【連載小説「辻家の人々」】011 息子の嘘/辻ヤスシ
練習すらまともにさせてもらえない環境。先輩からの可愛がり。自身の事しか考えていない顧問。それらすべて嫌気が差し、入部3ヵ月で野球部を退部した。
そのことを親に直接伝えなかった。
いや、正確には“伝えられなかった”という表現が適当だ。
何故、伝えられなかったのか。
それは、自分が野球をやると言った時の嬉しそうな父親の顔を裏切るような気がしてならなかったから。
読書部(という名の帰宅部)に在籍してからは、学校が終わると友達の家でゲームをしたり、ゲームセンターに行ったりして放課後の時間を潰す。
部活が終わる時間に合わせて家へと向かい、近くの公園に寄ってユニホームに泥を塗り、あたかも部活でクタクタですというような顔で家に入っていく。
そんな毎日。
野球を一所懸命やっていると思っている父親、意図的に汚したユニホームをいつも綺麗に洗濯してくれる母親。申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
ただ、そんな息子のウソは1ヵ月も経たずして見破られた。
直接問い詰められたわけではない。
ただ、毎朝机の上に用意してくれているはずのユニホームが2日連続で置かれていなかったことで、察した。
野球部をヤメただけでなく、それを隠すためにウソを塗りたくった。
謝ればよかった。
「ごめん!!」
その一言でよかった。
しかし、勇気がなかった。
その日を境に親とは食事以外では顔を合わさぬよう避け続ける日々を送ることとなってしまった。
そんな日々は約1年間続いた。寧ろ、「おはよう」「ただいま」「おやすみ」…そんな挨拶すらしなくなったんだから悪い方向にエスカレートしていったと言っても良いだろう。本当にクソみたいなダメ息子だ。
ただ、その関係を打破するキッカケとなる1人との出会いがあった。
その人物というのは、平成の怪物・松坂大輔だった。
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