モータートルク測定・改
みなさんこんにちは!
今回は、新たに思いついたモータートルクの測定方法を紹介します。
はじめに
以前、モーターのトルク測定方法を書いたことがありましたが、今回は、更に正確にモーターのトルクを測定する方法を考案しました。
以前の方法は、モーターをロックさせるやり方だったのでモーターがダメになる危険性がありましたが、今回の方法はモーターを回転させながら測定するもので、モーターを痛めることなく測定ができます。
測定の方法として、モーターを3パターンの条件で回転させて各パラメータを測定し、さらに計算式によって間接的にトルクを算出するという方法をとりました。
一発でモーターのトルクが数値として出てくるものではないので、少し手間はかかりますが、電卓とメモ紙があれば比較的簡単に計算が可能です。
では、必要な道具と測定の手順を説明していきます。
必要な道具
次の6点をご用意ください。
①モーター慣らし機(電圧と電流がわかるもの)
②テスター(安物でOK)
③ワークモーター(測定するのとは別のもう1つのモーター)
④ワークモーターを使って測定対象のモーターを回転させられるテストスタンド
⑤モーター軸連結のためのカプラ
⑥モーターの回転数を測定できるアプリ(Giriなど)
それぞれについて説明します。
①モーター慣らし機
電圧を指定できて、モーター慣らし運転中に電流値を確認できる必要があります。自分は、よくある充電器の「サンダー」を使っています。「ジーフォース ミニブレークインシステム」(電流を測定できない)などは使用できません。
②テスター
電圧測定のために使用します。
自分は、アマゾンで売ってた激安(550円!)のテスターを使っています。これは、電流測定は誤差大でほぼ使いものにならないものの、電圧測定は意外にも高精度という代物です。
どうやら、電圧測定の精度が良いものは比較的安価に製造できるものの、電流測定の精度が良いものは値段が高くなるようです。
今回は電圧測定にしか使わないので安物のテスターで十分ですが、金銭的に余裕のある人は、いい値段のしっかりしたテスターを買っても良いかと思います。
③ワークモーター
これは、測定対象のモーターと軸を連結することで、測定対象のモーターを無通電で回すための動力にしたり、測定対象のモーターを通電して回転させるときに負荷として使用したりします。
性能の高さは一切必要ないので、自分は部屋に放置されていたハイパーダッシュ3モーター(レースで使いものにならないハズレモーター)を使っています。
④モーターを使って別のモーターを回転させられるテストスタンド
今回の測定方法では精度は不要なので、100均で買ってきた木製コースターと余ったビス類とゴム管で簡易的なものを自作しました。ゴム管をはめたビスでモーターを挟み込んで固定する仕組みです。
モーターの振動による騒音を軽減するために、土台にはブレーキスポンジを貼っています。
できるだけ2つのモーターの軸が揃っていた方がいいのですが、今回のトルク測定方法の性質上、とりあえず連結した2つのモーターが回りさえすればOKで、高い精度は特に必要ないので、手作業&目分量程度の精度で問題ありません。
メルカリなどで売られている3Dプリンタ製のものを使っても大丈夫です。
⑤モーター軸連結のためのカプラ
ツイッターやメルカリなどでは3Dプリンタ製の精度の良いものを見かけますが、今回の測定方法では、精度は不要です。また、大きな負荷をかけることもないので、ピニオンギヤの歯にしっかりと噛み合うような構造も必要ありません。
なので、ボールスタビを取り付けるのに使うゴム管をそれぞれのモーターのピニオンにかぶせて繋げば十分です。長さは必要に応じて調整してください。
ただし、ただゴム管をそのまま付けるだけだと、回転の振動でどっちかのモーターの方にゴム管がズレていき、モーター軸の連結が外れたり、ゴム管の端がモーター本体に接触して回転を妨げたりしてしまうことがあります。
そこで、対策として、ゴム管内部にボールスタビを入れています。
これで、ゴム管が軸方向にズレるのを防ぐことができます。
⑥モーターの回転数を測定できるアプリ(Giriなど)
これは説明不要でしょう。
測定の手順
手順①
「ワークモーターを動力として、測定対象のモーターを無通電で回し、このときの起電力(電圧)と回転数を測定する。」
写真のように、モーター慣らし機でワークモーターを駆動し、カプラーを介して測定対象のモーターを回します。すると、測定対象のモーターは発電機となり、電力を発生させます。このときの測定対象のモーターが発生させる電圧をテスターで測定するのです。また、同時にスマホアプリでこの時の回転数も計測します。
