カスタマーサポートと「メンタルモデル」についての認識をそろえた話
UXライターと認知心理学
業務アプリケーションのUXライターとして働くうえでの武器は、エモでもセンスでもありません。加えて、私は文法や辞書的に正しい日本語だとも思っていません。
私が武器の一つだと思っているのが、認知心理学です。コミュニケーションを「送り手からの情報をもって受け手になんらかの効果が働くこと」としたときに、受け手がメッセージをどう受け取るか(=認知するか)を予想できることは強みになります。人間が外からの情報とどうやって付き合っているかの仕組みを掘り下げる認知心理学は、日々ユーザーに「わかりやすさ」を届けるための試行錯誤をしているUXライターにとっては大切な知識だと考えています。
私は、出自からも社会学や心理学もマズローの欲求段階説とかの方が慣れ親しんできたのですが、SmartHRで業務アプリケーション開発に携わるようになって、認知心理学への関心が高まって勉強しました。
そして、先日、カスタマーサポートの一部のメンバーに向けて、「メンタルモデル」について説明する勉強会をしました。
「メンタルモデル」に対するズレ埋めが目的
きっかけは、組織図の開発チームの読書会で読んでいた「リーダブルコード」。本書では「情報密度の高い言葉」の使用を推奨していたのですが、私は「意味の解釈にズレがあったら、すれ違ったまま議論が進んでしまうよなぁ…」と思ったのでした。
そして、今の開発現場での最たる例が「メンタルモデル」だなと思い、会を開くことにしました。なお、SmartHR ではバリューの1つに「認識のズレを自ら埋めよう」というものがあり、「ズレ埋め」というemojiもあるので、会も「ズレ埋め勉強会」としました。
「メンタルモデル」は悪いものではないと伝えたかった
勉強会では、人の「わかる」の仕組みの中で「メンタルモデル」がどう影響しているのかを説明しました。(実際の勉強会の詳細は、スライドをご覧ください)
私が伝えたかったポイントは以下の2つです。
「メンタルモデル」の個別具体は、把握しづらい厄介さをはらんでいるけれど、悪いものではない
業務アプリケーションを提供する私たちが「メンタルモデル」を意識する理由
今回、カスタマーサポートグループのメンバー向けに実施した理由は、チャットの現場に届く「アプリケーションとユーザーのすれ違いの実例」を、UIやヘルプページの改善に繋げやすい情報としてチームにもたらすかたちで協業して欲しいという思いがありました。
顧客からの問い合わせは、改善のタネです。「わからなかった」の背景には、ユーザーを「わかる」状態にできないUIがある可能性も含まれます。 以前は、開発チームの定例MTGなどでピックアップして共有された問い合わせは、自身で実際のチャットログを閲覧し、どうして問い合わせが発生したのかを確認するようにしていましたが、ちょうどカスタマーサポートのメンバーが開発チームへの貢献のしかたを模索していることを知ったので、サポート担当に任せることにしました。(このことは、カスタマーサポートグループの @tsubu さんのnoteでも言及があるので、よかったら読んでみてください)
カスタマーサポートは、ユーザーに一番近い立場で、顧客の問い合わせに寄り添っていますが、一人の開発者としては「使いにくい」や「わかりにくい」という声をそのまま代弁するのではなく、どうして間違いが起きたのか、どうして使い方を理解できなかったのかというフィードバックをもたらしてくれる存在だと、少なくとも私は期待しています。そのためにも、メンタルモデルの理解の解像度を上げたいなと思っていました。
しかし、毎日顧客の困りごとに直面していると、メンタルモデルがエラーを起こす「思い込み」の方に作用している場面ばかりを見ることになるので、「メンタルモデル=思い込み、先入観」のように考えてしまう可能性があります。でも、実際のメンタルモデルは人それぞれにある理解のショートカットでしかなくて、必ずしも悪いものではありません。
また、業務アプリケーションという性質上、ユーザーは効率よく作業を進めたいので、SmartHRを使うときには、メンタルモデルに頼るということも伝えたかったことです。
「どうして伝わらなかったのか?」を検証するうえで、問い合わせてくれた顧客のメンタルモデルの把握は大事です。それは、私がUIテキストを考えるときに考慮モレした要素の可能性だってあります。その場合には、早く改善したほうが良いです。(実際、人事評価機能では評価の停止機能リリース直後に、チャットへの問い合わせをきっかけにリリース翌日に文言修正をしたことがあります)
以上の課題感から会を実施しました。
違った視野を持つメンバーが、同じ認識を持って協業していくためは、コンテキストの共有が欠かせませんが、急にこんな勉強会を「やりたい!」と声をかけたら、時間を用意してくれるのは環境に恵まれているなぁと思います。話した後のディスカッションタイムも活発で、ありがたいなぁと思うと同時に、もっと「わかりやすい状態」を作っていきたいなぁと気持ちも新たにしたのでした。
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