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DAOはどうやってできるのか【5段階理論】
DAOへの関心が集まり、DAOの構造や定義についての記事は増えてきました。
ただ、ビジネス側として、多くの人が知りたいのは「どうすればDAOのような、自律的で自走するコミュニティや組織を作れるのか」というところだと思います。
先進的な企業ではDAOの実証実験が進んでいますが、「DAO作り」の事例や知見はまだまだ少ないのが現状です。
そこで今回は、これまでDAO運営に携わり、他コミュニティの立ち上げ支援や、組織論の研究を深めている視点から、DAOの立ち上げについての考察をしたいと思います。
※「DAO」という言葉はトレンドワードとして、フワっとしたまま独り歩きしているのが現実です。DAOにこれから触れる方は、まずこちらの記事を読むことをおすすめします。
▷ 本来のDAOと、現状の乖離
▷ そもそも「DAO」ってなんだっけ?
DAOは中央集権的に始まる
ほぼ確実に、DAOの立ち上げは「中央集権的に始まり、徐々に分散していく」という過程を経ます。これはDAO経験者の多くが納得する部分ではないでしょうか。
私が、「まさに、これ」と共感したのが、以下の記述。
"DAOの立ち上げと言うものは非常に困難を極める活動であり、メンバーの一部がしっかりとイニシアチブをとってコミュニティーの形成と拡張に努めていく必要がある。
つまりDAOは最初は集権的に始まるものであり、徐々にスタートアップのようにスケールしていくにつれ流動性と分散性が高まっていくのが一般的であるためだ。"
(引用元)MakerDAOのアジア進出と真の分散化に向けた鍵を握る「SakuraDAO」とは?
これ、先日、あるやうむのたーなーさんがVoicyで語っていた、「中央の意思決定者を排した完全分散型のDAOは機能しない」に通じる話。DAO兄さんの「集権的に立ち上げ、徐々に分散性が高まっていく」という表現が、私自身の実体験とも合致します。
DAOワーク Web3時代の新しい働き方
実はこうした「中央集権的に始まり、徐々に分散していく」という動きは、DAOに限ったものではなく、社会ムーブメントや宗教、自走型のコミュニティなど『参加型で自律分散型の組織』で起きる現象です。
そこで、DAOの立ち上がりについて論じる前に。
考察の解像度をあげるため、DAO以外の『参加型で自律分散型の組織』の立ち上がり方をみたいと思います。
① 社会運動の起こり方
② 宗教の起こり方
③ コミュニティマーケティング視点。自走するコミュニティの作り方
④ 組織論の視点。ティール組織(進化型組織)の起こり方
① 社会運動の起こり方
社会ムーブメントの起こりで有名なのがこちらの動画です。
どのように一人の熱量が周りに波及し、人々を引きよせ、多数による主体的な活動(=社会ムーブメント)に育っていくかが、とても分かりやすく説明されています。
<社会運動の起こり方>
① まず一人のリーダーが躍り出る
② 次にそのリーダーの動きを見たフォロワーが、リーダーの動きに乗る。このときリーダーは、フォロワーを対等に迎え入れる。
③ ここで重要になってくるのが、このフォロワーの存在。フォロワーの存在が最初のひとりを指導者にする。また、フォロワーを見てどんどん人が集まり、ムーブメントになっていく
(3分弱の面白い動画なので、ぜひ視聴をオススメします)
② 宗教の起こり方
宗教も、特に三大宗教と言えるほど大きなものは、人々が自主的に参加し、教義という信念やルールにもとづいて自律的に活動しているという意味で、『参加型で自律分散型の組織』と言えます。
イスラム、仏教などの大手伝統宗教から、現代日本の新興宗教まで、古今東西の宗教を徹底的に分析し、宗教の作り方を"ユーモラスに"紹介している本がこちらです。
書籍内の内容をかいつまむ形になりますが、宗教の起こり方を超簡単にまとめると以下の流れです。
<宗教の起こり方>
① 教祖の成立条件は、「何か言う人」と「それを信じる人」この二要素。「なにか言う人」は「それを信じる人」の存在によって『教祖』となり、「それを信じる人」は『信者』となる。
② 教祖は人をハッピーにすることが仕事。そうすることで教祖のまわりにさらに人が集まる。
