大阪ストラグル(第1部)第5話

 SANKYOのドラム型デジパチ…!! 
 遠目からでも分かる、あの台は『フィーバーレクサスV』に間違いない!!逸る気持ちを抑えつつも早足で空いている角台を確保。腰を下ろして打ち始める。
 『フィーバーレクサスV』は、半年ほど前に導入されたデジパチで、俺は宝ホールでかなり稼がせてもらった。荒稼ぎのからくりは「連チャン誘発打法」。保留を点灯させないように打って大当たりをさせると、その後に連チャンを引き起こすことが可能な攻略法があったのだ。
 宝ホールでは早々に姿を消してしまった台を、半年ぶりに目にした俺は一気に高揚した。
「誘発打法が効くんか…?」
 とりあえず一旦冷静になろうと、周囲の打っている客の保留をチェックしてみたが、皆、保留ランプを煌々と光らせ、適当に打っている。
「対策されてしまったのか…」
と、肩を落としたが、それでももしかして…と思い、打ち始めた。
 とりあえず千円札を3枚ほど百円玉に両替し、保留ランプをつけぬよう、単発回しでチビチビ回し始める。
 いとも簡単に大当たりを引き当てる。あとは連チャンするかどうかだ。対策されているのか?それとも…。
 大当たり終了後、消化中にたまった保留でリーチがかかる。
「あっ、これ当たるぞ」
 瞬間的に直感した。
 連チャン誘発打法、成功だ。
 ご満悦で打っていると「よぉ。昨日の!」と、声を掛けられた。振り向くと、ド金髪の男がそこにいた。昨日、駅で知り合った柿本のツレ、大川だ。
「大川…やっけ?こんなとこまで打ちに来るんや」
「レクサス目当てやけどな。おっ、やっぱり知ってるんやな、単発回し」
「宝ホールで消えるまでは毎日やってたからなー。懐かしいわ」
「タケシ、その大当たり終わったら、ちょっと外まで来てくれへん?」
「おー、構わへんけど…」
 少し嫌な予感はしたが、2連止まりのまま駐輪場の方へ向かった。大川がタバコを吸いながら待っていた。
「どないしたん」
「タケシ、この店でアレやったらアカンで」
「はっ?なんで?」
「この辺、ジグマってるヤクザおるんやけど、それらが仕切ってんねん、このホール」
「そんなもんどこにでもおるやん」
 俺は少し苛立っていた。
「そいつら攻略法やキズネタを仕入れて、若いのを打ち子にしてるんや。だから、ここでアレやったらちょっと面倒やねん」
「いやいや、お前もやってるんやろ?なんやねん、シマ荒らされたないんか?」
「ちゃうちゃう。俺がこのホール任されてるから、あんま目立ったことしてくれんなよ…って忠告や」
 俺は一瞬、目が点になったが、そういや柿本のグループはプータローの集まりだったことを咄嗟に思い出し、すべてが一瞬で理解できた。
「なんや、大川もその打ち子グループってワケか」
「そうや。昨日、声掛けたんは、前から自分をこっち側にスカウトしようと思ってたからやねん」
 大川はタバコを踏み消し、俺の顔をじっと見ている。答えを欲している顔だ。
 そういうことか…と、俺はタバコに火を点け、大きく一吸いした。

 ふぅ〜。     

 俺はタバコの煙を口からはきだすと同時に、大きな溜め息をはいた。大川は視線を逸らすことなく、ジッとこっちを見ている。
「ふーっ、まぁー、エエわ」
 大川の表情から緊張感が消える。
「えっ!? やってくれるんか!」
「いや、ちゃうちゃう。遠慮しとくいう意味や」
「はっ?」
「お前も鈍いやっちゃなー、ヤラへんて」
 俺は半笑いでそう言い放ち、タバコを足で踏み消した。
「なんでや?」
 大川は俺が断ったことに対し驚いている。
「なんでやってお前、パチンコごとき、なんで人のために打たなアカンねん」
「エッ!? いや、絶対に金になるんやぞ?ヤラへん理由なんかどこにあんねん」
「もうめんどくさいわお前。ヤラんヤラん。ほなな」
 手をヒラヒラさせながらホールへ戻ろうとすると、大川は俺の肩を後ろから力強く引っ張った。その反動で強引に振り向かされる形となった俺は、瞬間的に怒りが込み上げてくるのを自覚した。反射的に怒鳴る。
「なんやコラッ!」
 それとは対照的に大川は冷静な口調で恫喝じみた言葉を吐いた。
「お前、俺の誘いを断っといて打つ気か?コラ」
 肩を引っ張られた怒りがおさまることはなく、俺は勢いそのままに大川の金色に染まった髪の毛を鷲掴みにした。
「なんでお前に許可もらわなアカンねん! あぁ !?」
「離せやコラッ!」
 俺の手を無理やり解き、右のローキックを放ってくる大川。格闘技の経験もあれば中学の頃からストリートファイト慣れもしている俺にとっては、子供が遊びで蹴っているレベルでしかない。
 左足で蹴ってきた足を前蹴りのような形で押し返すと、大川は半回転しながら尻もちをついた。俺の顔を見上げ、真っ赤な顔をしながら慌てて立ち上がる。その様を見ていたら、俺の怒りは急速に萎んでいった。
「もうヤメや。お前と喧嘩してもしゃーない。向こうでガードマンもさっきからこっち見てるし、通報されても面倒くさいからな」
「ビビってんのか?あっ?」
恥をかかされた大川は、なんとかして俺に一矢報いたいのだろう。俺もそんな経験は何度もあるので気持ちは分かる。
「お前、柿本のツレやろ?もうヤメとけって」
「柿やんは関係ないやろっ!」
 詰め寄ってくる大川に怒りが再燃する。
「しつこいなお前コラッ!ヤルんやなオイ! あぁっ !?」
大川の胸ぐらを掴み、小内刈りのような形で後ろへ倒し、そのまま馬乗りになった。
 首を上から掴んだところで、何人かのホールの店員の姿が視界の端に入った。誰かがチクったのだろう。
「コラーッ!警察呼ぶぞお前らー!」
 大川の首から手を離し、大声で返す。
「あ〜、ツレやねんコイツ。ちょっと揉めてただけや〜」
 大川は黙ったままだ。
 俺はゴマかすようにその場を離れ、ホールに残していた玉を速攻で流し店を出た。

 何やねん一体。

 夜道をバイクで飛ばしながら俺は今日1日を反芻していた。
 女連れのヒロにガキくさい態度を取られるわ、レクサスの連チャン誘発打法で遊んでいるところに茶々を入れられるわ…挙句の果てには打ち子やと?

 アホくさ。

 それにしても、これで大川はもちろん、もしかすると柿本あたりも俺を敵視してくるかもしれへんな…何で俺の周りがこんなに敵だらけになんねん……。
 そんなことをグルグルと考えていると、だんだん笑けてきた。
 バイクのエンジン音と風にかき消されるのをいいことに、俺は大声で笑う。

「おもろいやんけ!やったんぞコラ!!」

 バイクの振動だけが俺の独り言に答えているようだった。

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