トラウマになった文学【Part 1】メアリー・シェリー著「フランケンシュタイン」
人生の中で読む機会があって、特に心に刺さった世界文学を皆さんにお伝えします。
第一回は「フランケンシュタイン」。イギリスの作家、メアリー・シェリーという女性が書きました。
世界的に誤認されていますが、歪な姿かたちを持った怪物がフランケンシュタインという名前だと思い込んでいる人の多いこと。
ハロウィンなどで灰色の肌で釘が頭に刺さり、生々しい縫い針が顔中に走っているコスチュームを着る子供は、「自分は今年はフランケンシュタインなのだ」とはしゃぎます。
しかしその名は、怪物を世に生み出した科学者ヴィクトル・フランケンシュタイン博士のものなのです。
実際に物語を読むと、始終怪物には名前がないのに気づきます。
見た目のグロテスクさとは裏腹に、彼は純粋な魂の持ち主。なぜ自分だけが恐れられるのかすらわからないまま生み出された研究所を後にします。
親のヴィクトルはそのころには神に背いた自分の行為に恐れおののいて逃げた後でしたが…。
物語はヴィクトル視点で進みますが、怪物は知性と言葉を身に着けた後自分の存在意義を彼に尋ねに来ます。
抑えられない科学的好奇心という人間の性を代表するヴィクトル博士。
純白な魂をもって生まれるも、その姿が理由で憎しみを向けられる怪物。
博士は自分の「シャドウ」を生み出し、それから逃げ回ることになります。
彼ら二人が初めて対面して言葉を交わすシーンは、ひたすら博士に向ける怪物のまっとうな困惑と懇願が読んでいて胸を痛めました。
勧善懲悪ではなく、読み手は博士の立場も怪物の立場も理解・納得できるので切ないのです。
怪物が生み出されてから経験したことすべてに共感できるため、物語はヴィクトル博士目線で書かれています。博士は一人の人間として幸せを求めるものの、常に呪いのように付きまとう怪物への危惧に取りつかれていくのです。
名作を代表する物語の一つですが、驚くべきは著者のメアリー・シェリー。
何とこの物語を書き上げたのは彼女がわずか19歳の時なのでした。
フランケンシュタインが生まれた背景を今風に言い換えると、「作家志望サークルで一人ずつ何か書いてくる」というノリ。
サークルのメンバーとウェ~イとそれぞれの物語を楽しむために誕生した作品なのです。
それにしては重すぎませんか、テーマが!
原作を読んで何年も後に伊藤計劃氏が書いた「屍者の帝国」を読んで、初めてフランケンシュタインをクラスで読まされた…ではなく読んだ時を思い出したのでした。
大人になった今はトラウマほどには刺さりませんでしたが、この作品が生まれた背景や著者のこと、テーマが自分の心に居場所を確かに作りました。