僕達は。4

寮生活が始まって1ヶ月経って鷹博とも結構うちとけて来た。 
  
  
「…さて、飯作るかな」 


鷹博がキッチンに向かう。 
…鷹博もこの1ヶ月で随分変わった。 
悠樹や要人達と友達になって、みんなと楽しく過ごしていくうちに最初の暗さがなくなった。 
言葉の端々に棘はあるものの、最初に感じた怖さもなくなった。 

けど気になることがある。鷹博の腰には傷がある…。ヘルニアの手術をした祖父と同じような傷だった。
けど高一でヘルニアの手術なんてするだろうか。
未だその理由を聞けずにいる…。
 

「…テスト期間は俺が飯作ってやるよ」

 
今週からテスト週間に入ってみんなゲンナリしているのに 
鷹博だけがいつもと同じように飄々としていた。 
  
  
「鷹博はテスト勉強しないの?」 
  
「……。千尋が開けてるのは数学の何ページ。」 
  
「…?21ページ…」 
  
「……問1、X=-√5」 
  
「…え…?あ…」 
  
「ま。そんな感じだから。」 
  
「…どうして?」 
  
「……。覚えてんだよ、全部。」 
  
「……え」 
  
「頭の中に図書館があるようなもんだよ。」 
  
「そ、そうなの…」 
  
「まぁ、そういう事だから。お前はゆっくり勉強しろよ。」 
  
  
  
驚いた。 
そんな事ができる人がいるなんて。  
左利きだから? 
…そんな事関係ないよね…。
  
  
試験期間中鷹博はせっせと毎食ご飯を作ってくれた。 
いつものように空を眺めたり、パソコンをつついたり、寮を脱走して散歩に行ったりしていた。  
僕は必死で覚えてるのに羨ましいな…。 
 
 
 
 
ーーー 
 
 
試験が終わって、順位が出て、もっと驚いた。 
  
  
1魅影鷹博 495点 
2相原千尋 490点 
  
  
ざわつく人達。
鷹博を見てひそひそと話す人達。
まぁそうなるのも当然だろうな…。 
僕だってそんな点数とるなんて思ってなかった。 
僕だって見惚れる。 
なんせ5点しか足りてないのだから。 
見事としか思いようがない。 
  
  
「…容赦ないね、鷹博」 
  
「惜しかったな?あと五点で俺より前に名前が載ったのにな?」 
  
「…いいよそんなの。順位なんて気にしてないから」 
  
「へぇ?そんなキャラだったんだ?張り合いがねぇな。」 
  
「答えを相手に勝負しているようなものなのに、それに対してどんな闘争心を持てっていうんだよ…。 
鷹博が書き間違える事を祈れっていうの?」 
  
「そうだよ。お前が満点狙うとかさ。」 
  
「無茶な勝負は嫌いだよ…。僕は持てる力を出し切れればそれでいいよ」 
  
「ったく。面白くねぇな…」 
  
「あれが魅影だよ。すげーよなー。うらやましー」 
  
「へーえ、綺麗な顔して頭もいいとか出来過ぎて気持ち悪いな。」 
 
「天才さまだもんな。絶対なんかすげー変な癖あるよな。」 
 
「ありそうありそう」 
  
「……。」 
  
「……。」 
  
  
  
…ずっとこんな風に、変な物を見られるような目で見続けられてきたんだろうか  
確かに僕だって羨ましい。凄く、羨ましい。 
でもこんな風に、ずっと嫉妬され続けるのはきっと… 
  
  
  
「…帰ろう。教室に。」 
 
「…そうだな。」 
  
 
きっと辛い。 
とても、…辛い。 
  
  
「あと5点は何を間違えたの?」 
  
「ワザと間違えて遠慮した。」 
  
「…たった5点なんて遠慮したうちに入らないから…」 
  
「…そう?」 
  
  
…でももしかしたら、
感覚が違い過ぎて自ら敵を増やしてきたのかもしれないな…。 
 
 
「…さっきの人達の事、どう思った?」 
 
「別に。日常茶飯事だから。」 
 
「…やっぱり、よく、あったんだ…。辛いよね。」 
 
「…。別に。」 
 
 
順位表から離れて鷹博と一緒に教室に向かって歩く。 
  
僕の前を歩くふわふわの栗色の猫毛の彼が495点を叩き出してるんだ…。
しかも寮は同じ部屋、なんだよね…。 
…なぜか心臓が高鳴ってくる。 
  
  
「…、格好いいな。鷹博。」 
  
「…は。」 
  
「男の僕から見ても格好いいから、女の子は…ほっとかないだろうね…」 
  
「…、さぁな。」 
  
「…本当はモテるんじゃないの?」 
  
「知らない」 
  
「…そう…」 
  
  
とは言うものの、きっとモテるんだろうな。でも割と面倒くさがりな所がある。 
だからワザワザ男子校に来たんだろうか…。 
  
  
  

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