③ 教祖の言動が浸透し、それが弟子や信者によって解釈され成文化されていくことで、自然と教義が生まれていく。
④ その教義が大衆にも受け入れられる形に進化していくと、その宗教は、より広く浸透していく
③ 自走するコミュニティの作り方
次に紹介するのが、コミュニティマーケティングの文脈で紹介されている『自走するコミュニティ』の作り方。
AWS(アマゾンウェブサービス)のマーケティングをコミュニティの力によって大成功に導き、その後も数多くのコミュニティマーケティングに携わってきたマーケター小島英揮さん。そのノウハウが集約されているものすごく有益で実用的な書籍です。
書籍内では、『焚き火理論』という形で、自走するコミュニティの作り方を焚火に例えて説明しています。この例えがすごく分かりやすので紹介します。
<自走するコミュニティの作り方>
① コミュニティづくりにおいてまずすべきなのは、火力の高い種火(=リーダー)と、よく燃えそうな枯れ木(=フォロワー)をしっかり見極めて集めること
② あとは、コミュニティ運営側は、その種火が燃え移って熱量が育つように、うちわであおぎ、枯れ木をくべ続ける役目をする
③ そうして焚き火が大きくなり安定して燃え続けるようになれば、何が入っても燃える
ここで重要だとされているのが、きちんとステップを踏むことです。
"適切な"人を見極め、"適切に"コミュニケーションをとり、"適切に"コミュニティを育てるステップが踏めれば『自走するコミュニティ』が育つ。逆に、きちんとステップを踏まなければ、運営が必死で企画を作り続けないと活動が起きない受け身のコミュニティとなってしまう。
こちらの文章でその重要性を分かりやすく的確に説明されています。
コミュニティを大きなキャンプファイヤーにしたければ、きちんとステップを踏むこと。それさえ間違えなければ、少数の種火でもキャンプファイヤーが作れます。
逆に、生木だけがくべられていて、それを燃やさなければいけないとなったら、ガソリンやバーナーを持ってきて、無理やり着火するしかない。燃料を何回も交換しながら。
これがコストです。時間がかかりますから、コストが大きくなります。仮にガソリンをかけても、表面は燃えますが、中心部まではなかなか燃えません。ボッと火が立っても、すぐに消えてしまう。木の表面の油が燃えるだけで終わってしまう。
それより、急がばまわれで、種火から枯れ枝でじっくり火を育てていったほうが、実は大きなキャンプファイヤーに育ちます。そしてこれは、最初からしっかり手順を踏まないといけない。種火と枯れ枝のバランスをよく見極めてタイミングよく投入することが重要です。
そして、キャンプファイヤーを大きなものにしていくには、それなりに時間がかかるということを認識しておくことです。
さらに具体的なノウハウも載っています
・勉強会・懇親会・情報発信の三点セットで活動
・フォーカスする指標は、新規参加者比率/外部へのアウトプット量/自走化
・オフラインファースト/コンテクストファースト/アウトプットファーストの3つのファーストが大事 etc…
コミュニティメンバーのアウトプットに金銭インセンティブをつけてはいけない。コミュニティから認められたり、自分の可能性がひろがることが、参加者の報酬となることで、持続的なコミュニティ運営になる。
ユーザーコミュニティの勧誘では、「コミュニティを作ろうと思っています」といきなり切り出すことはしなかった。曖昧な期待あげはせずに素直にユーザーに「話を聞きたいです」とアポをとって話を聞いた。その人の関心が、もっとサービスを拡げたほうがいいというところにあると感じたら、「こういうコミュニティがあるとよくないですか?場を作りますので一緒しませんか?」と声をかけた。重要なのは自分ごと化して受け止めてもらうことなので、"参加のお願い"や無理な勧誘はしなかった。
ここもDAOの立ち上がりから運営に携わり、他コミュニティの立ち上げ支援にも関わった身として、これまでの経験で得た気づきの答え合わせとなるような、すごく腹落ちする内容です。
④ ティール組織の作り方
最後に、ティール組織の起こり方について紹介します。
ティール組織とは新しいパラダイムの組織モデル(組織OS)です。
