私たちはいつだって、Work in Progress
「ちいさくはじめるデザインシステム」を編集・執筆しました
辻村深月の「ハケンアニメ」が好きだ。
映画化された際の脚本ではヒロインは1人だったけれど、原作は3篇に分かれていて、3人のヒロインは別の職種、環境で働いている。共通するのは「アニメ」に魅了されアニメ業界に身を投じ、アニメ制作という大きなプロジェクトの一部分である自分の仕事に矜持を持って日々奮闘していること。
作品への思い入れはあるのだが、ここではその魅力を伝えたいわけではない。
私は今、業務アプリケーションSaaSのSmartHRというプロダクト開発に、UXライターとして携わっている。そして、同時に「SmartHR Design System」も運用している。
先日出版した「ちいさくはじめるデザインシステム」という書籍は、このデザインシステムを3年弱運用してみたからこそ編纂できたものだ。しかし、この本は、SmartHR Design Systemを紹介するものではない。私たちは「組織の数だけデザインシステムの正解がある」と考えているので、読者が“自分の正解を見つける”助けになる本にしたかった。そもそも、SmartHR Design Systemはほとんどの内容がWeb上で公開されている。一部の権利上管理が必要なアセット除き、ドキュメントは誰でも自由に転用できる。
「ちいさくはじめるデザインシステム」は複数のデザイナーとUXライターによる共著だが、構成や全体ディレクションは私が任せてもらった。「2 デザインシステムを作るコツとステップ」は、「デザインシステムをはじめる3つのステップ」と「デザインをみんなのものにする3つのステップ」に抽象化して紹介するセクションで、我ながら、生活実用誌の編集者の出自が垣間見えるなぁと思う。
そろそろ本題に移ろう。
働く私たちもシステムの一部
書籍の構成で、一番こだわったのはコラム「SmartHRの人々から見たSmartHR Design System」を入れることだった。私はこのコラムを通して「ハケンアニメ」で描かれていたような、働く私たちが悩んだことやがんばったこと、ありのままを伝えたかった。
私は、仕事するための仕組みであるデザインシステムのことを、環境によって変化し続ける有機体みたいなものだと捉えている。同時にそれは組織の写し鏡でもある。つまり、考えようによっては働く私たちもシステムの一部である。デザインシステムに収められているガイドラインは一見するとデジタルな項目の羅列ではあるが、それは組織の一人ひとりが課題を発見して、解決してきた軌跡でもある。以前、noteで「私がSmartHR Design Systemで一番好きなところは、「実践と理論の往復からできている」ところ」と珍しくデレたこともあるのだが、その実践する姿をコラムという形式で残したかった。
なので、実はかなり前にコミュニケーションデザイングループ、プロダクトデザイングループ、UXライティンググループの人々に、入社以前から入社後に感じたことや印象的な出来事を聞くアンケートを実施し、どこにスポットを当てるかを考えていた。
欲しかったのは、いわゆる”神視点”
しかし、いざ書こうとすると打鍵音が止まる。仕上がりのイメージはあったし、それまで似たような原稿は幾度となく書いてきた。なのに、自分以外の同僚を主人公にしても、関係者として現場に居合わせているために、どうしても当事者の自分を脱ぎ捨てられず、「あー、これは無理だわ」となった。
それを救ってくてたのが、入社まもない稲葉志奈さんだった。まさに、神!
ちなみに、彼女が私に直接カジュアル面談を申し込んでくれた出会いの時点から、私は「一緒に働きたい!!!」と惚れ込んでいたのだが、決してこのコラムを任せる目論見を持っていたわけではないことは明言しておく。(稲葉さんは、入社まもなく、開発チームのメンバーとしてもすばらしい活躍をしています)
コラムに対する私の思いは重荷になりそうなので隠しつつ「自分で書こうと思ってたんだけど、客観視ができないから、社員にスポットを当てて書くページをお願いしたいのだけど… これからデザインシステムを使ったり作ったりしていく上でも、自己紹介兼ねていろんな人と話せるし」という口説き文句で頼んだ記憶がある。
「SmartHR Design System公開前夜」では、SmartHRの2つのデザイン組織がどうやって今の形になっていったのかを2人のデザイナーの課題意識とともに伝えている。「プロダクトのカラーリング刷新」はその続きとも言える、エピソード。「運営理念の言語化」と「ライティングガイドライン」は、思いっきり自分が関わっているので、任せられて大いに助かった部分。
そして、最後のコラム「組織への浸透」こそ、稲葉さんじゃなければ拾えなかったエピソードだ。これが加わったことで、当時の組織の、葛藤も含めたありのままを一冊に収めることができた。
大きくするにも、進化するにも、必要なのは、誰かの小さな積み重ね
”ちいさくはじめる”と謳ったわりに、仕上がった本は自立するほどの束(つか=本の厚さを表現する専門用語)、つまりボリュームになった。
そして、今のSmartHR Design Systemのコンテンツは「探すのがたいへん」という声も聞こえるほどの量になった。でも、間違いなく一人ひとりは“ちいさくはじめて”いる。組織の中の小さな力の積み重ねで、大きなものができあがる。
この本の行間から、少しでも働き続ける、作り続ける私たちの姿が伝わって、誰かの「ちいさくはじめる」のきっかけになったら良いなと思う。
最後に
文中で紹介した稲葉さんもこの本のバックグラウンドストーリーを書いてくれているので、ぜひぜひ読んでね!!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?