった。彼は、運命を変えようとした代償として、全てを失った存在となり、世の中から完全に消え去った。


ノートは、今もどこかに存在し、誰かが再び拾うのを待っているのかもしれない。運命を操る力を手にした者が、再び同じように破滅の道を辿るかどうかは分からない。しかし、そのノートには、今も最初のページにただ一言だけ書かれている。

「このノートに名前を書かれた者の運命は変わる」

信一の物語は、静かに幕を閉じた。しかし、彼の選んだ運命の代償は、永遠に誰かの記憶に残り続けることだろう。

おわり

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