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エシカル系消費者は実写ムーランを観るのか

ムーランを切り口に様々な問題や、今の政治的状況をざっくり拾ってきました。
欧米諸国と中国の対立が深まる中、はたしてエシカル派の人はどう判断していくのでしょうか。

実写ムーランの疑念に火がついた発端

☑︎ 米中の対立は激しさを増している
☑︎ アメリカ国籍の主演女優が香港警察に関して中国政府寄りの発言をしていた
☑︎ 香港警察は香港市民ならびに欧米諸国から倫理的な観点で非難されている

実写ムーランについて、色々騒ぎはありましたが、火が大きくなった発端の事件はこれだと思います。

発端は、同作に主演するリウ・イーフェイ(劉亦菲)が2019年、香港の民主化デモを暴力で抑え込もうとする同地の警察が批判されるなかで、警察を支持する考えを表明したこと。彼女は、中国版ツイッターと呼ばれるウェイボー(微博)に「私は香港警察を支持します。誰に批判されても構いません。香港は、なんて残念なことなのでしょう」と投稿していた。

イギリス政府は香港市民への特別ビザ発給を表明したり、アメリカも少なからず中国に対して厳しい立場をとっている最中、ディズニー実写映画の主演女優が2019年に中国政府寄りの発言をしていたのが掘り起こされて、騒ぎになっています。

2019年というと、香港警察と香港市民が「集会結社の自由や表現の自由、報道の自由など基本的人権」をかけて激しくぶつかっていた年です。

 それによると香港の警官は、現地の法律や国際基準で許容される範囲を超えた警察力を日常的に行使していたとされる。「逮捕された調査対象者はほぼ全員、逮捕時に警棒やこぶしで殴られたと証言した。抵抗しなかった人も例外ではなく、既に拘束されているのに殴られた事例もあった」と報告書は述べている。

こういった警察の暴力行為が数多く報道されていたので、香港警察のイメージは良い物ではありません。

しかも、最近の香港警察は、12歳の少女に対して大人3人がかりで押し倒して捕まえたことで非難されていますしね。

 【香港共同】香港で国家安全維持法(国安法)反対などを訴えた市民ら289人が逮捕された6日の抗議デモで、香港警察が買い物中の12歳の少女を押し倒して制圧していたことが分かり、過剰な取り締まりだと批判が出ている。香港メディアが7日報じた。

うーん、あまりにも大人げないのでは。

実写ムーランの公開によって主演女優にもスポットが当たり、過去の発言が掘り返されて炎上するのも当然かも知れません。

イギリス政府が中国に対して厳しい態度を取る理由

☑︎ イギリス政府と中国政府は香港返還前の1984年、「一国二制度」を維持することで合意していた
☑︎ 香港では2047年まで、集会結社の自由や表現の自由、報道の自由など基本的人権が保障されるという約束も含まれていた
☑︎ しかし、中国政府が香港に対する厳しい国家安全維持法(国安法)を施行したため、事実上一国二制度が崩壊してしまった

イギリス政府が特別ビザの発給措置を発表したのは、2047年まで維持されるはずの一国二制度が崩壊したから。

イギリス政府は22日、約300万人の香港市民がイギリス市民権を獲得できるようになる条件を公表した。中国政府が香港に対する厳しい国家安全維持法(国安法)を施行したのを機に、イギリスは対応に動いていた。

プリティ・パテル英内相は、1997年の香港返還以前に生まれた香港市民が持つことができるイギリス海外市民(BNO)パスポートの保持者と、その扶養家族は、来年1月からイギリスの特別査証(ビザ)を申請できるようになると発表した。
イギリス政府と中国政府は香港返還前の1984年、「一国二制度」を維持することで合意。英中共同声明と呼ばれるこの合意には、香港では2047年まで、集会結社の自由や表現の自由、報道の自由など基本的人権が保障されるという約束も含まれていた。

そもそも2047年まで待てば、香港は他の地域と同じように中国の制度に同化していくはずなのですが、それを押し切って国家同士の約束を破り、香港の制度を変えてしまった事に対して、イギリスは怒っているわけです。

配信で発覚した新たなる問題

☑︎ 以前から新疆ウイグル自治区では、ウイグル人やカザフ人に対して、収容所への大量連行や不妊手術の強要、強制労働、信仰や移動の厳しい制限といった弾圧が行われている
☑︎ ディズニーがそうした政策を推し進めている機関にエンドロールで深い謝意を表明していた

早速ムーランを観た人が、エンドロールで新疆ウイグル自治区が撮影地にされていた他、各中国政府機関や中国共産党関連の機関に深い謝意を表明していたとSNSで拡散されて炎上中です。

