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終わる日記(2024/11/08)

2024/11/08

寒さで目を覚まして、掛け布団が剥ぎ取られて毛布だけになっていることに気づいた。夢を見た。中学校の給食の時間だった。互いの机を接合して並んで座っている。対面のひとりが、さっき言った「こうじ」は故郷で覚えたと言った。こうじがどういう漢字なのかわからない。道のことだと言うので袋小路のこうじなのかと言うと、そうそう、袋小路のこうじだと言った。広いにと言うので、路がくると読んで路でしょとかぶせた。僕は漢字が弱いと思って、それで広いに路で広路だと納得した。広路ってだってあれだ、最初のほうだったはずだと言った。彼は魯迅の『故郷』の冒頭を諳んじているらしく、皆にそれを披露してみせた。ここで覚えたんだと言った。ルントウだよと笑った。聴衆のひとりが、すごい! と立ち上がって手を叩いた。

ガタン、と大きな音が鳴って、見るとひとりが突然立ち上がり黒板に向かって歩いていくところだった。配信で好意を仄めかされて、こうこうこういうことが言われて、初等幾何の問題みたいな図形とともに、書かれた文字をさらに上から塗りつぶすように書きなぐっていきながら――直前に栄養士から食事と健康についてのレクチャーがあった――誰が配信者なのか? パパがママ、パパのママ、と大きな声で訴えていた。校内放送の声が、御堂筋線の車内放送のおばさんの声に似ている。誰が配信者なのか? 誰が配信者なのか? 彼は繰り返した。リピートアフターミーと言って繰り返させるつもりなのかもしれなかった。彼の声はますます大きくなっていった。それがおぼろげに聞こえている。怒りをあらわにしている。どうやら父親が母親のように振る舞っていることが許せないといったところだった。リピートアフターミーとは言わなかった。

奥の机の列から、先輩はどういう職種に就かれるんですかと聞こえた。文系っておっしゃいますが、その点は理系的で、今のことが生かされているんじゃないですかと言った。そうそう、そこは理系的で、あっちは文系、と言った。それを言うのと同じタイミングで、たしかにコミュニケーションすごいですもんねとかぶせて入った。すかさず腹ただしげな顔をすると、その機微には興味も関心もないんですと妙な顔が言った。だがすぐに向き直して、そうそう、つまりそうと言った。俺流コミュニケーション、と言った。その即興性が、まさに「俺流コミュニケーション」だと思った。

YouTubeのコメント欄で変なやつに絡まれていて、匿名のアニメアイコンは本人だと割れているが、いなしながらコメントを連ねていくことを内輪で面白がって盛り上がっている。ということを、いきいきと、これみよがしに誇らしげに語っている。どこまでもついてきて、やることなすことぜんぶそうで困ってるんだ、だから俺たちが相手してやってるんだと言った。仲間たちが一斉に立ち上がって発言者を拍手で讃えた。それについて僕は黙っていた。僕にはそれの面白さがまったく理解できなかった。

提出書類を見ればいいと言った。その書類はすでにたしかに提出していて、見るまでもなく頭に入っていたが、ボックスを見について行った。行きましょうと言った。その親切心を無下にすることはできなかった。結局、ボックスには何も入っていなかった。本当に出したんですかと言った。そうですね、だいたい1ヶ月ほど前に提出したと思いますが、お忙しかったのでしょう、お見逃しておられているのかもしれません、と言って、我ながら奇妙な敬語を恥じた。講演会の受付のアルバイトで、入室前の准教授の先生がやって来て、みなさんおわかりになると思いますがと言ったら、いやいや僕のことなんて知らないですよと言うので、そんなことはないですと言った。今にして思えば、それはそのときの、咄嗟のおべんちゃらだった。

なにかの冗談かと思っていたけど、人間の電気抵抗ってあるんだね、リアルにと横のひとりが言った。人間の抵抗を測るっていうのと挙動不審に言った。かちかちさせるやつだったっけと人差し指をせわしなく打ち合わせている。こういうのもあったと思うんだけどね、リアルに。校内放送が流れている。ラーシドレッミッファッレッミッファソー、と言った。ソドッレッミッドレドレミファ。流れていく。軽快なリズムにおどけたメロディが流れていく。スタッカート。その歯切れのよさ。チラチラとすばしこく見渡す目が、他に聞こえてほしくない秘密を伝えていると伝えたがっていることを伝えていた。跳ねるように流れていった。僕は横を向いた。それはルントウではなくルロイ修道士だと言って笑った。シンコペイテッド・クロック。ルロイ・アンダーソンだった。ルロイ。リアルに。

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