営農とポッドキャスト 2023年9月号
はじめに
自分と異なる感性や知性に触れられるのが、ポッドキャストの良いところだと思っています。自分とは縁もゆかりもなく、お友達にもなってくれそうもない人の話を、一方的に、こちらの存在を気づかれずに聴くことができます。気取ってない忖度してない会話をおおっぴらに盗み聴けるなんて、なんて良い時代でしょう!
そんなことを考えがちなので、私はなかなか番組のハッシュタグをつけて感想を書けません。
こちらを気づかれたくない、推しに認知されたくないという気持ちがあるのは、ポジティブな感想であれなんかしらの影響を与えてしまったらやだな、という危惧があるからです。
けれど、配信しているひとに読まれないように(読んでも怒られない程度に)こっそり愛の発露をしているのが当記事となっています。
今回の紹介するポッドキャストは、自分(北海道で、農家をしている、おじさん)が人生で関わりようもない感じの世界の人のポッドキャスト。いまいちどんなお仕事をされてるのかイメージができない、クリエイティブの世界のひとの、本業に関係があるんだか、ないんだかわからないことを喋っているポッドキャストとなります。
百百(旧 器用貧乏は眠らない)
どんな番組?
美術家・音楽家の立石従寛さん、クリエイティブディレクターの陳暁 夏代さんによる漫談ラジオ。夜の作業中に聴くBGMにぴったりな、夜の空き時間に話しそうな「ちょっと哲学っぽい、俗っぽさの薄い雑談」を配信している番組。
特筆すべきは聴き心地の良さ。キーボードをカタカタやったあとで「ふぅ…」とため息がついたあとで始まるOPテーマから、ちゃんと本題の雰囲気につながるようなBGM、あまり他のポッドキャストで聴いたことがないくらい繋がっている。私はできそうもない音使いをしてるので、すごいなぁ、と思う。
内容も、毎回、味が濃い。職業的な、生得的な、育ってきた環境があまりにも違うひとが、そこに根ざして話をするのが面白い。従寛さんのお茶、キャリアの話、夏代さんの中国の話や仕事柄恐ろしいほどの量触れているカルチャーの話などなどのおかげで、あちこちでこすられ続けてるChatGPTの話ですら目新しいことを話している。生成AIが作ったものと、人間が創作したものの間の違いはなにか、ことばを当てはめて考えられてたのを聞いたのはこの番組がはじめてでした。
これは本来、誰でもできる当たり前のもののはずなのだけど、ことポッドキャストではとても難しく行為だと私は思っています。ポッドキャストを配信する人は、お手本のポッドキャストを聴いてることが多い。そのおかげで、お手本のポッドキャストと同じような話や感性を持って「どっかで聴いたなー」って話をしてしまう。この番組は、そういったものに一切毒されていない。もしくは、そういったものがわからないくらいサンプリング量が豊富なのかなとも思います。
直近の回だと、映画「君たちはどう生きるか」評が面白かった。インコの東京大発生の話、現代音楽家としての久石譲の話、駿の遺書としての作りなどなど、映画を観られた方は聴くと良いと思います。
余談ですが、旧タイトルを聴いていて思ったのですが、こういった前線で活躍されてる方々はなぜ器用貧乏を自称しがちなのか。いつも謎に思っています。やりたくない仕事で糊口を凌いだりしてるのかな…?
どうやって見つけたか?
Spotifyの、当番組の「この番組を聴いてるひとはこんなのも聴いてます」タブより発見。当番組聴いてるひとが、この番組も聴いていたのかな?と思いますが、どうなんでしょうね。
どの回がおすすめ?
ポッドキャスト界隈でとてもこすられているChatGPTについての前後編エピソード。私は後半の、AIが自動生成したものと、人間が作ったものの差の話が面白かったです。アウラ、という言葉を初めて知りました。
Netflixのドラマの話から始まる、埋葬についてのお話。バックボーンも興味深い夏代さんの死生観が面白かったです。
カルチャートーク番組 カエサルの休日
どんな番組?
クリエイターの乃木さん、画家のダニエルさんによる老舗のカルチャートーク番組。講義形式のエピソードと、お便りから雑談をするエピソードと硬軟取り混ぜてる印象があります。あまり、賽の目を振ってない気がしますが、そんなのはおいといて毎回、楽しいです。
講義形式の回では、乃木さんによる歴史(第二次大戦中のドイツや、中世日本の話)、ダニエルさんによる近現代美術のものが聴きごたえがあります。
特に、乃木さんによるバビ・ヤール、第三帝国の興亡のエピソード、ダニエルさんによる日本美術の回が面白かったです。
雑談形式の回では、映画の話も多々あり、見方が映画ファンじゃなく造り手側の目線なのもあって、ほかの映画ポッドキャストで聴けない話題や切り口が出てくるのがとても面白いです。直近だと、こちらも「君たちはどう生きるか」のアニメーションとしての動きの過去作との違いの話、参照している近代美術の話など面白かったです。やっぱり読み解きがい、あるんですね。
どうやって見つけたか?
