続・桃太郎 ~「めでたしめでたし」の向こう側~
ーー続きが読みたい。
桃太郎の続きが。
皆さん、僕は至ってまともです。何を言い出すんだという顔をするのはよして頂きたい。たとえ世間様に訝しがられようとこの思いは止められない。桃太郎の物語の続きが読みたいんだ、僕は。突然そう思ってしまったんだ。恋はするものではなく落ちるものであるという言葉があるが、桃太郎の続きが読みたいという感情もそれに近いものがある。意思によるものではないのだ。いつの間にか、もしくは突然に、抗いようのない激しさで湧き上がる気持ちなのだ。もう止められない。
でも、桃太郎の続きは(多分)ない。
ないなら作るしかない。
僕が書こう。桃太郎の続きを。めでたしめでたしの向こう側を。桃太郎・ザ・ビヨンドを。
――この先は見届ける覚悟のある者だけがついてきてほしい。
「桃太郎〜取り返した平和の代償〜」
桃太郎が鬼を退治してから約一年が経っていた。
おじいさんとおばあさん、そして桃太郎は3人で暮らしていた。暮らしぶりはめっちゃ良かった。それもそのはず、彼らは鬼ヶ島から持ち帰った宝物を売ることで生計を立てていたからだ。
その様は「成金」の一言で全てが表現できた。要はイケイケだった。そうした生活を目にしていた周囲の村人たちに「なんらかの形で困窮すればええのに」と思われる程度には調子に乗っていた。
しかし、その生活は風前の灯であった。
村人たちの暗い願望が実現するのを持つまでもなく、実は桃太郎一家の豪奢な生活はその豪奢さがゆえに終焉を迎えようとしていた。つまり、使い過ぎによる自滅である。
ある日の夕方、桃太郎一家は宝物庫に集まって家族会議を開いていた。
おじいさんが口を開く。
「この宝石が最後の一個じゃ…どうしよう」
「………ふん」
憮然とした表情でおばあさんが鼻を鳴らした。不機嫌な時の彼女の癖だ。おじいさんはそれにカチンときたようだった。ギッとおばあさんを睨みながら憎々しげに吐き捨てる。
「ばあ様が贅沢しすぎなんじゃ」
おばあさんは食い気味に言い返した。
「はぁ? お前様も散々贅沢しとったろうが!」
桃太郎は黙って2人の話を聞いていた。あんなに仲が良かったおじいさんとおばあさんが言い争う姿を見て、己のしたことが愚かだったのかと自問した。しかし彼もまた鬼討伐後の報酬の大きさに高揚しなかったといえば噓になる。豊かな暮らしを享受することは当然の権利だと考えていた。
口汚い罵りあいが一通り済むと、おばあさんがおじいさんの手の宝石を取り上げて言った。
「仕方がない。この宝石を売ってそれを元手に商売でもしよう。なぁに、潤沢な資金があれば大丈夫じゃ。商売が軌道に乗りさえすればこの暮らしを持続させることができる」
なんて安易な考えなんだ……桃太郎は思ったが口には出さずにいた。宝石を取り上げられたおじいさんはしばらくの沈黙のあと、「それしかないか」と言った。
桃太郎は「それしかないことないよ」と思ったが黙っておいた。
日が落ち、おじいさんとおばあさんは就寝した。老人の夜は早い。桃太郎はまだ眠れそうにもなかったが別にやることもないし寝床につこうかと自室へ入ろうとした。
その時だった。
宝物庫の方でとてつもなく大きな爆発音がした。
桃太郎は即座に宝物庫へと走り出した。自室から宝物庫まではそれなりの距離があった。無駄に広い豪邸を建てたことに今さらながら腹が立つ。途中、さきほどの爆発音で起きたのであろうおじいさんとおばあさんも合流した。廊下を疾走する速度は老人のそれではなかった。その速度が事態の深刻さに全員が気付いていることを示していた。
宝物庫に着くと、扉が破壊されていた。
息せき切って、中に入るおじいさん。その様子を桃太郎は破壊された扉付近で見守っていた。この後おじいさんの口から出てくる言葉……桃太郎にはそれが何なのか8割がた予想がついていた。
「ない…宝石がない!!」
やはり……。強奪されたか……。桃太郎はため息をついた。ふと横に目をやるとおばあさんの拳を固く握りしめていた。
「探せ。我らの宝を盗んだ痴れ者を」
おばあさんは怒りと憎悪に焼かれた声を震わせた。爪が食いこんだ拳から血が流れ、今や何もない宝物庫の床に一滴、二滴と落ちた。
絶望のおじいさん・憤怒のおばあさんとは対照的に桃太郎は落ち着いていた。桃太郎にとって目の前の惨事は予想の範囲内であった。いずれ起こるであろうことが遂に起きた、そんな感覚であった。
桃太郎のもとに手紙が届いたのは3ヶ月ほど前のことだった。差出人は犬。言わずと知れたかつての戦友である。
手紙の文面はこうだ。
「桃太郎さんから分けてもらった宝物が原因で、僕たちの絆は壊れてしまいました。ごめんなさい」
弱々しい筆跡に桃太郎は哀れさを感じていたが、当時の彼はおじいさんとおばあさんと一緒になって浮かれ倒していたので、その手紙は一読して引き出しにしまい込んだままだった。
