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『エレクション』が見せる闇の世界


『エレクション』は香港ノワールの鬼才ジョニー・トー監督の作品で、香港を拠点とする中国最大のマフィア組織”三合会“を舞台に、2年に一度行われる選挙で会長の座をめぐって繰り広げられる手段を選ばない争いを描く。原題は『黑社會』。


“三合会”は、満州族の王朝だった清を打倒して漢民族の王朝を復興するために17世紀頃に結成された秘密結社。洪門会とも呼ばれていて、映画ではその名前でも出てくる。 20世紀になって拠点が香港と海外に移され、1960年代には300万人の香港居住民のうち6人に1人が何らかの関わりを持っていたと言われている。結成当時は兄弟愛や忠誠心に溢れていたが、その精神はだんだんと廃れてしまい、香港市民から「黒社会」と呼ばれて疎まれる存在になっていったという。


映画では、落ち着いていて伝統を重んじるロクと、強引で金にものを言わせるディーの二人が会長の候補になる。幹部の多数決でロクが会長に決まるが、それを認めないと言い張るディー。会長の証である“竜頭棍”がロクの手に渡らないように徹底的に妨害する。紆余曲折経てそれがロクの元に届くと、彼はディーに話し合いを持ちかけて、「一緒に尖沙咀(香港の一大繁華街)を攻略しよう」と提案する。ディーは納得して、晴れてロクは会長就任の儀式を行う。その後、順調にビジネスを(裏のやり方で)進めていた二人だったが、家族を交えて釣りをしていたのどかな日、「会長を二人にしないか?」と提案してきたディーに対して、ロクはついに本性を現す。


それまで常に穏やかな顔をしていたロクが、その場にあった石でディーを殴り殺す。その姿を息子に見られていることに気づいた時のロクの顔が凄い。このシーン以外でもそうなのだけど、この作品では銃声がしない。ジョニー・トー監督のスタイルの一つの、スタイリッシュなハードボイルドな感じは皆無。石や木の棒や刀で相手を排除する姿は野蛮だし、より生々しい感じがする。


組織のトップに君臨するために、手段を選ばない。そうなった時の人の発想の残酷さ。映画の始めのほうでロクを認めないと騒いでいたディーの、癇癪を起こす子供みたいな姿はまだ可愛いものだったんだな、と思わされる。十分残酷に見えてたけど。続編の『エレクション・死の報復』では、権力に執着するロクに対抗する冷静沈着なジミーが、さらに残酷なやり方を見せる。隠れていた部分が明かされる度に闇がどんどん深くなる。黒社会という表に出せない裏の社会の頂点を極めるということを、人の心の一番奥の闇を極めることで叶えようとしているように見える。


この映画は派手な銃撃シーンもなくて、どちらかと言うと淡々とストーリーが進んでいく作品。大事なシーンほどセリフが少ないので、ある程度マフィア映画を見慣れている人のほうが楽しめると思う。あ、これもほぼ全員悪人ですw『アウトレイジ』が好きな人は、また違う見方で楽しめるかもしれません。



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