大阪ストラグル(第1部)第25話
病院の裏にあるバイク置き場に到着した途端、ヒロは怒り狂い始めた。
「なんやアイツら‼ なんやってん俺らのここ数日は‼」
俺は車止めに腰掛けながら、焼けたアスファルトの温度をケツに感じていた。
「ヒロ、柿やんに言われて俺もムカついてるよ、でも、一服して冷静に考えたら……」
煙草の煙を吐き、一拍置いてから言葉を繋いだ。
「俺らが…間違ってたんかもな」
「はぁ〜?お前まで何を言うてんねん」
「いやな、元は大川がノリ打ちやらゴトやらで稼いだ金を持ち逃げしたのが始まりや。大川が発端なのは間違いない。その後は大川の彼女拉致事件、柿やんの敵討ち、諸々あって八幡に乗り込むも牧と金子にボコられる。ここら辺から俺ら…大川とか柿やんのこととか頭にあったか?」
ヒロはじっと俺の顔を見ていた。
「……ないな。俺はそもそも大川とか知らんしな。ヤラれたからヤリ返したかっただけや」
「俺もや。俺ら、勝手にアツくなって空回りしてたんやろな」
ヒロは無言だった。蝉の声だけが耳にうるさく突き刺さる。
「なんか笑けてきたわ。よっしゃ‼ ヒロ‼ 久しぶりに行くか?」
俺はアスファルトで煙草をもみ消し、わざと勢いよく立ち上がった。
「行くかって、どこにやねん」
ヒロは怪訝そうな顔をしている。
「俺らが行くとこは一つしかないやろが、後ろ乗れ‼」
俺はバイクにまたがりセルを押し、勢いよくバイクのエンジンを掛けた。
「よっしゃ、ヒロ着いたで」
「なんかタケシとホールへ打ちに来るのも久しぶりな気ぃするわ」
ヘルメットをはずし、バイクのミラーでご自慢のリーゼントを整えるヒロ。
「ほな行こか」
「はいよ」
ホールに入るとパチンコのシマがズラリと出迎える。脇目もふらずその奥へ俺らはズンズンと歩を進めた。俺のお目当てはスーパーセブンという台だった。
「おぉっー、会いたかったで」
「お前はパチスロの事しか頭にないんか」
と、ヒロは笑う。
今にも抱きしめそうな勢いで俺はパチスロ台の前に腰を下ろした。
「おいヒロ、はよ打とうや」
「いや、打ちたい気待ちは分かるけど、適当に座ってエエんか?」
「アホ、この回数でちゃんとチェックしとるがな」
そう言いながら俺は台上にある小さな札を指差した。
当時、データランプという親切な設備などはなく、どこのホールもアナログな手法で客にボーナス回数などを提示していた。ちなみにこのホールは小さな日めくりカレンダーのようなものだった。
「いや、これアテにならんやろ?」
ヒロは不審そうな顔で俺にそう言い放つ。
「まぁーな、負けた腹いせに適当にめくって帰るアホもおるからな。そやな、一応確認だけしといたるわ。オッちゃん、この台、出てた?」
俺は近くで打っていたオッちゃんに声をかけた。
「んーっ?まぁーまぁーちゃうかなぁ?」
ホンマかよ?という顔をヒロはしていた。俺も全く同じことを思ったが、それよりも早く打ちたくてウズウズしていた。
「まぁーまぁーやて。ヒロ、はよ座れ」
「わかったわかった。今日もレクチャー頼んますわ、先生」
「任せなさい‼」
数千円使ったところでヒロの台にスベリが発生する。
「タケシ、今めっちゃ中リールスベったんやけど、小役なんも揃わんかったぞ」
「アツいやないかっ‼ 」
俺はヒロの台の出目を確認した。中リールのレモンは遠い位置にあった。スーパーセブンはコントロール方式を採用していて、何かしらのフラグが成立した際、成立役を最大限まで引き込もうとする特徴がある。つまり、スベって小役がハズれれば、レモンのこぼしかボーナスか…という激アツ目に変貌するのだ。
「ヒロ、中リールにレモンは1個やから、こぼしの可能性もあるな」
「レモンなんて確率低いやろ、確か?」
「1/257やな。それゆえアツいぞ」
「左に7をスベらせて、と」
ヒロは左リール7をスベらせるべく、7の3コマ下にあるチェリーを左リール枠内に狙った。チェリーが上段に停止する。
「チェリーかいっ‼」
そう言いながら投げやりに残りのボタンを乱暴に押す。
「いや、ヒロ、中・右リール見てみ‼」
左リール上段にチェリーが停止。中・右リールには中下段にオレンジとプラムが並行停止している。
「チャンス目やんけっ! しかも今、ビタ止まりしてたんちゃうか? ヒロ入ってるぞ、多分」
「もったいつけよるなぁ、この台」
「左リールにバー狙ってみ」
「お、おう」
ヒロは左リール上段付近にバーを狙った。
すると7がとんでもなくスベって左リールに顔を出す。
「うおっ‼ なにこれ、気持ちエエなー‼」
「俺の経験上、BIGやっ‼」
「信じまっせ先生♪」
7を狙うと綺麗に揃う。と同時にパンパンパンパンという破裂音ファンファーレが鳴り響く。
「やみつきなるな、この音」くくくっ…と心底嬉しそうにヒロは笑った。何故か俺もニヤニヤが止まらなかった。「スーパーセブン、ベンハー、ウィンクルといえばコレやな!」
この日はヒロがノリノリ(俺はチョイ負け)になり、上機嫌でメシを食ってから別れた。
次の日も、そして次の日も、ヒロとパチスロを打ったり、くっさんの家でダベったり、気の向いた時に冷やかしに学校へ行ったり…と、俺はノンビリすぎるくらいノンビリと過ごしていた。
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