メンバー一人ひとりは自身の役割や環境のルールを理解し、状況に応じて自律的に意思決定ができる柔軟性をもっています。自律的な個人が集まり、全体としてはひとつの生命体のような、環境に適応進化しやすい組織形態となっています。
まさに、VUCAと呼ばれるこれからの時代に合った組織モデルであり、わたしは、DAOもこのモデルにシンクロすると考えています。
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そのティール組織の立ち上げにおいて、紹介したいのが『ソース原理』というフレーム。ソース原理は、ティール組織と別の場所・文脈で提唱された原理ですが、ティール型の組織を立ち上げる際の指南書と呼べるくらい解像度の高い示唆を与えてくれます。
◆ソース原理とは
500人以上の起業家・経営者による研究からピーター・カーニックが見出した、「人がビジョンを実現しようとするプロセス」を捉える原理原則。
「ソース」とは、「アイデアを実現するためにリスクを負って最初の一歩を踏み出した個人」であり、必ず1人しかいないとされる。
最初の一歩を踏み出した瞬間に「クリエイティブ・フィールド」(創造の場)が生まれ、そこに惹きつけられた人々が集まり、さまざまな役割を担いながらビジョンの実現に向けて共にイニシアチブ(創造活動)に取り組む。
本書は、起業家のトム・ニクソンが自社やクライアント向けにソース原理を実践した経験から、イニシアチブの立ち上げから、組織づくり、採用、事業承継、お金との向き合い方まで具体的な実践方法を示した一冊。
近年注目を集める『ティール組織』著者のフレデリック・ラルーが、「もし私が事前に知っていたら、必ず『ティール組織』で紹介していた」というほど重要な概念として紹介されたため、世界中の次世代型リーダーが学び、実践しはじめている。
ソース原理では、ソース、サブソース、ヘルパー、クリエイティブフィールドなどの概念を提示しながら、1人から始まったアイデアが人や組織を動かし組織化されていく現象を以下のように説明されています。
<1人から始まったアイデアが人を動かし組織化していく流れ>
① 一人の個人が傷つくかもしれないリスクを負いながら最初の一歩を踏み出し、アイデアの実現へ身を投じたとき、ソースの役割が自然に生まれる
② ソースは、自分のアイデアが実現していくためのプロセス(イニシアチブ)で何が必要かを直感的に感じることができる
③ ソースがイニシアチブの立ち上げへと動き出すと、そのビジョンとエネルギーは磁石のように人やリソースを惹きつけていき、クリエイティブフィールド(創造の場)が生じる
④ 惹きつけられた人の中には自ずとビジョンや特定領域における責任を担う人(サブソース)が生まれる。ソースは適切に権限移譲を行っていく。
⑤ サブソースはそれぞれ個人としてのビジョンとエネルギーを持っていて、イニシアチブ全体のなかでサブイニシアチブを作っていく。全体イニシアチブとサブイニシアチブは入れ子状となっていて、クリエイティブヒエラルキー(創造の階層)が自然と生まれる。これは従来の権力構造とは異なり、上下関係の階層ではない。
⑥ また、サブソースほど個別のイニシアチブに責任は負わないが、自分のスキルや能力を提供して協力してくれる人たち(ヘルパー)も集まってくる。
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起業家や、自分でプロジェクトを立ち上げたことがある方、そしていま実際DAOに関わっている方は、感覚的に理解できる内容なのではないでしょうか。
サブソースは、イニシアチブ全体のソースの言いなりどころか、この役割は天職だと感じながら生き生きと活動するものだ。なぜなら、たんに自分の天職を誰かの大きなイニシアチブのなかに見出しただけだからだ。
サブソースの存在により、中央集権型か分散型かという従来の対立軸から離れ、その両方を同時に取り入れて、以前よりもエネルギーに満ちて実用的な組織づくりの方法へと移っていくことができる。
あらゆる組織の根底には、<クリエイティブ・フィールド>(創造の場)と呼べるものがある。
ビジョンの実現に必要な協力者やリソースを引き寄せ、各自の貢献を束ねて一貫性を生み出す重力場と、ビジョンの実現に向けて一緒に行動していける草原や放牧地のような物理空間の二つを組み合わせた場をイメージしてもらえるといい。
