留学生を受け入れたスタートアップのインタビュー/多様性で見えた相互シナジー(サグリとJA全農の話)
みなさん、こんにちは。
ベンチャー留学「Next Stage」事務局です。
これまでのnoteでは、ベンチャー留学「Next Stage」を導入し、スタートアップへ留学することで得られる効果として、留学生の変化や組織への影響について3つご紹介してきました。
今回はNext Stageで留学生を受け入れていただいたスタートアップについてご紹介します。企業から人材を受け入れるということは、どのようなメリットや効果が期待できるのか、またその成果はどのようなものなのか、実際に2024年の4月から出向という形態でJA全農の職員を受け入れている「サグリ株式会社」の小林さんにお話しを伺いました。
インタビューの席には留学生の杉村さんもご一緒し、留学当初のことから積み重ねてきたこれまでの経験、変化についてお話してくださいました。
受け入れによる3つの効果(多様性、知見の連携、シナジー効果)
事務局:
「留学生の受け入れ先スタートアップとして色々とお話をお伺いしたいと思います。このNext Stageを導入した理由は何でしょうか?」
小林:
「留学生を受け入れようよ思った理由はいくつかあるのですが、そのうちの大きな1つに、サグリが急拡大している時期に、通常の採用ルートでは得られない多様なバックグラウンドを持つ方をメンバーとして受け入れたかったことがあります。サグリが採用求人をすると、スタートアップ経験者とか、ある程度予想される層からの応募が多くなると思うんですよね。そんな中で、JAグループの中の大企業である全農から人材を受け入れることは、私たちが想像していなかったバックグラウンドを持っている方が来る可能性があるので、組織としての可能性も広がります。特に、全農の方が持つ農業領域の知見を、サグリの持つ知見と連携出来れば、さらに新しいものが生まれるのはないかと期待し、受け入れることにしました。
アクセラレーター採択の時に全農ともビジネスの接点は持てていましたが、
人材の交流があったほうがより密に連携できて、シナジー効果が生まれるのではと感じたからです。全農も新しいビジネスを模索していたのは知っていたので、留学生を受け入れることで、全農で新規事業が生まれるとか何かお返しができるのではないかと感じています。」
事務局:
「色々な理由があって受け入れてくださったんですね。お話を伺って受け入れたポイントは3つあるように見えました。
①:大企業人材受け入れによる組織の多様性確保
②:農業領域の知見の連携
③:JAグループとのシナジー効果
ということですね。」
スピード感と勘所の学び
事務局:
「もう少し多様性についてお話をお伺いしたいのですが、留学生を受け入れて具体的に感じた多様性とは何でしょうか?」
小林:
「杉村さん(全農からの留学生)は、サグリに来てギャップがあったのでは?と感じています。ギャップがあったことは良いことですし、そのギャップを率直に伝えてくれたことで、サグリの中でも自分たちの ”良いところ” と ”悪いところ” が明確になった気がします。
例えば「事業の進め方」ですが、今まで農業領域でビジネスをやっていない人からすると、この業界は進み方が遅いと感じます。それは、単純に怠けているから遅いわけではなく、農業は作物の育成や季節に関係する業界なのでサイクルがゆっくりです。そのゆっくりとしたスピードが必要であることを考えずに、サグリが独りよがりでビジネスをすることは間違っていると改めて気づかされました。農業領域だからこその進め方があり、サグリが農業領域でビジネスを展開するうえでの知見が得られたのではと思います。
また、進め方のペースもそうですが、『これを決めないとビジネスが進めない』とか『まずはこれが必要だから順番を変える』など、事業を進めるうえでの意思決定や必須条件も明確になりました。」
事務局:
「事業を進めるうえでの ”スピード感” と ”勘所” という点ですね。」
小林:
「そうです。これは逆もしかりで、全農もサグリ以外のスタートアップとも連携してると思いますが、スタートアップと仕事をするにあたっては「ここは思い切って決めなければ」というところもあると思います。そういったところはお互い知識の共有ができたのではと感じていて、『今後どうやって組んでいくのか』という糸口を知れた気がします。」
事務局:
「留学生を受け入れることで、サグリ組織の良いところや改善点、または大きな視点ではスタートアップとしての今後の事業の進め方など、さまざまな点が明確になってきていますね。」
小林:
「そうですね。サグリが、小さくビジネスを展開するにはこのままでも良いのかもしれませんが国内マーケットでの展開を考えると、抑えるべき要点や重要な要素など、サグリの文化として認識していなかったポイントも学ぶことができ、これから検討しなければいけないことが整理できたと感じています。」
事務局:
「多様性を受け入れることで、ビジネスの重要なポイントを知れたという感じですね。」
小林:
「はい。実際、農業系のスタートアップの中ではJAグループは意思決定が遅くてやりにくいという話があります(笑)でも、ただ意思決定が遅くてやりにくいのではなく、農業者がしっかりとしたメリットを得られるために慎重な意思決定をしてるんだと、私たちは感じていています。段階をちゃんと踏んでひとつづつ突破していかないと、全農やJAグループと連携するのは難しいと思いますし、そのような認識を持つことができたので、国内で展開する農業ビジネスを成長させるための必要条件のようなものが、明確になってきたかな、と。」
