大阪ストラグル(第1部)第16話

 信号待ちでヒロが話しかけてきた。
「タケシ!! お前、金子建設の場所わかってるんか?」
「ああ!最初のコンビニからコッチ来る途中で看板見えたからな!何となく覚えてるわ」
「よう見とるな…っていうか、どんな記憶力やねん」
 そんなことを話しながら、ふと対向車に目をやると、1台のXJがこっちを見ていた。俺が心の中で、生意気に俺と同じバイクに乗りやがって、と見ていると、向こうが挑発してきた。こっちを見ながらバイクのアクセルを空ぶかししている。

 信号は青になったが、向こうも走らせない。空ぶかしをしながら挑発は続く。俺も自然と挑発に乗っていた。ヒロは辛抱たまらず後部座席から飛び降り、相手のいる対向車線へ走って行った。
「なんやお前コラァ!!」
 ヒロが近づくと向こうはバイクを急発進させた。俺は即座にバイクをUターンさせ、後ろから追った。置き去りにしたヒロの怒号が遠くなっていく。
「オイ!! 待てって!! 置いてくなって!! コラァ〜!!」
 猛スピードで追いかけた。横に並んだのは次の信号。ヤツが赤信号でスピードを落としたからだった。俺はバイクを真横につけた。そして、声をかけた。
「ちょっと降りてくれや」
 そう言うと素直にバイクを歩道側に寄せ、男はメットをとった。
 金色の髪が目に飛び込んでくる。しかし金髪よりも何よりも、その男前ぶりに俺は驚いた。
 こいつが金子か!? 咄嗟にそう感じた。
「お前、金子か?」
 男はニヤリとした。
「ちゃうけど?」
 そう言い放つとまたニヤリと俺の顔をみている。なんやこいつは……そう思った瞬間、金髪はこう言った。
「自分、大川のツレやろ?」
 正確には大川のツレではなく、柿本のツレだが、事の発端は大川だ。にしても何故コイツは俺を知っているのだろうか…。
「そ、そうや! お前、なんや? 誰や」
「俺は金子のツレや。お前ら金子を探してんねやろ? 大川連れてこいや、ほな会わせたるわ」
「俺らもあいつがどこにおるか知らん。ええから金子んとこ案内せぇや!」
「おーおー、あっそうや。マナミ…やったっけ? 大川の彼女…」
 瞬間、ざわっと身の毛が立つような気がした。柿本がボコられた際にマナミも一緒にいたこと、柿本に頼まれたヒロが、マナミは家に帰っていたと確認したこと…それらはすでに聞いていた。しかし、ココでマナミという名前が出る不吉さ……。

「マナミちゃんがどうしたんやコラ!」
「そうイキりたつなや。何もしてへんがな。ちょっとだけドライブして…そのまま家に帰したわ。……前科持ちにはなりたないからの」
 前科持ち、という言葉を聞いた瞬間、やはり、というかこの発言は俺に恐怖を与えるためだった、と確信した。目の前の男は軽い口調でドライブなどと言っているが、実際は強引に車に拉致した後、“前科持ち”になってもおかしくないようなことをマナミにした…そういう可能性をあえて匂わせていた。
 金子のツレだという金髪は、心から楽しそうな表情で俺の顔を覗き込んでいる。
「何がちょっとドライブや…マナミちゃんと一緒におった奴をボコボコにしといて」
 金髪は一瞬怪訝そうな顔をした。俺が言ったツレというのが、柿本だと繋がるまでの間のようだった。
「ああ!アイツな!そら、女に話があったのにアイツが邪魔してくるからやん。アイツをボコって女の方をとりあえず車に押し込んだんや」
「で、そのまま家に帰したんやな」
「ちょっとお喋りしてからな。あの女も大川の居場所ホンマに知らんようやったし…泣き喚いて煩いし……で、お前ら金子に会って何すんねん?」
 俺は答えに躊躇した。柿本をボコボコにした金子をぶっ殺しに来たハズだが、目の前の金髪に翻弄されているような気がしていた。
「ちなみに金子は狂ってんぞ。あの女もいきなりヤろうとしてたからな」
「…何やと?」
「俺が止めたんや。アイツは俺がおらんかったら喧嘩もヤメへん。相手がぐったりしてても死ぬまで殴り続けるからな」
「お前はなんやねん」
「俺は金子の子守みたいなもんやのー。ハハハハハ。子守って! ハハハハハ」
 なんやコイツもイカれてんのか…。そう思った時、派手な爆音が聞こえた。その直後、道の向こうからコッチに向かってくる3台のバイクの影が見えた。
「お前、まごまごしてる間に主役の登場や。偶然通ったんやろうけど、ツイてないのー。ハハハハハ」
 バイクを停めて、180はゆうにある長身の男が俺に向かってくる。
「なんやお前コラ! あっ? 俺のツレと何しとんじゃ! コラァッ!」
  聞いたこともない地鳴りのような怒声が耳をつんざく。

 コイツが金子か…。

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