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私の“0→1”体験のすべて


アイデアが出て来ても、形にするのが苦手だった。人がいないとか、お金がないとか。それでも、形にすること。それを“0→1”(ゼロイチ)と呼んで提案してくれた先輩がいた。とにかく今あるものでやってみること。ない、と思い込んでいる私にはかなりのチャレンジだった。


ないなりに、あるものはあった。コンセプトは“地球に降りて来た宇宙人”で、自分をモデルにした。ヘアメイクは友人がいる。映像のカメラマンは知り合いにいなかったけど、何度か写真を撮っていただいた方に思い切ってお願いしてみたら、快く引き受けてくれた。だから私がデジタルハリネズミというトイカメラで宇宙人の視点から映像を撮って、写真の間を繋ぐことにした。録音を頼める人はいなかったけど、音楽を作れる友人がいた。子育て中で新譜は作れないけど、今あるものを使っていいと言ってくれた。


私以外は、キャリアのあるプロフェッショナルだ。それでも私に協力してくれて本当に有り難かった。私は感性を信頼している彼らと0→1の作品を制作できたことが嬉しかった。何かを作るなら感性で繋がっている人とやることが、私にとっては最優先事項だから。


ロケーションは天王洲に決めていた。コンセプトの他にテーマがあって、それを表現するには夜明けがいいなと思っていた。が、私が思い描いていた理想の夜明けは、天王洲では建物が多すぎて無理だった。カメラマンの方が先にロケハンに行ってくださり、話を聞いてから私も実際に行ってみた。

「なるほど」

実際の景色を見て、イメージが崩れた。頭では「朝がダメなら夜で」と前向きに考えているのに、落ち込んで動けなかった。カフェでスマホを見つめ過ぎて翌日ものもらいができた。


翌週、諦めがつかなかったか、無理なことを確認するために2度目の夜明けのロケハンをしていて、「寒いな」と思った。考えたら朝5時頃に家を出て、お気に入りのカフェがオープンするまで3時間も外を歩き回っていた。12月の天王洲。頭の中は前向きなのに落ち込んだのは、身体が冷えていたからだと気づいた。


夜明けにこだわっていたのは、地球に降りて来た宇宙人を包む慈愛の象徴が太陽だったから。“Stranger in Paradise”という曲の「慈愛があれば訪問者は異邦人ではなくなる」というのがテーマだった。それを潔く手放した。宇宙人のイメージをよりわかりやすく見せるには、やっぱり夜の天王洲の方がよかった。慈愛というテーマを削ぎ落として、コンセプトだけに集中して絵コンテを描き直した。実はラストに朝のワンシーンを入れようと最後まで考えていたけど、音楽のメロディーの流れとのバランスでそれもカットすることにしたので、映像が尻切れにならないように自分の解釈を変えようと試行錯誤した。そうしたら、「地球人とコミュニケーションを取りたくて地球に降りて来た宇宙人が、天王洲の街を歩きながら文字(アルファベット)を発見して地球に来たことを実感する」という解釈がしっくり来て、ストーリーがよりシンプルになった。しかも、慈愛というテーマに合うかどうか、と言われたノスタルジックな音楽が表現する懐かしさが、「地球に(ずっと前にもいて)また来たかった」という感覚を表せると気づいた。これでいいな、と思えた。


0→1で学んだことは、まず、気分が落ち込む時は身体が冷えてる。ぬくぬくしている時に落ち込むとかないもんね。だから何かネガティブなことを考えそうになったら、冷えてないか確認してる。寒いだけだと気づいたら気持ちまでは落ちない。それから、潔く手放したら新たな道が見えるといいこと。今回は先輩に報告したいという気持ちがあったので、諦めるという選択肢はなかった。退路を絶ったら前に行くしかないので、こだわりを捨てて別の道を探したら、結果的に現時点でのベストを見つけた。一人だったら投げやりになってしまったかも。報告できる相手がいるというのは、本当に有り難いことだ。そして更に、その時の試行錯誤が、すごく楽しかったということ。選択肢がほぼない中で、それでも試行錯誤してたら、『アポロ13』を思い出した。私の場合は命までは懸かってないけど、乗組員を救うために地上のクルーたちが必死に船内にあるものだけで逆噴射するための装置を作る時の、できないかも、なんて1mmも考えない、あの感じ。こういう試行錯誤を、一人でやっても楽しかったけれど、チームでやれたらきっともっと楽しいよね。


けもの道でもいいんだ、通れれば。
蜘蛛の糸でもいいんだ、繋がれば。

そんなことを思った。


その時の自分にとって本当にベストな選択は、エゴのこだわりを捨てた時に浮かび上がるものかもしれない。自然とそうなったなら、なるべくしてなったのだろう。今回の作品に関して言えば、もう少し明るいものを作ろうとしていたけど、私にとっての0→1としては、これくらい深みがあっていいのかなと思った。私という存在の核を表している感じがした。穏やかな深海のような雰囲気の作品になったから、この最深部から浮上するということにしよう。


そんなわけで、0→1の体験はとっても濃くて、私にとって忘れられないものになった。人生で印象深いことがあると「走馬灯リストに入った」って心で思うのだけど、これも完全にリスト入りです。やっぱり本当にワクワクする創造って、作品を作る以上に、そのプロセスとか経験の創造かもね。



協力してくれたみなさん、本当にありがとうございました。ナイスファイト、私。



Photo : Kiyoshi Yamauchi

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