『Amethyst』[script]
人物
傷だらけの男 (36)
バーの女 (34)
街を歩き回る男1 (32)
街を歩き回る男2 (30)
街を歩き回る男3 (29)
店の主人 (56)
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○アジア街・夜
街の全景。五月頃。青みがかった夜の闇。
○アジア街の大通り・夜
ネオンに彩られた街の大通り。足取り重く歩いている傷だらけの男。顔には殴られた痕があり、それに重なるように更に血が滲んでいる。腹部に力が入らず猫背。
○街外れのバー・中・夜
薄暗い店内。琥珀色の灯り。カウンター内に座っている女。客はいない。入口のガラスの扉がいきなり開き、目を遣る女。扉に寄りかかるように立っている傷だらけの男。よろよろと店に入り、カウンターを伝い一番奥の席に腰を埋める。顔を伏せている男をじっと見つめていた女、おもむろにグラスを取り、ウィスキーを注ぐ。男のそばにそっと置かれるグラス。微動だにしない男。
○[回想]アジア街の大通り・昼
数年前の冬。通りを歩く女。持ち物は大きめのバッグ一つ。当てはないが迷いもなく歩いている。
○街外れのバー向かいのコーヒースタンド・昼
コーヒーを飲んで身体を温めている女。ふと向かいのバーから人が出て来るのを見る。
○街外れのバー・外・昼
しばらく放置されていたバーの前で話している店の主人と女。
店の主人 最近また変なのが増えてな。面倒はたくさんだ
女の手のひらに落とされる店の鍵。
○街外れのバー・中・夜
板張りの床を拭く女。続けてテーブルやスツール、カウンター、ガラスの扉も拭く。脚立に乗って照明具の白熱灯を取り替える。グラスやマドラーも洗い、カウンター内の換気扇を綺麗にして終わる。
○街外れのバー・外・夜
“open” のプレートが掛かった店の中で客を待つ女。足早に過ぎる数人の人通り。
○街外れのバー・中・夜
PCで落ち着いた音楽をかける女の手。カウンターに立つ女。訪れる客。
○街外れのバー・中・夜
数年後の春先。女、そろそろ店を閉めようとレジに手をかける。ガラスの扉がグワンと開く音。振り向いた女の頭越しに一人の男の姿。顔に殴られたばかりのアザ。扉に寄りかかるように立っている。その姿をじっと見つめる女。女と目が合う男。レジにかけていた手をゆっくり下ろす女。男、身体を引きずるように店に入り、カウンターの一番奥に座る。女、おもむろに扉のプレートを “close” にする。カウンターに戻り、男に視線を向けたまま静かにグラスを取る女。
○街外れのバー・中・夜
数週間後。扉がグワンと開く音。男の顔に新しい傷がついている。前回同様、カウンターの一番奥に座る。プレートを “close” にし、無言でウィスキーを注ぐ女。来る度に新しい傷を創っている男。[回想終わり]
○街外れのバー・中・夜
一際大きな音で扉が開く。入口に目を遣る女。これまでで一番酷い状態の男の姿。擦れた跡のある革靴、汚れた服、血の滲む口元、ほとんど開いていない左目。扉に肩を押し付け て前かがみになりながらどうにか姿勢を保ち、カウンターに手を伸ばす。乾いた血がこびり付いた右手。中指と薬指の爪が割れて肉に食い込んでいる。カウンターに顔を埋めたまま動かない男。それをじっと見つめる女。ウィスキーのグラス。遠くで罵声。チラリと外を見遣る女。ガラスの扉に内側から鍵を掛け、ブラインドを閉める。綺麗に片付いているカウンター内。回っている換気扇。女、レジから売上金を取り出し、そっと男を見遣ると、照明具のスイッチを切り、裏口から店を出る。ついたままのPCから流れる音楽。全く動かない男。
○アジア街の大通り・夜
人通りの多い表通りを歩き回る血の気の多そうな男三人。
○街外れのバー・中・夜
回り続ける換気扇。動く気配のない男。スツールに埋まり座った姿勢を保つのがやっと、という様子。街の喧騒。薄暗い店の中。一瞬の静寂。回っていた換気扇からすっと入り込む一枚の薔薇の花びら。男の額を目指すように舞い降りるが、カウンターの端に当たって手前に落ちる。しばしの間。僅かに動く男の指。薄っすらと目を開く男。頭を錘のように脱力したまま、なんとか上体を起こし、ポケットに入っていた小銭や千円札を無造作にカウンターに置く。どうにか立ち上がり、店の奥の裏口までよろよろと歩いていく。
○アジア街の大通り・夜
表通りを歩き回る男三人。血の気を張り巡らせ傷だらけの男を探している。先頭を歩いていた男1、バーの裏通りに交差する道を通り過ぎる。
○バーの裏通り・夜
裏口の扉を開け、置きっ放しのゴミ袋に躓きながら細い裏通りへ出る男。表通りを背に壁を伝ってゆっくり歩き始める。男1の数歩後ろを歩いていた男2、傷だらけの男の姿を捉え、
男2 いたぞ!
叫ぶ男2。数歩先を歩いていた眼光鋭い男1、踵を返し裏通りに走り込むと勢いそのまま、振り返りかけた傷だらけの男の頬を狙い殴り倒す。
男1 覚えてんだろ?
男1、倒れた傷だらけの男を跨ぎ胸ぐらを掴むと、拳の裏で思い切り頬を殴り払う。静かに降り出す雨。男2と3、傷だらけの男の頭や腰、腹に蹴りを浴びせる。口から血を吐く傷だらけの男。雨脚が強くなり、返り血も雨に流れる。ずぶ濡れになり、その場を去る男三人。血塗れで仰向けに横たわる傷だらけの男の顔を降り頻る雨が叩き続ける。薄っすらと開いた目に雫が入り込んでは流れ、傷だらけの男、一度だけゆっくり瞬きをする。瞳孔のアップ。一瞬、フィルムが巻き戻るような色褪せたイメージ。
○暗転
-END-
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