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綺麗事抜きの公営競技指南 競輪編その1
「三競オート」という言葉があります。日本国のお墨付きを得ている賭博である競馬、競輪、競艇、オートレースの4競技、いわゆる公営競技を指す言葉です。
ホモの文豪や胡散臭い司会者の啓蒙が効いたのか、世間では中央競馬ばかりがクローズアップされがちですが、これが私には我慢なりません。
そこで今回は新企画として「綺麗事抜きの公営競技入門」と称し、公式サイトやポータルサイトが決して書かない公営競技の暗部にもクローズアップした公営競技の指南書を作ろうと思った次第です。
とりあえず第1弾として、かの阿佐田哲也が麻雀を差し置いて「ギャンブルの王様」と称した最も奥深く、綺麗事抜きの競輪を軽く紹介させていただきます。
競艇で八百長が発覚し、地方競馬でも関係者による馬券の不正購入が発覚した中、一番「八百長」という言葉とセットで語られがちな競輪が特に音沙汰なしです。
これは他では八百長と言われるような行為がすでに競輪の一部になっているからでもあります。そしてそこが競輪の醍醐味なのです。
競輪のフォーマット
競輪は9車で2000m走るのが基本です。7車のレースも増えていますが、これについては次回以降に譲ります。
1番車から順に白、黒、赤、青、黄、緑、橙、桃と続くのは競馬同様ですが、9番車は紫です。この枠ごとに決まった色という文化は競輪が最初に始めたものです。
競馬のように選手独自のデザインは無く、基本的にこの一色ですが、最近はスポンサーが付いて広告が入っている選手もいます。
9車がスタート地点に着くと、その前にもう一人、先頭誘導員という競技に参加しない選手が控えています。競輪初心者が不思議がるポイントその1です
風圧をもろに受けながら2000mを全力疾走して逃げ切るのは人間の力では不可能です。自転車競技とはいかに風を避けるかという競技なのです。
そこで先頭誘導員が途中まで風除けとして選手を先導します。その間に選手は思い思いの位置を取って縦一列で走り、大体残り800mで誘導員が退避してからが競走の本番です。
ラインは八百長か?
この隊列が競輪の肝になります。競輪を競輪たらしめている「ライン」という奴です。これをまず覚えないといけません。
競輪選手は全国各地にある特定の競輪場を拠点に活動し、それぞれどこの県所属と登録地が定められています。そして主に同じ地区に所属する選手同士で組んで走るのです。
即ち、馬力のある自力型(ウマとも呼ぶ)の選手を先頭に、数人の選手が並んで隊列を組むのです。自力型の後ろを番手と呼び、番手を専門にする選手をマーク屋と称します。
競輪はいわばライン同士の戦いです。タイミングを見計らってウマは先頭目指して発進し、マーク屋はウマに風除けになってもらいながら付いて行きます。
マーク屋はウマに引っ張ってもらう代わりに身体を張ります。例えば以下のよう3つのラインが走っていると仮定しましょう。先手を取った1番が「逃げ」を打っている状態です。
他のラインは機を見て先頭を奪わんと「捲り」を仕掛けてきます。というわけで7番車が捲りを打ってきました。
ここでマーク屋は根性を見せなければいけません。捲って来た7番車をブロックします。要はぶつけます。競輪は格闘技と称されるゆえんです。このブロックが甘いと捲られてしまいます。
3番手の3番車にも仕事があります。ここでうかうかしていると4番車にインに潜り込まれます。タイミングが悪いと2番車まで位置を奪われ、1番車は使い捨てられて4番車のラインが勝ちです。
ラインの最後尾はインを締めてこの事態を阻止しないといけません。勿論状況次第ではブロックも必要です。
つまり、競輪はいかにラインの仲間を助けるか、他のラインを潰すかという駆け引きです。義理人情、思惑、意地、色々なものが交錯してレースが動きます。
