予防のためにコストをかけるべきかをどう判断するか
はじめに
前回の記事で、ここ1ヶ月間の降水量の推移と小麦の雪腐防除のことを書きました。
降水量をアメダスの実測値で見てみましたが、ここでちょっと難しいのが、実際に殺菌剤の再散布を行うべきなのかどうかという判断です。
無人ヘリ散布を委託するには、自身の所有機械を使って散布するのと比べてだいぶコストがかかります。
本来必要のないコストですし、再散布したとして作物にその効果が本当にあるのかどうかは正直わかりません。
気持ち的には、あまりかけたくないコストですね。
今回はかなり具体的な話になってしまいますが、作業の判断材料にしたコストと利益のシミュレーションと「機会損失」という考え方について書いていきます。
コストをかけるべきかをどう判断するか
今回の判断の悩む理由は、コストをかけて再散布したところで、その予防効果の程は正直わからない…ということです。
気候が良ければ何もしなくても生育に問題ないかもしれませんし、再散布したところでダメな時はダメになってしまいます。
・再散布しなかった場合、収穫量(収益)が減る可能性がある
・再散布した場合でも、収穫量(収益)が変わらない可能性がある
という、結果がわからないことに対してどちらの行動を選択するのが妥当なのか、という状態です。
勘や経験から判断するのも良いですが、数字を考えて判断したいものです。
…では、コストをかけるべきかどうか、どのような基準で判断すると良いのでしょうか?
機会費用という考え方
ひとつに「機会費用」という考え方があります。
これは「複数の選択肢がある場合に、自分が選んでいない選択肢の場合に得られたはずの利益」のことをを意味しています。
ちょっと難しいですね。
今回の例で考えると、「(1)コストをかけて再散布する」か「(2)再散布しない」という2つの選択肢があります。
仮に「(2)再散布しない」を選んだとします。
その時、再散布しておけば病気が予防できて利益を得られたハズなのに、コストをケチったことによって病気が発生し、収量が落ちて利益が下がってしまう…という可能性が考えられます。
そこでどちらの選択肢が数字的に得なのかを判断するために、かけたコストだけでなく、本来得られるハズだった収益も含めて選択を考える、というのが機会費用の考え方です。
【MEMO】
「機会費用」と似た用語に「機会損失」というものがあります。僕もあまり使い分けできていないかもしれません。
●機会費用:複数の選択肢がある場合に、自分が選んでいない選択肢で得られたはずの利益のこと
●機会損失:それを選択したことによって得られなかった、本来なら得られたであろう利益のこと
利益のシミュレーション
スプレッドシートを使って簡単にシミュレーションしてみました。
再散布しなかった場合(=コストをかけなかった場合)に起こりうる現象と、それによる収益減と再散布にかかるコストを洗い出し、機会費用を比較してみます。
ここでパラメータとして入力している数値は、ざっくり概算で出している数値になります。
パラメータ(入力値)
・総面積:作付している面積。単位面積(反 = 10a)
・目標反収:その作物の単位面積あたりの目標の収穫量(kg/10a)
・単価:農産物1kgあたりの収益(円/kg)
・農薬散布費用:無人ヘリ散布を委託した場合にかかる単位面積あたりの費用(円/10a)
・農薬代:単位面積あたりの農薬の費用(円/10a)
結果と考察
仮に再散布をしてもしなくても収量に変化がなかったとしたら、かけた反あたりコスト2,500円/10aがそのままマイナスになります(図の8行目)。
作物が順調に育つということなので良いことですが、コストをかけた分が丸々無駄になってしまいますね。
次に再散布しないことで収量10%減となってしまうという場合を考えてみると、反あたりコスト2,500円/10aをかけたところで収益の減少を抑えられる効果の方が大きく、利益は6,500円/10aとなります(図の14行目)。
このくらいの収量減は現実的な数値に思えます。
さらに、もし再散布しないことで廃耕、つまり作物が全滅してしまう最悪のケースを考えると、再散布しておいた方がコストを差し引いても87,500円/10aもの利益に繋がります(図の16行目)。
…もっとも、全滅してしまうほど酷いケースの場合は、もっと他のところに要因があることが考えられそうですが。
そしてこれらは単位面積あたりの金額なので、総面積(今回は適当に10haで算出)で換算すると表の一番右側の数字になります。
さらに考察
パラメータに入れた数値によって変動しますが、今回のシミュレーションでは利益がプラスになるかどうかの境目が、収量3%減少の近辺にあります(図の11行目)。
つまり再散布により収量3%減少を抑えられる効果があるなら、コストをかける意味がある、ということになりそうです。
収量3%というと体感でわからないほどの微妙な変化で、簡単に変動しそうですね。収量の底上げとしてやっておくに越したことはないのかな、と考えることはできそうです。
おわりに
さて、今回はかなり具体的に、コストをかけるべきかどうかのシミュレーションをしてみました。
それぞれの確率がわかればもう少し正確な計算と判断ができるのかもしれませんが、そこまでは難しそうです。あくまでざっくりとした経営判断ができれば良い訳で、細かい数値を出すことが目的ではありません。
このような機会費用の考え方は、いろんな判断に応用できるのかなーとも思います。日頃から訓練しておきたいですね。
また、今回のシミュレーションに使用したスプレッドシートは、誰でも閲覧できるように共有してみました。
使える機会は限られていますが、コピーして必要に応じて項目を変更できるので、よければ他の作物などでも使ってみていただけたらと思います。