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『冷たい雨に撃て、約束の銃弾を』に学ぶミニマルな映画スタイル


『冷たい雨に撃て、約束の銃弾を』は、香港ノワールの鬼才ジョニー・トー監督の香港・フランス合作映画。ロック歌手のジョニー・アリディがマフィアに襲われた娘の仇を討つ父親役を演じている。


マカオで夫と二人の息子と暮らしていたアイリーン。夫を狙って自宅を襲撃したマフィアの手先に息子たちも殺され、アイリーンも重傷を負う。奇跡的に一命を取り留めた娘に会いに、フランスから父親のコステロがやって来る。話すことはできず、コステロが指す新聞の文字で言葉を交わし、復讐を願うアイリーン。パリでレストランを経営していたコステロは、実は過去に名を馳せた殺し屋だった。頭部に残った銃弾のせいで記憶は徐々に薄れていくが、偶然出会った3人の殺し屋とともにマフィアのボスへの復讐を果たす、というストーリー。


この映画で特に印象的だったのは、コステロが滞在先のホテルの通路で3人の殺し屋達と出会うシーン。手際良く仕事を終えて、硬質なホテルの通路に何食わぬ顔で出て来た3人を見ているコステロ。見られていたことに気づく3人。かなりの至近距離。フェイロクが握る銃と、それに目を遣るクワイ。顔を見られたことでコステロも始末されるのかと思いきや、取り乱すことなく黙って去るコステロを見て、何もせず去るクワイ。彼に続くチュウとフェイロク。殺しの仕事のシーンからここまで全くセリフなし。緊張感と謎の落ち着きが入り混じる独特な空気感だった。その後でコステロが3人に娘家族の復讐を依頼するシーンも、ホテルの一室がまた暗いのだけど、必要最低限の光と全く無駄のないセリフ。なんてスタイリッシュなんだろうと思った。コステロがポラロイドカメラを持ち歩いて写真を撮るのは自分の記憶力を補うためで、ポラロイドならすぐに見れるから。それから互いに話す言語が違うからコミュニケーションが片言の英語だけになる。なるべくしてそうなっている感じはする。だけど、写真を見せながら必要な単語だけで想いと依頼を伝える感じが、無駄を削ぎ落とした完璧なスタイルになっていた。


義兄弟同士、多くを語らなくても通じ合うというような場面はマフィア映画によくあるけど、この映画ではまず登場人物たちに言葉の壁がある。それを越えて復讐を依頼するのに、コステロは報酬をそれなりに積むけれど、3人はその報酬に応えて仕事をするだけの人間ではないところがある。3人とコステロがコミュニケーションを取っていく間には、コステロが作る料理があったり、銃の扱いを競う場面があったり、さらにクワイの家族との関わりがあったり、言語以外の交流がじっくり描かれているのが面白かった。最終的に、3人はコステロのために義兄弟以上に命をかけて、コステロもそれに応える。ラストシーンはコステロの笑顔で終わるのだけど、なんとも言えない笑顔。無理に言葉にしなくていいよと思わせる、そんな笑顔で終わる。


この映画は、言葉に頼らず映像で表現することをスタイリッシュに突き詰めた作品だなと思う。これを観てマフィア映画に興味を持ったので、私にとってはある意味デフォルトのような作品。ジョニー・トー監督の独特な美学に西洋的な異国情緒も感じられる、とても面白い作品です。



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