ディズニーの新作実写映画「ムーラン」で、撮影の一部を中国・新疆ウイグル自治区で行っていたことが明らかになった。新疆をめぐっては、中国政府がイスラム教徒のウイグル人を迫害しているとして、国際的に批判が出ている。
 視聴者らは、同作のエンドロールでディズニーが「深い感謝」の意を表明した協力機関に、新疆ウイグル自治区の8政府機関が含まれていることを発見。その中には、複数の収容所の所在地として知られる同自治区東部トルファン(Turpan)市の公安当局や、中国共産党のプロパガンダ機関の名もあった。

 新疆ウイグル自治区では、イスラム教徒系少数民族のウイグル人やカザフ人に対して収容所への大量連行や不妊手術の強要、強制労働、信仰や移動の厳しい制限といった弾圧が行われていることが、人権団体や学者、ジャーナリストらによって暴かれてきた。

この新疆ウイグル自治区、様々な問題があると報道されていますが、特に最近はウイグル女性を対象にした避妊や不妊手術を強制しているとされる情報が出ています。

中国の少数民族ウイグル人が多く住むこの2地域の当局は、1年間に18~49歳の女性の14~34%に不妊手術を実施する目標を掲げた。人口に対する割合では、1998年から2018年までの20年間に中国全土で実施されたよりも多くの不妊手術が計画されたことになる。

新疆ウイグル自治区保健委員会の文書を見ると、ウイグル人が多数を占める南部全域で、2019年と20年にこうした計画が立てられたようだ。

中国西北部の新疆ウイグル自治区では2017年以降、ウイグル人、カザフ人などテュルク系の少数民族が最大で180万人強制収容所に入れられた。これはホロコースト(ナチスのユダヤ人大虐殺)以降では世界最大規模のマイノリティー排除の暴挙である。亡命ウイグル人らはこの動きを「文化的なジェノサイド(集団虐殺)」と呼ぶ。

文化的どころか紛れもないジェノサイドと言っていい。国連のジェノサイド条約には「集団内の出生を防止することを目的とした措置を課すこと」は集団虐殺に当たると明記されている。私は米シンクタンク・ジェームズタウン財団と共に先月発表した調査報告書で、中国当局が新疆ウイグル自治区でまさにこれに該当する行為を行っている証拠を示した。

つまり、こういった問題政策に加担している期間に対して、米国企業であるディズニーが深い謝意を表明してしまうのは、人道的・倫理的に問題があると非難されています。

欧米諸国の映画館は難を逃れたのかもしれない

☑︎ 実写ムーランはコロナ禍で打撃を受けた映画館の立て直しにと期待されていた
☑︎ しかし、実際には欧米諸国での劇場公開は断念され、配信リリースになった
☑︎ チェコ上院議員のJFKリスペクト演説「私はベルリン市民だ(ベルリン市民はローマ市民と同じく誇り高い、共産主義に屈しない)」がされ、EU主要国は中国批判

☑︎ もし劇場公開されていたら、今頃ボイコットの嵐だったかも知れない

以前にも、実写ムーランは劇場にいち早く供給するはずの前提を覆して、一部の国では劇場公開せず、「Disney+」での配信を決定して映画業界から反発されていました。

『ムーラン』の劇場公開断念は、アメリカ以上に、イギリスをはじめとするヨーロッパの映画館業界に甚大なダメージを与えるものだ。新型コロナウイルスが猛威をふるい、映画館が営業停止状態にあったヨーロッパ各国では、ようやく復活に向けて劇場が動き始めたばかり。業界再建のカギを握る一作として、『ムーラン』には大きな期待がかかっていたのである。

ムーランのパネルを破壊する支配人の映像は迫力がありましたよね。

しかし、キャンセルカルチャーが横行する昨今では、もしかしたらムーランの上映をボイコットする映画館も出た事でしょう。

キャンセルカルチャーの説明については下記です。

コールアウト・カルチャー(英語: call-out culture)または アウトレイジ・カルチャー(英語: outrage culture)[1]とは、晒の形式のひとつである[2]。あるコミュニティの成員が犯した悪事を特定し、その人物を公的に呼び出して、恥じ入らせたり罰したりする行為を指す[2]。
この用語の変種であるキャンセル・カルチャー(英語: cancel culture)は、ボイコットの形式のひとつである[3]。公的に呼び出された人物が社会的な仲間集団や職業的な仲間集団から追放されることを指す[3]。彼または彼女は「キャンセルされた」と言われる[3]。この事象はソーシャル・メディアと現実世界の両方で確認されている[3]。
キャンセル・カルチャーに関して使用される場合の「キャンセリング」(英語: cancelling)という表現は、2015年以降に使用されており、2018年からは広範に使用されている[4]。

