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三鷹歌農書 341-360


咲きあぐむ薔薇の蕾に葉も茎も枯れしを知らぬ蛇瓜が寄る
三鷹歌農書 (三四一)
直立の枯葉凛々しく音叉かとおぼゆれど葉に止まるキタテハ
三鷹歌農書 (三四ニ)
天球(スフィアー)としての畑に時空超え軌道交はるカリン彗星
三鷹歌農書 (三四三)
むらさきのきりりと花の俤の味くきやかにゲンノショウコ茶
三鷹歌農書 (三四四)
垂直に根を芽を伸ばしエンドウの天上天下唯我独尊
三鷹歌農書 (三四五)
俺はまだ死なねえんだよ男爵を秋植えにするほど馬鹿ぢやない
三鷹歌農書 (三四六)
チョウマメの莢が和毛(にこげ)をひからせて花屑を今脱ぎ去るところ
三鷹歌農書 (三四七)
秋空の蒼がサクラの葉に凝り静匂(しづかにほひ)の紫の艶
三鷹歌農書 (三四八)
深呼吸しながら空の澄みゆくを枸杞の灯せる秋の草かげ
三鷹歌農書 (三四九)
霜月をもたれ合ひつつ咲ききそふもつてのほかとシナモンバジル
三鷹歌農書 (三五○)
十三夜さへ待てぬならデジマ掘つて月見だんごの代はりにどうぞ
三鷹歌農書(三五一)
捨てるならバター炒めに塩ふつてカボチャの種のごとき一生(ひとよ)を
三鷹歌農書(三五二)
麦の穂の象形が「来」 来たり来たり天(あま)ゆ来たりて麦、天へ萌ゆ
三鷹歌農書(三五三)
青灰のグライ土壌の結晶のころりころりと慈姑(くわゐ)出て来つ
三鷹歌農書 (三五四)
慈しみふかき姑が大(おほ)き芽を出せと目出度きくわゐの煮物
三鷹歌農書(三五五)
師走近しキャベツ畑の青虫のテデトール作戦いつまでつづく
三鷹歌農書(三五六)
干しナスが恋遂ぐるべくもどされてパスタの鍋にニンジンと逢ふ
三鷹歌農書 (三五七)
追熟をさせて忘れてしまひたり申し訳なしキウイをジャムに
三鷹歌農書 (三五ハ)
黄山(ホワンシャン)の菊花乾かし淹るる茶に初雪の見ゆ香りも聞こゆ
三鷹歌農書 (三五九)
イチョウ切りの花梨敷き詰めひたひたに瓶に百花の蜂蜜垂らす
三鷹歌農書 (三六○)


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