DAOが生まれて分散していくまで
長々とお付き合いいただきありがとうございました。
ここまでで、さまざまな角度で、『参加型で自律分散型の組織の立ち上がり』を見てきてました。
以上の情報と、自分自身の知見を参考に、解像度をあげて『DAOが生まれてから分散までの流れ』を【DAO発展の五段階理論】として整理してみます。
【DAO発展の五段階理論】
① ビジョンとパッションをもつ初めの1人(ソース/リーダー)が存在し、その一人がリスクと責任を負って初めの一歩を踏み出す
② そのリーダーに誘われたり、ビジョンやパッションに惹きつけられたりすることで、初期メンバーとなる人々(サブソース/フォロワー)が集まる。かれらはリーダーと対等な存在(選び選ばれる関係)として、適切に責任と権限を持ち、主体的に活動を行う。リーダーは初期メンバーに適切に権限移譲を行い、エンパワーしていく。
③ そこにさらに人が集まり、ビジョンやパーパスなどを軸とした繋がりが生まれる。また、創造的な個人が集まり活動が行われることで、その場に、人的ネットワークやノウハウなどをはじめとして共有資産が増えていく。
④ メンバーは、共有資産とパーパスをシェアする場に参加することで、ひとりではできない活動ができ、ひとりでは得られないものが得られる。そういった創造と共創の活動が繰り返されることで、その場の共有資産はより増え、パーパスはより浸透していき、さらに人々が増えていく。この好循環が起きることで、集団としても自律的に進化拡大していく。
⑤ はじめはリーダーの影響力が大きいが、人々が集まって活動していく過程で、その場に自然と秩序や文化などが生まれ、ルールが作られていく。そうなると人々は、そのルールやパーパスを判断基準にして動くようになる。相対的にリーダーの影響力は弱まり、健全に分散化が進む。
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ここで大切なのがステップをきちんと踏むことです。
ビジネスパートナーであるマルセロさんとのディスカッションでも『②が最重要で、そして一番難しく一番時間のかかるところ』という認識で一致。
システムありきではなく、「コミュニティは人が命」と心得て、泥臭く人にしっかり向き合うことが大事です。
また、ブロックチェーンやAIなどテクノロジーは、そこで生まれた秩序をより滑らかにし、共創活動をよりエンパワーし、分散化をより可能にするものとして使われると考えています。
わたしが運営代表を務める『ひと妻DAO』は③まで進み、今この執筆時点で④⑤のフェーズに入っています。
今後の動きとしては、DAOを基盤とした事業作りを通じてひと妻DAOから「DAO活⇒DAOワーク」の流れを作ること、それと同時に、web3技術を少しずつ導入してDAO内のシステムを整えていくことで、④⑤が進んでいくとみています。
※ 厳密には、ひと妻DAOはDAO化を"目的"とはしていません。ただ、パーパスやビジョンの実現を追求すると、結果的にDAOという組織形態になっていくと考えています。
また、我々よりももっと大規模にDAOとして発展が進んでいるのが、Ninja DAOです。
そして発見しました。この流れを、技術面も交えて解像度高く説明されているのが、DAO事業で先を走るGaiaxの廣渡さんのnoteです。
純度の高いDAO組成のステップが三段階に分けて説明されています。
![](https://assets.st-note.com/img/1704880196659-BwyoAgS1py.png?width=1200)
新しい組織形態であるDAOをつくるためには、人と組織を理解すること、社会背景や社会構造を理解すること、テクノロジーを理解することが必要です。だからこそDAOは難しく、だからこそDAOは面白いと思っています。
DAOは、これからの社会で必ず必要とされる組織形態です。引き続き、実践者としてDAOに携わりながら、理解を深めていければと思います。
<告知>
マルセロさんと共に進める新事業共創サービス「エンゲルス」では、DAO活に挑戦したい仲間や事業パートナーを募集中です。
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