このラインを深く考えずに八百長という人がかなりいます。しかし、勝負は1対8でやるよりも2対7で、2対7より3対6でやる方が分が良いわけです。ラインとは選手が勝つために編み出した知恵なのです。
選手の心理を読む
そうして力を合わせてラインは走っていくわけですが、最後の直線まで来たらもう仁義なき戦いです。ウマはどうにかそのまま押し切ろうとしますし、番手はどうにかウマを差そうとします。
捲ったウマより逃げたウマの方が差しやすいので、マーク屋は捲り主体のウマより逃げ主体のウマを喜びます。
ラインの構成については競走前日のコメントで知れますし、競走前に脚見せと称してその順番通りに走って見せてくれます。その上で選手の成績を見ればどのラインが強いかはある程度が判断が付きます。
次の問題はライン間の信頼関係です。ここで綺麗事抜きの選手の心理を理解しておかないといけません。
例えば番手の事も考えて景気よく逃げるウマならマーク屋も頑張って守ろうとしますが、自分だけ届けばいいとばかり捲り専門のウマでは番手も自分の事を優先します。
一見逃げるのは差されやすい分損に見えますが、逃げるほどマーク屋の信用を勝ち取ることができるのです。
マーク屋にも色々居ます。能力そのものは言うに及ばず、何が何でもウマを守ってやろうとする人情派から、不利と見るやあっさりウマを捨てて自分の事だけ考えて動く薄情者まで千差万別です。
この人の番手なら大丈夫とウマが思えば思い切り良く逃げますし、こいつは信用ならないという番手ならその逆です。選手の日頃の行いをつぶさに観察しておくのが競輪の予想の肝なのです。
選手のパワーバランスを読む
また、選手同士の人間関係も観ておかないといけません。ラインは同地区の選手同士で組むのが原則ですが、余り者同士の急造ラインもしばしば組まれます。これはお互いその日限りの関係なので基本的に割り引いて見ないといけません。
同地区よりも同じ県、更に普段一緒に練習をしていたりすると当然お互いの事を深く考えます。
そして競輪選手は必ず師匠を持つ事になっています。師弟関係もまちまちですが、こういう深い関係はラインにも競走展開にも大変な影響を及ぼします。
番手の順番もこの辺のパワーバランスの兼ね合いで決まります。俺の方が明らかに強いから、俺の方が先輩だから、ウマと同県だから、色々な要素が絡み合ってラインの並び方は変わります。
この辺のパワーバランスが最も顕著に出たレースを紹介しましょう。2013年の年末に行われたグランプリです。
当時最強のウマとされていた深谷知広の番手に付いたのは金子貴志。3番手には浅井康太。金子より浅井の方が若くて強いのですが、金子は深谷の師匠なのでこういう並びになります。浅井としても師匠を三番手にするわけにはいきません
そして深谷は非常に早いタイミングで逃げを打ち、最後の直線で力尽きるのを承知で飛ばし、金子が優勝を飾りました。時に競輪選手はラインの仲間を勝たせるために自らを捨てるのです。
これが競輪は八百長と言われるゆえんなのでしょうが、競馬だって同じ厩舎や馬主から複数頭がレースに出て、片方がペースメーカーになるのはよくある事です。
世の中はそういう物なのです。綺麗事を唱えるよりも、現実を見据えるのが予想を、ひいては人生を成功させるためには必要なのです。
競輪はBLだ!
ここで気付いた人もいるはずです。この競輪選手の価値観は非常にBL的であるという事に。
競輪とはイキっぷりの良い若者のケツにテクニシャンのオッサンが群がり、差したり差されたりして一線を越える行為です。腐った観点だともはや深谷と金子はデキているわけです。
その他勝ち負け度外視のライバル同士の意地の張り合い、恩義に報いる為の捨て身の献身、BL要素が競輪にはあふれています。腐女子の皆様は明日から1年競輪をやり続ければ虜になることを請け合います。
綺麗事抜きと言ってもあまりに汚い話はこの辺にして、次回は競輪選手の成績の見方を説明させていただきます。
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