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香港ノワール、ジョニー・トーの作品が好きなんだ


ある日、代官山の蔦屋書店のDVDコーナーを眺めていたら『冷たい雨に撃て、約束の銃弾を』のジャケットが目に入った。それを観たのが私が香港のマフィア映画に興味を持ったきっかけ。


一番最初に観たのがジョニー・トー監督の作品で、それがデフォルトになった。何が好きだったかというと、無駄なセリフがないこと。シーンの構成や演出がスタイリッシュに見えたこと。極力削ぎ落とされて突き詰められた感じが美しいと思って興味が向いたから、暴力的なシーンに感情移入することなく、客観的に映画を”鑑賞”することにそれまで以上に慣れることになった。(マフィア映画でいちいち感情移入していたら身が保たない。ただ銃撃戦は観れるけど手術シーンは今でも苦手だ)


それから『ザ・ミッション 非情の掟』と『エグザイル / 絆』を観た。この2作品はメインキャストが同じで、テーマも組織と友情の葛藤みたいな感じだから、順番に観ると『エグザイル / 絆』が同窓会みたいになる。役柄が多少入れ替わっているけど、また仲間が皆で集まった感じがするから。『エグザイル / 絆』は脚本なしで撮影していて、完全に監督の気分次第でストーリーが決まっていったらしい。別の映画の制作で疲れて燃え尽きそうになっていた監督が、もう一度映画が好きだと思えるように、完全に信頼のおける役者さんを集めて作った作品。その実際のエピソード自体が”絆“を表しているみたい。気分次第といっても監督の手腕で散らかることはないし、気分次第だったからこそなのか、空気感が自由で開放的な感じがする。撮影地も異国情緒のあるマカオの街中から砂漠、ジャングル、港まであちこち。組織から逃げる話だからストーリーとしては束の間の自由という感じだけど。


ボスを撃って逃亡していたウーが家族の元に帰ってきたことで、ボスからウーを始末するように言われたブレイズ、ファットのコンビと、先の件に関わっていたためにそれを阻止しようとするタイ、キャットのコンビ。いきなりの銃撃戦の直後に皆でウーの引っ越しを手伝うシーンがあって、さっきまで撃ち合っていたのに、家具の組み立てから続いて食事の準備も始まり、あっという間に団欒の風景に。マフィア映画ではお約束の食事のシーン。銃撃の時に鍋に入り込んだ銃弾がブレイズの口から出てきて皆で笑うとか、記念写真を撮るとか、友情と絆を印象づける場面。とにかくセリフが少ない。でも仕草や表情や小道具の、映像表現で全部伝わる。実際に気心知れている仲間たちで映画を作っている雰囲気も。広東語や北京語、英語と元から複数の言語が飛び交う環境だから、というのもあるかもしれないけど、言語に頼らない伝え方が研ぎ澄まされていて、独特のテンポと雰囲気を生んでいる。ジョニー・トー監督は興行を意識した作品と自分のセンス全開な作品と完全に割り切って作る人だけど、やっぱり好きに作っている作品の方が面白いと感じる。ちなみにウーの奥さんジン役のジョシー・ホーの実父はマカオのカジノ王。本物。


ウーの「妻に金を残したい」という望みを受け入れて協力したものの結局ウーが死んでしまい、ボスに追われることになった4人が逃亡の途中で出会う、金塊輸送車の警護をしていたチェン軍曹は、別の強盗たちに警護隊を全員殺されて孤軍奮闘していたところを4人に加勢されて命拾いする。戻っても自分が疑われると言うチェンにブレイズが「じゃ一緒に逃げるか?」と言って仲間になるんだけど、最後にウーの妻と赤ん坊を人質にしたボスに呼び出された4人と別れる時に、サラッと「夜明けまでは港で待ってる」って言う。そういうの、なんかいいな、と思う。


裏社会が物語の舞台だから友情と絆を描くにも常に命が関わるし、だからこそそれが際立つし、それから死に様を描くことでその人の生き様がわかるというのがマフィア映画の面白いところだ思う。ジョニー・トー監督の作品は、それをエッジの効いた寓話として楽しめる気がする。


あとそう、『ザ・ミッション 非情の掟』では、ビルの谷間の何でここに?っていう場所にゲータレードの広告がある。『エグザイル / 絆』は最後の銃撃戦の前にレッドブルの缶で缶蹴りをして、缶が高々と蹴り上げられた時に超クローズアップになる。たぶん出資してくれたんだよね。その御礼がこれ見よがしw そんなセンスも好きだな。


マフィア映画が好きな人にはお勧めしたいけど、絶対好みが分かれると思う作品w




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