桜川マキシムのジャパンポッドキャストアワードで当番組が扱われた際に、そのときのノミネートエピソードである当番組の「ナウシカ」回が「カエサルの休日で取り上げられたナウシカの回と比べて、内容も学びも薄い」とRiccaさんに言われ、「なんだとーーー!」と怒りながら聴いたら、実際にそうだった、というところから過去に遡りつつ聴いてます。
ちなみに当番組のナウシカ回、すごく聴かれてるけれど、自信のない回の一つです。うまく出来てるやつ(PSYCHO-PASS、悪魔のいけにえ、サイバーパンクとか)ほど不人気なのが困ったもののです。
どの回がおすすめ?
いともたやすく行われるえげつない行為。ナチスのホロコーストの前段。ガス室が作られる前にどのようなことが行われていたのか、について乃木さんが事実を淡々と読み上げていくだけでも恐ろしい。
ダニエルさんによる美術の話。いつから美術と呼ばれるものが本邦で生まれたのか、について知ってるようでまったく知らないことを解説回。
謎解き!ハードボイルド読書探偵局(配信終了)
どんな番組?
胴元さんと、カエサルの休日と乃木さんが配信していたポッドキャスト番組。毎回、一冊の本や映画を深掘りして、それを読み込んでいく、というポッドキャスト番組。今年の2月に配信終了となっている。
私の番組で、やっている農業描写深掘りプログラムが「農業描写警察」から「農業描写探偵」になったきっかけになったのはこちらの番組を聴いたからです。
私はこの番組の胴元さんのふざけた言い回しがとても好きで、気に入っておりました。
本を好きでたくさん読んでるのを感じさせる語彙が豊富で、その部分を聴ける雑談だけでも楽しかったです。カエサルの休日と違って、こちらの番組では乃木さんが受け手に回っていることが多く、番組内での振る舞いも違っていて新鮮なこともありました。
残念ながら、胴元さんの体調不良をきっかけに三体の読み解きが中途で番組自体が終了してしまっております。ただ、ポッドキャストはアーカイブが残っている限り、再発見して聴くことができるので、紹介された本を読む機会があったら聴いてみると良いのではないでしょうか。
どうやって見つけたか?
諸星大二郎について喋ってるポッドキャストを漁聴していたときに見つけた。大傑作短編、闇の客人、生命の樹、の回は「聴きたいことが聴けた」のでとても満足してます。
それ以降、定期的に聴いており、映画「ウィッカーマン」、「おもひでぽろぽろ」あたりは「あ…おれの…農業描写探偵できそうなやつを…先にやられた…!」って思った思い出があります。
どの回がおすすめ?
現代のSNSにも通ずる部分がある狐憑の解説。青空文庫で原作も読めるので、導入として、読んでから触れてみるのをおすすめします。
作者の北野勇作さんに許可をとって、読みげてから解説する、という異例のオーディオブック+解説エピソード。100文字SFを淡々と読み上げて、解説まで聴けるという欲張りセットで、これから入っても面白いと思います。こちらは、当然、全文読み上げ+解説なので、単体で聴くことができます。
終わりに
いつまでも、あると思うな、親とポッドキャスト。
ポッドキャストはYOUTUBEやTikTokのようにお金にならない場合がほとんどです。お仕事の売上や営業につながるような結果が生まれてるのなら良いのだけれど、そうじゃないのに手弁当でやっているようなポッドキャストはもっと称賛されて然るべき、と思っています。
番組が終わってから、もっとコメントを送ればよかった、とかグッズ買っておけばよかった、って思っても後の祭り。推しは推せるときに推さないとだめですねってのを、購読ポッドキャストが終わるたびに改めて思い出したりします。
ポッドキャストは、その性質上、配信されてから何年もあとに掘り返されて聴かれます。TBSラジオ「東京ポッド許可局」のお便り募集の読みに「いつでもコメントを書き込んでください。あなたが聴いたときがオンエアーです」というのがあります。どうしても、最新回、最新番組、ばかりコメントしがち、されがちですが、掘り返してコメントを送るのはどんどんやってっても良いじゃないでしょうか。
配信する側としては何年も前のことでコメントされて、嬉しいけれど、まったく覚えてないってことになりそうですが。