犬が書いた“僕たち”とは当然のことながら犬・猿・キジのことである。彼らの身に具体的に何が起きたのかはわからない。宝物を巡って争いが起きたのか、3匹のうち誰かが持ち逃げしたのか…はたまた桃太郎一家のように全てを使い切った挙句に憎しみだけを残して離散したのか。
眼前に広がる宝物庫爆破盗難事件に彼らが何らかの形で関わっている――そう桃太郎は考えたが、即座にその可能性を頭から追いやった。かつての仲間を疑うことは桃太郎にとって我慢ならないことだった。
しかし、桃太郎の疑念を確信に変えてしまう物証が宝物庫には残されていた。それを見つけたのはおばあさんだった。
「この緑色の羽はなんじゃ……」
おばあさんが床から拾い上げたのは美しく輝く緑色の羽だった。それは、紛れもなくキジの羽だった。
桃太郎の脳の中で何かが弾けた。宝物庫に桃太郎の低い声が響く。
「じじい、ばばあ」
「鬼退治に出た時の装備一式、まだあるよな?」
おじいさんとおばあさんは一瞬息を飲んで桃太郎を見つめたが、やがて2人揃ってゆっくりと頷いた。
翌朝――。
大量のキビ団子を持ち、戦いへと赴く装束を纏った桃太郎は家を出た。おじいさんとおばあさんは戸口に立ってそれを見送った。おばあさんは旅立つ桃太郎の背に向かって「必ずや宝石を持ち帰るんじゃぞ」と叫んだ。おじいさんは「そうじゃそうじゃ」と言った。
桃太郎は振り向きはしなかった。必ずあの外道に天誅を下す、その一心だった。
まずは情報収集をする必要がある。桃太郎は1年前に成し遂げた鬼退治の際の経験則を活かす方向で動き出した。敵の居場所・勢力・彼我の力量の分析・不足している戦力の増強……道中で全てを整えた後に敵勢力を殲滅する。
やるからには徹底的に叩く。問答無用…。己を鼓舞するためなのか、桃太郎はブツブツと物騒な言葉を吐き散らしながら道を行く。すると、通りすがりのブタに声をかけられた。
「桃太郎さん、桃太郎さん。お腰に付けたきび団子、一つ私にくださいな」
圧倒的な既視感。1年前は無邪気にも「あげましょう、あげましょう~」などと先方の奏でた節に乗っかって応答したものだが、畜生に裏切られた今となってはその記憶すら苦々しいものだった。
桃太郎はブタに冷い目で見ながら言った。
「歌うな。俺の欲しい情報をくれたらきび団子の一つや二つは与えてやる。有用であればあるほど報酬は弾むぞ」
ブタは真顔になって頷いた。桃太郎は詳細を話した。
「すみません何も知りません」
ブタがそう言うと、桃太郎は「ちっ、ブタが」と言った。
ブタは「ええ~」と小さい声で言ったが、桃太郎に睨まれたので走ってその場を去った。
桃太郎がさらに道を進むと、今度は牛がいた。
「桃太郎さん、桃太郎さん。お腰に付けたきび団子、一つ」
「歌うな。団子はやる。知ってることを話せ」
ブタ同様、牛も何も知らなかった。桃太郎は「何なのお前」とだけ言ってすぐにまた歩き出した。牛は何だか自分の存在を否定されたような気がして悲しくなった。美味しそうと思ったきび団子は今や味がしなかった。
朝から休みなく歩き続けた桃太郎の影が夕日で長く伸びていた。暗くなる前に野営できる場所を探すか……桃太郎は辺りを見渡した。その時、遠くの方から人々の悲鳴が聞こえてきた。
【続く】
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……はっ!僕は一体何を書いてたんだろう。ココ数時間の記憶がない。そしてちょっと頭が痛い。読み返してみたらメルヘンのメの字もないどろどろした展開になっている。こんなつもりじゃなかった。僕の中にいるシナリオライターがコッチ方向のヤツとは知らなかった。何だよ宝物庫爆破盗難事件って。字面が怖すぎるだろ。あとブチ切れてからの桃太郎。ブタとウシに冷たすぎるだろ。彼らはなんも悪いことしてないのに。きび団子が欲しかっただけなのに。こんなことになるなら続きなんて書かなきゃ良かったとさえ思ってしまう。
でももうダメだ。後戻りはできない。僕の中のシナリオライターが桃太郎の続きの続きを書きたがっている。この先の展開がどうなるのかは分からない。もしかしたら鬼ヶ島の鬼達が好き勝手暴れていた頃の方が100倍マシだったと思うような結末が訪れてしまうかもしれない。それだけは避けたいから、いや、避けねばならないから、野郎(僕の中のシナリオライター)の暴走を食い止めるという意味でもとりあえず今回はココまでにしたいと思う。桃太郎の世界に本当の平和が訪れることを誰よりも願っているのは他でもないこの僕だ。もうこれ以上の暴走は許さない。次回までに野郎を全力で説得する。万が一説得に失敗して抹殺してしまったら、桃太郎は未完となる。
文:松真ユウ
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