「お互いの手法を混ぜ合わせる感覚」
事務局:
「留学生を受け入れて、サグリの組織への影響はいかがでしょうか?」
小林:
「組織としては杉村さんのもつ、営業の進め方、抑えどころなどが組織の学びとして大きいです。営業資料がきれいとか、そういった見た目のことではなく、事前の調整や準備など、ウェットな営業スタイルを私も隣で見ていて学びましたし、組織の文化として他のメンバーも感じてきていると思います。」
事務局:
「営業面での影響が大きかったんですね。杉村さんは、そのあたりどう感じていますか?」
杉村(JA全農より留学):
「営業の話で言うと、事前準備やリレーション構築は私も大事にしてきたところです。一方でサグリに留学して、他のメンバーが持つ営業の技術や方法を改めて学んだことも多いです。自分ができていなかったところを埋めてくれるような、そういった知見を持ってる方に会えたことは自分にとって大きかったです。」
小林:
「そうですね。お互いの手法を混ぜ合わせるような感覚でした。杉村さんはもともと全農での農業支援サービスの営業やられていました。今回、サグリのサービスや営業手法を学び、これまでとはまた違った視点を得られたのではないかな、と思っています。ここで学んだ知識や技術を活かして、全農で誰も持っていない能力として今後は発揮してほしいですね。」
杉村:
「多分、留学後にもう一度、全農で営業推進をしたら、以前より視野が広がって上手くできる気がします。サグリで業務をさせていただき、視点を変えてサービスを捉えないとモノは売れないということを感じました。なので全農の持つサービスについても色々な視点から見つめ直すことで、改めて学ぶ点や切り口や見える気がします。」
新しい挑戦をスタートアップと
事務局:
「小林さんは、杉村さんの学びや成長についても、常に気にしてくださっていますね。」
小林:
「杉村さんは、とてもリーダーシップがある方だと思っています。全農は大きな組織なので、杉村さんは年齢だけで見たら下なのかもしれませんが、自分で判断する力や人を引っ張る力があるので、戻ったら新規ビジネスを立ち上げて、新しいチームを作って牽引してほしいと思っています。」
事務局:
「新規ビジネスを立ち上げる、良いですね。」
小林:
「そうですね。サグリで学んだことをフル活用して、これまでの全農だけではできなかったことを杉村さんがやってくれたら、全農という組織の成長にサグリが貢献できたことになると思います。
様々な面で多様化している農業に、全農やJAグループも柔軟に対応することが必要だと思っています。新しいことに挑戦すると失敗する可能性はありますが、その失敗やリスクをとれるような文化も持って帰ってほしいです。それが農業ビジネスを展開する、スタートアップの私たちや全農、JAグループ、お互いにとっての発展に繋がると考えています。」
事務局:
「これまでお話をお伺いして、一方的なメリットだけでなく、サグリと全農やJAグループ、双方の発展や向上に期待されていることが伝わってきます。」
小林:
「そうですね。どちらか一方が良ければ正解という話でもないですからね。」
事務局:
「スタートアップのサグリとJAグループの全農。組織の大きさは違いますし、持っている知見も違いますが同じ『農業』を領域としてビジネスを展開する両者にとって、人材の交流は本当に多くの学びが生まれていますね。
さて、留学期間が残り4ヶ月(※2023年12月取材当時)となりましたが、いかがでしょうか?」
杉村:
「まずは、しっかりとサグリに貢献して爪痕を残したいと考えています。」
小林:
「そうでうね。それはとてもありがたいですね。残りの期間でJAグループと連携などで面白ことができれば、さらに良いなと思います。
あと、1番期待していることは、4月以降に杉村さんが全農に戻って今以上にスタートアップが全農やJAグループと連携しやすい環境が作れると良いなと思っています。農業ビジネスをしているスタートアップからすると、全農は壁が高いイメージがありますが、『そんなことはなく新しい事を取り入れて、スタートアップも入りやすいとい』うことがもっと業界に周知できると良いかなと思います。」
杉村:
「そうですね。私が全農を変えていく坂本龍馬になります!」
最後に
JAグループからの留学生と留学生の受け入れていただいたスタートアップ、お2人にインタビューをして感じたことは、同じ農業でビジネスを展開する『同志』のような印象を受けました。越境学習は留学する方(留学生)だけが学びを得るのではなく、留学生を受け入れた(スタートアップ)側の組織や事業にも影響することが、インタビューを通して明確に感じられました。特に組織の違いや人材の色の違いが大きいほど、ギャップを感じつつも得られる学びや成長も大きくなるのではないでしょうか。
それぞれの組織や企業が見ている未来は違いますが、業界の発展や社会成長のために取り組む気持ちが同じであれば、より両者にとって人、事業、組織のシナジー効果が期待できると考えています。
以前の記事でも掲載しましたが、もう一度。
組織は人で成り立っています。ひとりひとりの行動、考え、想いが会社を作り、世界を動かしています。挑戦したい気持ちと、その心を絶やさなければ、世界を動かす、そのひとりに誰でもなれるはずです。そう私たちは信じています。
次回はベンチャー留学Next Stageの見つめる未来や私たちが大切していることについてお話したいと思います。