常連の証
頭上からの太陽の光は殺人的なレベルまでその威力を増していた。ましてやそれが逃げ場のないあぜ道だと太陽光線から逃げるすべはなく、ただただ身を焼かれるのを甘受するしかない。
が、その地獄ももう終わりだ。
視線の先。
そこにはまるで砂漠にあるオアシスがごとき存在がある。
彼はまるで誘蛾灯に導かれる蛾のようにその存在に引き寄せられていった。
「ラムネ一つ」
喫茶店に入り、いつものようにラムネを注文する。
彼の注文を受けた喫茶店の店主は、一度彼に頭をさげると、カウンターの下からラムネの瓶を取り出すと、瓶の表面についた水滴を拭き、それをそのまま彼の眼の前に置いた。
彼もそれを当然のように手に取り、そのまま口つける。
炭酸が喉を焼いていくかのような感覚を楽しみながら、そのどこか懐かしい味を満喫する。
ラムネを飲み、人心地ついた彼は店内を見回す。店の中央にあるカウンター席からは、店内がよく見渡せる。
まずは右手側。誰もいない。
続いて左手側。こちらには3人組の女子が座っていた。
どうやら今日はまだ人があまりいないらしい。
まだ太陽のもとに出ていく体力は回復しておらず、特にやることもないので、女子たちの方をそれとなく観察する。
テーブルの上にはそれぞれコップが置かれており、色から判断するに皆オレンジジュースのようだ。
それをみた彼はどうやら彼女等がこの店の常連でないようだ、と判断し、内心で密かな優越感に浸る。
ラムネを注文し、それを瓶で出してもらえる。それがこの店の常連の証なのだから。