ワークモーターに付加する電圧は何ボルトでもいいのですが、この後の手順でミニ四駆に通常用いられる電圧(3V)を必要とするので、ここでも3Vにしておけば設定変更の手間が省けます。
・電圧(=起電力)(テスターで測定)
・回転数(スマホアプリで測定)
この2つの数値から、次の式によりモーターの逆起電力定数というものを算出します。
別の書き方をすると、
ということです。
逆起電力定数とは何かというと、モーターは、外部からの物理的な力で回転させると電気を発生させますが、実は、電気を流して回転させているときも、その回転によって別の電気が発生しています。この電気は、モーターへ与えられる電圧とは逆向きに発生するもので、モーターの回転を妨げます。この電気を逆起電力と言います。
逆起電力定数とは、逆起電力を発生させる性質の強弱を表すものです。数値が高いほど、より低い回転数でも大きな逆起電力が発生します。
こう書くと、低い方がよいもののように聞こえてしまいますが、逆起電力定数が低いと回転数は上がるもののトルクが小さくなる傾向にあるので、一概に低いからダメというものではありません。
両軸マッハの場合、逆起電力定数は、だいたい0.0007くらいになります。
例えば、電圧1.8V、回転数24500rpmだったとすると、
ということで、逆起電力定数は0.0007となります。
手順②
「ワークモーターの軸と連結した状態で、測定対象のモーターを通電させて回し、この時に付加した電圧、回転数、電流を測定する。」
・電圧(慣らし機の表示)
・回転数(スマホアプリ)
・電流(慣らし機の表示)
この3つの数値と、①で算出した逆起電力定数から、次の式によりモーターの電気抵抗を算出します。
別の書き方をすると、
ということです。(少しわかりづらいですが、まず( )内の掛け算、次に( )内の引き算、最後に( )の外の割り算の順で計算してください。)
なお、電気抵抗の測定時は、負荷の大きさはいくらでもよく、電圧もいくらでもかまいません。ただし、電圧が低すぎると回転が安定しないですし、電圧がメーカーの推奨する数値を超えると予期せぬ問題が起きるかもしれないので、ミニ四駆において一般的な値である3Vが無難と思われます。
また、負荷が全くない状態だと、電気抵抗の計算結果がほぼゼロになってしまいます(トルク損失を無視して計算しているため)。なので、電気抵抗算出のための計測時は、何らかの負荷をかける必要があります。
両軸マッハの場合、電気抵抗はだいたい0.4Ω前後になると思います。電気抵抗が低いほど、回転数もトルクも高くなります。
例えば、電圧3V、逆起電力定数0.0007、回転数30000rpm、電流2Aだったとすると、
ということで、電気抵抗は0.4Ωとなります。
手順③
「測定対象のモーターに通常走行時の電圧(3V)を付加し、無負荷で回転させ、無負荷回転数を測定する。」
無負荷回転数をスマホアプリで測定します。
手順④
「手順①で算出した逆起電力定数、手順②で算出した電気抵抗、手順③で測定した無負荷回転数を用いて、次の式により起動トルクを算出する。」
別の書き方をすると、
ということです。
起動トルクとは、回転数がゼロの時のトルクで、モーターが発揮できるトルクの最大値です。
例えば、逆起電力定数0.0007、無負荷回転数33000rpm、電気抵抗0.4Ωだったとすると、
つまり、このモーターの最大トルク値は4.2[mN・m]ということです。
これでモーターのトルクを求めることができました。
以上がモータトルク測定の方法です。
おわりに
いかがだったでしょうか。
モーターのトルクを判別するツールとしては、SUWA模型さんのトルクチェッカーが比較的広く知られているのかなと思います。このトルクチェッカーは、手軽にチェックできるのが大きな利点であると感じますが、一方、負荷をかけたときの回転数の低下の度合いを相対的に比較するだけのものであり、トルクの値を数値化できるものではありません。
今回紹介した方法を使えば、相対的な比較ではなく、トルクを数値化して定量的に評価することができるのが大きなポイントかと思います。
今回紹介した方法は、複雑に見えるかもしれません。
しかし、考え方によっては、とても単純です。
トルクを求めるのに逆起電力定数と電気抵抗と無負荷回転数の3つのデータが必要だから、
①逆起電力定数を求める。
②電気抵抗を求める。
③無負荷回転数を測定する。
という感じで、トルクの算出に必要な3つのパラメータを個別に算出しているだけにすぎません。
モーター慣らし機は少し値段が張りますが、これさえ持っていれば、あとは安価な資材で測定が可能なので、ぜひお試しください!
拙い記事をお読みいただき、ありがとうございました!