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深い学びを得るための読書についてー 読書日記『学術書を読む』
最近、やや難しめの分厚い専門書を読むトレーニングをしているのですが、これがなかなか難しいと感じます。
内容はとても興味深いため、毎日少しずつ読み進めることはできています。ですが、自分の知識としてしっかりと定着しているのかと問われると、あまり自信がないのです。
そこで、これを機に専門書・学術書と呼ばれる書籍の読み方を身につけたいなと思い、最近手に取ったのがこちらです。
この書籍、読みやすい文章なのはもちろん、考え方が丁寧に書かれているため、なるほどなーと納得しながらもサクッと読むことができました。
本記事では、書籍『学術書を読む』を読んで僕なりに学んだことや考えたことを、いくつか整理してみました。
書籍『学術書を読む』
著者の鈴木哲也氏は、京都大学学術出版会で編集長をされている方です。
現代において専門外の学術書を読む意義と、その学術書の選び方について具体的な書籍名を挙げながら紹介されています。また、現代の読書で重視されがちである「速読・多読」や「わかりやすさ」についての問題についても解説されています。
読み終えた印象としては、書籍の読み方についてのノウハウというよりも、書籍を読む姿勢や選ぶ際の考え方について教えてくれる、というものでした。
目次は、以下のようになっています。
目次
第1部 考える―学術書を読む意味
「現場の哲学」が求められる時代―「専門」の限界
自省作用と創造―専門外の学びの機能とその楽しさ
「わかりやすい」からの脱却
第2部 選ぶ―専門外の専門書をどう選ぶか
「専門外」の四つのカテゴリー
【カテゴリー①】良質の科学史・社会文化史を読む―遠い専門外の本を選ぶ
【カテゴリー②】「大きな問い」と対立の架橋―近い専門外の本を選ぶ
【カテゴリー③】古典と格闘する―「メタ知識」を育む
【カテゴリー④】現代的課題を歴史的視野から見る本
第3部 読む―学術書の読書から現代を考える
博識は「ノオス」を教えない―速読・多読は大切か?
知の評価の在り方を変えよう
危機の時代を乗り越えるための知を
著者の前著に『学術書を書く』があります。こちらも非常に興味があります。
雑感
さて、読みながらまとめたメモから、いくつか整理して書いていきます。
1. 専門外の知識を身につける必要性
この書籍の中でまず前提となっているのは、専門外の知識を身につける意義でした。複雑さを増している現代社会において、専門外の知識を身につけることがコミュニケーションの基盤づくりに役に立つ、というのです。
また、著者は「自身の学生時代と比べ、専門外の学問を学ぶことが難しい」という現状に触れています。大学の仕組み的に他学部の講義が受けづらくなっている、書籍を読むにも「わかりやすさ」を重視した本が氾濫し学術書の選択が難しくなっている、といった原因が挙げられます。
大学の仕組みは僕はあまり分かりませんが、書籍に関しては確かに選択肢が多く、質にも良し悪しがあるため、選ぶのが難しいと実感しますね。
2. 専門外の学術書の選び方
では専門外の知識を学ぶためには、どのような基準で学術書を選べば良いのでしょうか。
書籍の中では、「専門外」を4つのカテゴリーに分けて詳しく解説しています。ここではそのうちの2つ「①自らの専門からは遠い分野」「②自らの専門に比較的近い分野」について整理します。
①自らの専門からは遠い分野
これは、その分野の「学史」の概説書を探すと良さそうです。
その分野の歴史を知り、どんな課題をどのように解決してきたかを知ることで、自身の考え方の幅を広げることに繋がります。選ぶ対象を「学史」に絞ることは、無数にある書籍の中からターゲットを限定し、選びやすくするというメリットもあります。
②自らの専門に比較的近い分野
これは、書籍選びの際に「大きな問いが掲げられていること」「対立意見を避けないこと」を意識すると良さそうです。
自分の専門に近い分野の書籍は、前提知識がある分選択肢も多くなるので、自身の関心を考慮して選び取る必要があります。その際に、著者が立てている問いが大きいほど、自身の関心と未知の領域を結びつけてくれる可能性が高いものとなります。
あわせて、自分の考えと異なる主張をしている書籍を選ぶことも効果的です。また、著者自身が自らの主張の限界を認識し、別の視点や立場からの可能性を明記している書籍は、より信頼性が高いといえます。
学術書を選ぶ際は、このような基準を持って探してみると、学ぶ目的と合致した良質な書籍と出会う可能性が高くなりそうです。
3. 「知識」と「情報」の違い
書籍の中で「知識」と「情報」の違いについて触れられていて、これが良い対比だな、と思いました。
「知識」は一つの体系として歴史の中で組み上げられてきたものであり、身体性とも結びついた、身につけるべき事柄というニュアンスがある。
「情報」は個別に切り分けて利用できるものであり、必要に応じて持ち歩き、必要がなければ置いていけるようなニュアンスがある。
書籍の中で、著者は「何のために取得するのかという目的に応じて、情報の見え方にはどうしてもバイアス(傾き)がかかってしまう」ことを問題視しています。
もちろん、知識も情報もどちらも有用なものでしょう。しかし、現代のコスパ重視の文化では、素早く簡単に手に入る「情報」の方が重要視される傾向にあるようです。経済的・社会的な成功を求める競争社会においては、生き残るための情報をいかに素早く得て利用するかは、生存戦略として必要なことです。1980年代後半から注目され始めた多読・速読の文化は、その象徴といえるでしょう。
そのような読み方は「情報を得るための読書」であるのに対し、学術書をじっくり読むことは「知識を得るための読書」にあたりそうです。
4. コミュニティが役に立つ
これは僕の考えとなりますが、専門外の知識を身につけるためには、読書だけでなく「コミュニティ」が役に立つのではないでしょうか。
著者の勤務する大学出版部で「専門外の専門書を読む」の読書会に取り組んでいるとのことですが、これもコミュニティの一種であると思います。参加者にとって、まずは日常生活では触れない専門書に向き合える、という意義があります。それだけでなく、多様な専門の方がいる環境でサポートや刺激をもらうことで、新たな学びを得る機会にもなっていそうです。
世の中はさまざまなコミュニティが存在し、それを選べる環境にあります。コミュニティに所属して多様な人と活動することで、専門外の知識の学びを助けることにつながることを、僕自身も実感しています。
おわりに
書籍『学術書を読む』を読んで僕なりに得たことを整理してきました。
専門外の学術書を読むというテーマを通じて、学術書に限らず読書に対する新たな姿勢を学ぶことができたように思います。とくに「情報」と「知識」の違いが明確になったところに、今後の学びのヒントがありそうです。
情報を効率的に得るための本の読み方は、重要な技術のひとつです。しかし、一つの体系として歴史的に培われてきた知識を身につけていくような学び方も、今後は意識していきたいと思いました。