しかも、9/1にはチェコの上院議員が台湾支持を表明しています。

 【台北=矢板明夫】台湾訪問中のチェコのビストルチル上院議長は1日、台北市の立法院(国会に相当)で約45分間演説し、台湾の民主主義をたたえた上で「私は台湾人」と強調、台湾への支持を表明した。外交関係のない国の議会議長が台湾の立法院で演説するのは初めて。

 ビストルチル氏は演説の冒頭、今回の台湾訪問はチェコの上院で96%の支持を受けたと説明。中国が訪問に反発していることを念頭に「世界各地の議会は、民主主義の原則と自由の精神を守らなければならない」と強調した。その上で「国会で作る法律は人々を守るためのものであり、人々の自由を制限するものであってはならない」と語った。

 ビストルチル氏は、ケネディ元米大統領が東西冷戦時代の1963年、共産主義体制による脅威の最前線にあった西ベルリンでの演説で「私はベルリン市民」と訴え、支持を表明したことに言及。「私も自分の形で台湾への支持を表現したい」と述べた後、中国語で「私は台湾人」と訴えた。

この「私はベルリン市民」という言葉、かなり威力があるらしくチェコのみならず、EU全体として反中国側として立ち回らざる得なくなったようです。

すごい政治的駆け引き。

中国政府の強引な政策に対する反発に加え、政治的駆け引きを鑑みると、余計にムーランに対するキャンセルカルチャーは避けられなかったかも知れません。

そもそも最近の映画業界は中国に忖度しがち

☑︎ 映画業界では中国での興行収入が米国を上回りそう
☑︎ ディズニーも中国政策に対して配慮した作品(マーベルなどで)を作成している

映画業界は斜陽産業って雰囲気ですが、それでも年々頑張って新作を出しています。
映画で稼ぐには当然ウケる物を出さなければいけないので、市場の大きさによって傾向を変えるのはあるあるです。
最近は中国市場が美味しいので、忖度しまくっているよう〜って話。

ハリウッドの映画スタジオは、中国政府の機嫌を損ねないように自ら検閲を行っているとのレポートを米国のNPO団体が発表した。中国での映画の興行収入は、間もなく米国を上回ると予想されており、このトレンドは今後も続いていきそうだ。

自由な表現を擁護する米国の非営利組織PEN Americaは8月5日、米国の映画スタジオの多くが、中国で上映権を獲得するために映画の内容に修正を加えていると指摘した。

2019年の中国での映画興行収入が約95億ドル(約1兆円)に達した一方で、米国の映画興行収入は前年から4%マイナスの115億ドルだった。

PEN Americaによると、米国の映画スタジオは中国での人権の抑圧や、議論を呼ぶチベットや台湾関連の問題に向き合うことを避けているという。

中国でロケを行なったり、魅力的な作品を作り中国で売り上げを伸ばすためには、中国政府に忖度することが重要、という事ですね。
(そもそも映画業界のみならず、芸能業界って制作過程で倫理的・道徳的な面に問題があることは多いので、特定の国に対して忖度することは珍しくないはず)

「外資規制が強い中国において、2016年に上海にディズニーランドが開業するなど、ディズニーは中国にいち早く進出し、中国政府と蜜月関係にあるコンテンツ企業として知られています。中国ではまだDisney+の提供は開始されていませんが、『ムーラン』は中国では劇場公開が決まっています。
 Disney+と同じくネット配信大手のNetflix(ネットフリックス)も、数年前に中国のネット配信会社とコンテンツのライセンス契約を結び、事実上、中国市場に進出しており、中国語コンテンツの制作・配信を増やしています。

ディズニーもこれは然りで、やっぱり巨大市場に対して忖度しない状況は考えられないってことでしょう。

まとめ

☑︎ 実写ムーランは特定の少数民族に対して弾圧を行なっている新疆ウイグル自治区で撮影され、エンドロールで弾圧に関わっている各主要機関に深い謝意が表明されている
☑︎ 現在はイギリス、米国をはじめEU主要国でも中国政府批判が行われている
☑︎ 新疆ウイグル自治区、香港の一国二制度崩壊に対して批判する人達は実写ムーランの視聴ボイコットを呼びかけている

いやもう、実写ムーランはいろんな問題がてんこ盛りで、エシカルの度合いとしてはかなり踏み絵的な作品になりそうです。
かくいう私も実写ムーランはちょっと楽しみではありましたが、ちょっと直ぐには観る気になれなさそう…。

人権意識高めのエシカル消費者であれば実写ムーランは見ないでしょうし、作品に罪はないとする立場の人であれば実写ムーランを観るでしょう。
しかし、エシカル消費者な態度を示すことで富裕層なスタイルを押し出したい人は悩ましい問題になるのではないでしょうか。

このままキャンセルカルチャーが白熱すると、欧米諸国では公開停止なんてこともあり得そうですし、その前に見るだけ見ちゃおうって人も中にはいそうです。


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あひる
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