稲光の照らす教室で

 今日幾度目になるか。
 初めの方は数えていた稲光に照れされる教室のなか、俺は教室で女子生徒と対峙していた。名前は知らない。と、いうかこんな機会がなければ決して関わらないであろう女子だ。
 顔立ちははっきりしており、体つきも豊満。加えてそれを強調するかのような服を着ているのだから、場所が場所なら声をかけてくる男もさぞや多かろう、という出で立ちだ。
 そんな女子生徒と対峙しながら、俺はまったく心が浮き足立つこともなく、むしろ冷や汗をかいていた。スクールカーストの最底辺で誰の目にもとまらないように過ごしている俺が、どうしてこんなにも冷静でいられるのか。それは、彼女が右手に握ったものにある。
「ねぇ、こんな風に雷光と豪雨の夜は、サスペンスが似合うと思わない?」
「残念だけど、それで僕が発見されるのは明日の朝。雷光と豪雨とは関係ない場所で発見されるよ」
「あら、別に構わないわ。大切なのは私のイメージだもの。あなたが明日の朝この教室で発見される。そしてそれを友達から聞いた私が、稲妻に照らされる教室で倒れるあなたを想像でする。それが大事なの」
「むしろ僕としては君のその握ったもので倒れることが前提になっていることが残念で仕方がないんだけど・・・・・・」
「あら、その結果になることはあなたが一番よくわかっているでしょう?」
 不本意ながらね、と俺は心の中で返事をする。
「さぁ、観念なさい」
 いやだ、と思いつつも、俺はその道が用意されていないことを知っている。
「観念して、これを食べるのよ」
 そう言って突き出してきた右手には何かが入ったビニール袋。これまで幾度となく食べさせられ、そのたびに俺の意識を奪ったものがある。
「・・・・・・少しは上手くならないの?」
「美味くなったらあんたには食べさせないわよ」
 そりゃそうだ、と思いつつ、俺は覚悟を決めてその袋を手に取った。

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