大阪ストラグル 第3部 001話
桜舞い散る4月初旬。
俺はS工業の2年になっていた。
1年の時はサボりすぎて出席日数がほとんどの教科で足りなかったが、そこはゆるさにかけては一級の工業高校……担任のさじ加減一つで、形だけの追試を受けて無事に進級する事ができたのだ。
入学した当初は、高校を卒業したところで意味がない。そう思っていた。
大学なんて行くわけも、行けるわけもない。
就職も頭にはなかった。
このままパチスロで日銭を稼ぎながら死んでいくのかな、ぐらいに思っていた。
将来の夢なんて考えたこともない。寝て起きてその日が楽しければそれでよかった。
1年の夏頃には辞めているはずだったが……こうして2年へと進級している。今考えると、似た者同士の友人なども増えて知らず知らずのうちに俺はこの工業高校から離れたくなくなっていたのかもしれない。
教室の窓から外を見ながら、坂井が口を開いた。
「おい、タケシ、ま~た悪そうな一年いっぱいおるな」
「俺らも同じこと言われたんちゃうか」
俺も校門の方を見下ろした。
「なんか一つしか変わらんのに初々しくみえるもんやなー」
「坂井、そりゃお前、先月までアイツらは中坊やってんから当たり前やろ」
「おー、見てみアイツ。すごい頭しとんな。めちゃ気合い入ってるやん」
そう言って坂井は笑いながら指さした。
促された方向を見ると、上部はトサカのように逆立てたアイパー、側頭部をビッチリ撫でつけてある一際目立つ男の姿が見えた。トサカ部分は明るい茶色に染め上げてある。
俺も思わず笑ってしまった。
「ははは、ホンマや。標識引っこ抜きそうやの」
坂井は一瞬きょとんしたが、俺の例えがツボに入ったようで爆笑した。
キーンコーンカーンコーン♪
「終わりや終わり。そうやタケシ、ごっついネタ仕入れたんやけど、俺の地元まで今から打ちにこーへんか?」
終わりや…って授業も聞かずに教室の外を見ながら新入生観察を気ままにしていたくせに…そこは律儀か。まぁ、一緒になって付き合ってる俺も俺やけど、などと思ったが、坂井の言う「ごっついネタ」の方が今は大事だった。
「ごっついネタ…ってマジか?」
「トキオって羽モノ知ってるか?あれの連チャン教えてもろてん」
「羽モノの連チャンって何やねん?」
「羽モノって完走したらマックス8ラウンドやん?あれをな、連チャンさせるねん」
「8ラウンド前でパンクしたらどないなんねん」
「そりゃ無理や。地元のオッさんが言うとったんは、7ラウンド目の羽が16回開いて、そこから急いで打ち出してV入賞させれば、大当たり後もタワーは正面向きで止まるんやて」
「なんとなくわかったけど、なかなかリスキーやな。まっ、やってみるか」
坂井の地元は今のUSJあたりにあり、同じ大阪でも俺とは真逆のエリアに住んでいた。その地域ではホールに設置されている台も全然違うので、学校をサボってはお互いの地元へと何度か行き来していた。坂井は俺と同様、根っからのパチンコ・パチスロ好きだったが、一学年の時は別クラスで(さらに俺は学校をサボりがちだったし)、顔を合わせることは少なかった。だが、会ったら会ったで、こんな話ばかりよくしていたのだ。
「弁天町〜、弁天町〜」
電車を降りながら、身体をぐっと伸ばす。
「相変わらずお前の地元は遠いわ」
先に降りた坂井が笑いながら返す。
「タケシの地元が田舎なだけやろ」
「アホか‼ 大都会じゃ‼ バイクで10分走ればひらパーあんねんぞ‼」
「それ毎回言うけど、ひらパーに誇りを持ちすぎやろ」
「最高やんけ!夏はプールに秋は菊人形やぞ‼」
大阪の枚方駅付近に存在する「ひらかたパーク」は地元で愛される遊園地である。
「そそられへんわー、それ…」
「なんでやねん!んっ?」
ふと、少し前を歩くヤンキーの姿に俺は目をとめた。
「どしたん?」
そう言いながら堺も俺の目線の先のヤンキーに目をやる。
「いや、あっこ歩いてるヤツ、俺らのとこの一年やろ。電車に乗る時から気になってたんよ。なんか知ってる顔やなって」
「なんやスポーツマンが今日から不良になりました。みたいなややこしいヤツやな。あんなん知り合いなんか?」
「んー、ちょっと声かけてくるわ」
そう言って俺は歩くスピードを上げた。
「人違いや言うてシバくなよ」
「するか‼」
俺にはわかった。
面影というか、雰囲気というか、あの頃よりだいぶ成長しているが、長年一緒にいたから分かる。"アイツ"に間違いない。
――続く
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■作者:射駒タケシ
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