中干し延長で環境と農業の未来を拓く / Jクレジット制度の可能性
新たな農業アプローチの幕開け
日本の稲作農業に新たな風が吹いています。2023年4月、Jクレジット制度に「水稲栽培における中干し期間の延長」が新たな方法論として追加されました。この動きは、環境保全と農家の収益向上を両立させる革新的なアプローチとして注目を集めています。
制度概要と環境への影響
Jクレジット制度とは、温室効果ガスの排出削減量や吸収量を「クレジット」として国が認証する仕組みです。「中干し」とは、稲の生育中期に田んぼの水を抜いて土壌を乾かす農法で、この期間を通常より7日間延長することで、メタン発生量を約30%削減できることが確認されています。
水田からのメタン排出は日本全体のメタン排出量の約4割を占めています。中干し延長は、新たな設備投資が不要で取り組みやすい温暖化対策となる可能性があります。
経済的メリットと生産への影響
経済的なメリットも見逃せません。クレジット販売による農家への還元額は、平均で1ヘクタール当たり7,000~20,000円程度です。ヤンマー社の支援サービスでは、最大で34,848円/haの最低保証額を提示しています。
一方で、中干し延長による稲の生育への影響も考慮する必要があります。独立行政法人農業環境技術研究所の調査によると、平均で3%程度の減収が見られる一方、登熟歩合(稔実した籾の割合)の向上やタンパク含量の低下といった品質向上の報告もあり、総合的な判断が求められます。
業界の最新動向
2023年には多くの企業が取り組み面積を拡大しています。Green Carbon社は約1万ヘクタール、NTTコミュニケーションズ社は約5,000ヘクタール、三菱商事は2,000~3,000ヘクタールの見通しを立てています。さらに、2023年10月11日には東証カーボンクレジット市場が開設され、取引の透明性向上が期待されています。
将来展望
Jクレジット制度を活用した中干し延長は、日本の農業に新たな可能性を開きました。この革新的な取り組みを通じて、持続可能な農業の実現と農家の収益向上の両立が期待されます。環境保全と経済性の調和、そして農業のイノベーションという観点から、今後さらなる発展が期待されます。
国際展開
〜ベトナムでの取り組み〜
水田からのメタン排出削減や削減量のクレジット化については、ベトナムでも展開が進んでいます。Green Carbon社は「水田由来のメタンガス削減によるカーボンクレジット創出に向けた共同研究」(外部リンク)をベトナム国家農業大学(VNUA)と開始しています。
当社もVNUAと、ソーラーシェアリングの実証研究を行うことを合意済みで設備設置に向けた準備を進めており、9月10日にVNUAと共同開催したワークショップでは、同国の農業におけるCO2排出削減策としてソーラーシェアリングへの高い期待を感じることができました。持続可能な農業の実現と農家の収益向上の両立に向け、新制度(クレジット制度)や新技術(ソーラーシェアリング)への関心は同国でもますます高まっているようです。