『君と』 日韓ver. [script]
人物
キム・ミョンジン (20) 韓国人留学生
須山すみれ (20) 大学生
健太 (20) 映画サークルのメンバー
涼介 (20) 映画サークルのメンバー
映画サークルのリーダー (21)
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○目黒川の橋の上・昼
両脇に満開の桜。橋の上で一人佇むキム・ミョンジン(20)。スマホで一枚、桜の写真を撮る。その隣にカップルが来て、桜をバックに二人でセルフィーを撮る。楽しそうに去る二人を目で追うミョンジン。
○大学構内・本館前・昼
青々とした蔦が絡まる煉瓦造りの校舎。藤棚の下でサークルの勧誘をしている須山すみれ(20)。映画のポスターのコラージュに”映画愛好会”と書かれた看板。その前を通り過ぎようとして歩く速度が落ちるミョンジン。
すみれ こんにちは。映画好き?
ミョンジン はい
すみれ 留学生?
ミョンジン はい
すみれ どこから来たの?
ミョンジン 韓国です
ミョンジン、机に並べてあるチラシを見る。
すみれ 私、『リメンバー・ミー』っていう映画が好きなの
すみれの顔を見るミョンジン。
すみれ 原題は何だったかな
スマホで検索するすみれ。
すみれ あった。えーと…
ミョンジンに画面を見せるすみれ。
ミョンジン 『동감』ですね
すみれ それ!ハングル読めなかった
軽やかに笑うすみれ。つられて笑顔になるミョンジン。
ミョンジン その映画、僕も好きです
すみれ 名前聞いてもいい?
ミョンジン ?
すみれ あなたの名前
ミョンジン あー、ミョンジンです
すみれ 私はすみれ。花の名前よ
スマホで検索して菫の花の写真を見せるすみれ。
ミョンジン 아, 제비꽃
ときめくミョンジン。
ミョンジン かわいいです
すみれ、スマホをしまいながら、
すみれ 春の花だから今年はもう終わっちゃったけど
ミョンジン 来年ですか?
すみれ うん、また来年咲くよ
微笑むミョンジン。
○合宿先コテージ・川原・昼
川辺で冷やされている大玉のスイカ。水遊びをしているサークルのメンバー達。浅瀬に座って陽光を浴びながら、澄んだ水に足をつけているすみれ。隣にしゃがむミョンジン。ミョンジンを見るすみれ。その顔に水飛沫を飛ばすミョンジン。笑い出すすみれ。両手で水を掬いミョンジンの顔にかける。Tシャツまで濡れるミョンジン。膝まで川に入り逃げるすみれ。顔を振り、追いかけるミョンジン。サークルの男子メンバーが二人、泳ぎながら近づく。
健太 須山確保!
涼介 15時24分!
軽やかに笑いながら逃げるすみれ。
健太 ミョンジン、そいつを捕まえろ!
楽しそうに追いかけるミョンジン。
涼介 ミョンジン!
涼介に後ろから抱きつかれ、川の中に放り込まれるミョンジン。お腹を抱えて笑うすみれ。全身びしょ濡れのミョンジン。更に健太に放り込まれる涼介。じゃれ合う声。冷やされているスイカ。スイカの側に小さな魚が数匹。
健太の声 そろそろスイカ食おう!
ハンガーに吊るされたTシャツ。川岸でスイカを頬張るメンバー達。
健太 なぁ、ミョンジンって須山のこと好きなの?
答えに困るミョンジン。
涼介 一夏の恋しちゃう?
真顔になるミョンジン。
○合宿先コテージ・ホール・夜
白い壁にプロジェクターで映し出される映画を思い思いの場所で観ているメンバー達。床に並んでいる体育座りのミョンジンと、お姉さん座りのすみれ。ウォン・カーウァイ監督『欲望の翼』のエンドロール。
リーダー この後はメカス流します。ので、みんな適当に、緩く、楽しんでくださーい
白い壁に映し出されるジョナス・メカスの『Walden』。ホール内にあるバーカウンターの灯りが灯り、賑やかな声が聴こえて来る。寝転んで映像を眺めている者、タバコを吸いに外へ出る者、思い思いに過ごすメンバー達。すみれ、ミョンジンに、
すみれ 外の空気吸わない?
ホールの外に出る二人。
一面の星空。天の河が見える。
すみれ うわぁ!星!
目を輝かせる二人。
ミョンジン すごいね
すみれ 天の河が見える!
天の河を指差すすみれ。
すみれ 韓国語で何て言うの?
ミョンジン 은하수
すみれ いい響き
チラリとすみれを見るミョンジン。一旦下を向き、また星空を見上げる。
ミョンジン 美しいね
○大学構内・銀杏の樹の下・昼
秋晴れの空。葉が黄色に染まった銀杏の樹の下で誰かを待っているすみれ。離れた場所からそれを見つけたミョンジンがすみれの方へ向かおうとした時、サークルのリーダーがすみれに近づき、話しかける。立ち止まるミョンジン。
リーダー ごめんね、重いのに
自主制作映画のチラシの束をすみれに渡すリーダー。
すみれ 大丈夫です。ちょうど今日は渋谷に行くし、置いてくるだけですから
すみれに背を向け、その場から去るミョンジン。その向こうですみれに礼を言い、走って去るリーダー。チラシを抱えて校門へ向かうすみれ。
○大学構内・新館前・昼
ベンチに座ってノートや教科書を広げているミョンジン。開いたままの鞄。足元で枯葉が舞っている。校舎から出て来たすみれ、寒そうに見えるミョンジンを見つけ、近づく。前に立つと、
すみれ コーヒー飲みに行かない?
ためらうミョンジン。
すみれ 奢るから
○大学構内・カフェ・昼
入口に飾られているクリスマスツリー。レジでコーヒーを選ぶ二人。すみれが置いた千円札の上にそっと五百円玉を置くミョンジン。チラリとミョンジンを見るすみれ。一瞬目が合い、さっと視線を逸らすミョンジン。コーヒーを受け取り席を見渡すと、空いているのは横並びの席だけ。窓際に座る二人。コーヒーで両手を温めるミョンジン。すみれを見て微笑む。微笑み返すすみれ。
すみれ 授業は大丈夫?
真顔で首を横に振るミョンジン。
すみれ 何が難しい?
ちょっと待ってという素振りをして鞄から教科書とノートを出すミョンジン。
ミョンジン 助詞…
すみれ 見せて
ミョンジン ここはどうして”は”ですか?
すみれ うーん、”私”を強調したいからかな
ミョンジン んー
腑に落ちないミョンジン。
ミョンジン 私”が”やります。私”は”やりません
すみれ 待って、ここはね…
肩を寄せて座っている二人。風に舞う枯葉。
○目黒川の橋の上・昼
両脇に満開の桜。橋の上に並んで佇むミョンジンとすみれ。桜をバックにスマホで一緒にセルフィーを撮る。
ミョンジン (桜を眺め)本当に美しい
すみれ (同じく桜を眺め)うん、美しい
ミョンジン (すみれを見て)君と同じくらい美しい
すみれ (あら、という感じでミョンジンに)ありがとう
ミョンジン (真顔で)本当だよ
すみれ わかってるよ
軽やかに笑いながら桜に視線を戻すすみれ。
ミョンジン 一緒に来れてよかった
見つめ合い、微笑む二人。
○暗転
タイトル・「君と」
-END-
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