パンクロック 4
ヒッピーオヤジのレコード屋はキッズで溢れていた。外でスケボーしているハイスクールの小僧たちも合わせたら、ゆうに100人以上いる。
エリックとダレルが電信柱や街の至る所に“Free Show“と書いたフライヤーを貼りまくったおかげで、暇を持て余した音楽好きな若者がたくさんやってきた。
予想外の入りにヒッピーオヤジとそのワイフが万引きなどされないよう目を光らせている。店の奥にあるステージの前にはある程度のスペースが確保されているが、そこは30人も入ればいっぱいだ。中にはレコードの棚に乗っかってしまうキッズもいて、ヒッピーオヤジに怒られていた。
慣れ親しんだ店だったが、いざステージに立ってみると、縦長の店内にはレコード棚の間に隙間なく人が並び、実際の人数よりずっと多く見えた。
ダレルはこれが初めてのバンドだとは思えないくらい、MCがうまい。とにかく笑わせるのが上手だ。過去にやってきたメタルやハードコアバンドはいつもシリアスだった。それを楽しんではいたけれど、これほどなごやかな雰囲気はなかった。
僕らの曲はレゲエやスカの要素も入っていたので、たまに速い曲で数人のパンクスが暴れることはあっても、ストレートエッジ・ハードコアのような暴力的モッシュは起こらない。エリックのやってたスカバンドのファンが楽しそうに踊り出す。
「Oi!」やら「Hey!」やら掛け声も、シングアロングしてくれて気持ちがいい。
ライブが終わると、カメラをパシャパシャやってた女の子が、僕たちの名前と大学の専攻を聞いてきた。彼女はジャーナリズム専攻をしている同じ大学の生徒で、どうやら明日のカレッジ・ジャーナル(学生新聞)にこのライブのレビューを載せるらしい。
ダレルの専攻はコンピューターサイエンス。実はコイツはゲームオタクで、カウチに座ってスナックばっかり食ってるからちょっと小太りなのだ。
ザックはエンジニアリング。普段は電気工の仕事もしている。
僕は栄養学。この頃は鮨職人になるなんて思ってもみなかった。
エリックは半年でドロップアウトしたくせに
「生物学だ」
って悪びれることもなく言ってた。さすがアメリカ人。ハッタリがすごい。
次の日、クラスに行くと女の子たちとやけに目が合う。僕は栄養学を専攻していて、クラスメイトの8割以上は女子だった。
席に着くと隣のいつもノートを見せてくれるアリーが
「Hey…! 写真見たわよ...!バンドやってるなんて言ってなかったじゃない...!」
ヒソヒソ声で言いながら親指を立ててニッコリ笑ってきた。
そうだ、昨日のライブ載せてくれるって言ってたっけ。
授業が終わるとすぐにカフェテリアに向かった。ジャーナルを見つけてドキドキしながら開くと、2ページ目の思い切り目立つところに僕らの写真が載ってた。
「すけちゃん 、バンドの写真見たよ!」
「Awesome dude! (カッコいいじゃんか、コノー!)」
「次のライブはいつ?」
その日はキャンパスを歩いていると知ってる顔に次々に声をかけられた。
気分良く家に帰ると携帯が鳴った。エリックだ。
「Hello?」
「すけちゃん、ザック辞めるって」
バンドなんてこんなことばっかりだ。
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