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三鷹歌農書 1341-1360

楊貴妃に普賢象御衣黄塩漬けのトリコローレのフォカッチャ焼きぬ
三鷹歌農書(一三四一)
葉をひろげ花梨の幹に絡みつくカイコガネ実を見向きもせずに
三鷹歌農書(一三四ニ)
コウゾ剪つて支柱にせしに熟枝挿し成功といふことになりたる
三鷹歌農書(一三四三)
つばさ広げシロペリカンがみづうみに着水せむとジャガイモの花
三鷹歌農書(一三四四)
麦の畝に生まれてしまひ麦の穂の上に出て咲く矢車菊(コーンフラワー)
三鷹歌農書(一三三五)
めくれたる薔薇ひとひらに朝雨のしづくと蜘蛛の緑金の尻
三鷹歌農書(一三四六)
雨あかりなればなほさら青リンゴの匂ひにレディー・ペンザンス佇つ
三鷹歌農書(一三四七)
山査子のひかりあかるき花むらに顔を寄すれば青ざかな匂ふ
三鷹歌農書(一三四八)
花殻の塵どこからか蓮の葉の水玉の上(へ)に落ち泳ぎだす
三鷹歌農書(一三四九)
花びらになりたかりしや牡丹(ぼうたん)のなかば真白き萼(うてな)が二つ
三鷹歌農書(一三五○)
茶にせむと牡丹の蕊に湯を注ぐわうごんのあぶら器にあふる
三鷹歌農書(一三五一)
白牡丹切りて淹れればはからずも鱶鰭(シャークスフィン)のワンタンスープ
三鷹歌農書(一三五二)
大りんの牡丹喫(の)みをへ花びらを外して絞りおひたしにせり
三鷹歌農書(一三五三)
あはあはと露草いろの水色(すいしよく)にボレロの白き芯の溶けゆく
三鷹歌農書(一三五四)
剽(へう)げ者織部のくろき沓型に唐華豊華の香を満たしたり
三鷹歌農書(一三五五)
オフィーリア古萩茶碗にくづれつつダマスクの香のアリアを放つ
三鷹歌農書(一三五六)
アッサムかはたセイロンか問はれつつレディー・ヒリンドン茶碗に香る
三鷹歌農書(一三五七)
暗赤色溶けて茶碗にかろやかにモダンダマスク真夜匂ひ立つ
三鷹歌農書(一三五八)
柿若葉かるく火を入れ湯にひたし藁の上なるわが旅茶碗
三鷹歌農書(一三五九)
薔薇酔ひのひと日となりぬイスパハン真夜オフィーリアボレロも淹れつ
三鷹歌農書(一三六○)


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