雷槌

830文字ぐらいか

戦う二人を外から諌めるヒトの話


 一段と強い風が吹き、野に生える草を撫でていく。
 その風が吹き抜け、目に届く範囲の草が風の影響を受けなくなった頃になるとまた風が吹く。
 空には雲。まるでこれから起こることの不吉さを予言するかのように重苦しく黒い雲は、それほどの時間をおかずにここら一帯の湿度を押し上げるだろう。
 それまで上空を見上げていた視線を下へ。
 人が何人乗ってもビクともしないような太い枝に座ったままで、草原で行われている果し合いの観察を再開する。おそらくあの雲が直上に来れば、湿度が上がるだけでなく、稲光も大地を照らすだろう。
 そうなれば流石にこの果し合いも終わるだろう、と思うが、実際のところどうかわからない。なにしろ今戦っている二人は無類の戦闘狂だ。無類の戦闘狂が二人集まれば、どちらがより優れているかを確かめずにはいられない。
 首を少し傾ける。
 それまで顔のあった位置を、斬撃だろうか、何かが通り過ぎて行き、私の髪の毛を2、3本断ち切っていった。
 私はため息をつく。
 すると、野に一段と強い風が吹き抜けていった。野に生える草が押し倒され、風の通った場所をまるで大型の獣が通ったかのような有様になる。
 少しは戦闘が弱まるかと思ったが、それを機に二人の戦闘はより一層激しさを増した。まるで早く決着をつけなければ戦闘を続けるのがむずかしくなる、と思っているかのように。
「でも、もう終わりよ」
 もう一度息を吹きかける。すると先ほどよりも強くなった風が吹いた。
 戦闘が激しくなり、私に飛んでくる斬撃も多くなった。斬撃を少し体を動かすことで避けてきた私だが、ついに飛んできた斬撃が私の座っている木の枝を切り落とした。
 切り落とされた枝が地面につくかつかないか、というタイミングでついに紫電が周囲を照らした。
 私は立ちあがる。
「いい加減にしてもらおうかしら、私の庭で戦うのは」
 私は幾筋もの雷光をともないながら戦う二人に歩み寄っていった。
 二人の驚いたように見開かれた目がこちらを向く。それを小気味良く思いながら二人に雷の鉄槌を下す。
 まったく、争うのは勝手だが、争う場所のことを少しは考えて欲しい。誰もいないと思っても、本当に誰もいない場所などないのだから。

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