留学はもちろん、海外に住んだことのない私が英語を習得できた私の英語習得法10
第10章 英語の習得過程で考えたり気づいたりしたこと(2)
※第0章~第9章を読まれていない方は、先にそちらを読まれるように勧めます。
英語の習得過程で考えたり、気づいたりしてきたことについて相当な量を書いて来ました。その際、それぞれの章の基本のテーマを考え、それに関連する私の経験や考えを書いてきました。各章ではそれなりにいろいろ検討して書き上げたつもりですが、それでも書いた後で書き忘れたことを思い出すことがよくあります。それで、今回もまた、補足事項中心の章を書くことにしました。内容には一貫性はないかもしれませんが、どの小テーマも一度は書いておきたいと思っていたことです。
・外国人があまり知らないであろう、英語習得に影響する日本人の癖
英語習得を進めていく中で、私なりにいろいろな情報収集をしてきました。特に、日本人に特有の行動や習慣で、英語習得にはマイナスに働く傾向については関心を持って調べてきました。その中の代表的なものに、日本人はshyで自分から進んで会話に入ろうとしない、というものがあります。これは外国の人にも良く知られていると思います。しかし、日本人一般に良く見られる、ある重要な日本人特有の行動で、外国の人はおそらく知らないと思われることがあるのに気づきました。日本人は言われれば直ぐに気づくと思いますが、この傾向が英語習得の邪魔になる場合があるとは考えていないと思います。
それは、漢字の熟語の問題です。日本人は難しい概念や行動、習慣などについて考えたり、表現したりするときに、よく熟語を用います。例えば、私がこのブログで使っている習得はよく使われる熟語ですし、学習や性格などもそうです。その他にも、記録、経済、人間関係、国際問題等々、数え上げればきりがありません。
その癖が影響して、日本人の学習者は、何かまとまったことを話そうとするとき、まず、それをよく表す熟語を探す傾向があります。そして、その考えを英語で表現するとき、その熟語に対応する英単語を探しがちです。その結果、日本人は難しくて日常会話ではあまり使われない大きな単語を使いがちです。よく言われるのが、日本人は難しい単語は知っているが、簡単なイディオムを知らないということです。これとは逆にネイティブはイディオムをよく使う傾向があると思います。
この傾向が英語を話すときにも影響しているように思います。つまり、何か言いたいことを考えるとき、それに合う熟語を見つけ出し、その熟語に対応する一つの英単語を探してしまうのです。そして、自分が知っている単語の中に該当するものが見つからないと、そこで思考停止してしまい、黙ってしまうことがよくあります。この時、対応しているネイティブは、何故相手が黙っているのか、多分理解できないでしょう。
こういった時に使えるのが、実はwhat, which, when, why, how等のWH節を使った表現方法です。これらを活用して、文章として説明するようにすれば、難しい単語を知らなくても表現することができます。例えば、“何かを習得すること”が言いたいのであれば、流れや文脈にもよりますが、“what you do to learn and master a skill” と言っても良いかもしれません(注1)。このようにすれば、難しい単語を覚えていなくても表現できます。
(注1)分かり易い表現を考えるコツは、問題の熟語の意味を小学生に説明するとしたら、どのような日本語で説明するだろうか、と考えてみることです。その場合の説明には、多分難しい言葉は出てこないでしょう。
・ネイティブから質問されたら、まず、とにかく直ぐに反応することの重要性
これは英会話学校のことを扱った章で書くべきことだったかもしれませんが、英会話学校などでネイティブの講師から質問された時に、質問された人が何も言わずに黙ってしまうことが良くあります。初級から中級の学習者でよく見かけます。その日本人は、黙ってしまうにはそれなりの理由があるのでしょうが、それを言葉として表現しないと、相手のネイティブは反応のしようがありません。
きっとネイティブはその人を助けたいと思っているはずですが、黙っていると、どうやって助けていいか分からずに困ってしまうのです。ですから、日本の学習者には、とにかくなぜ黙っているかを、英語で表現するように勧めたいと思います。それらの理由は、“質問が理解できなかった”、”今考えているので、時間を下さい“、”答えはあるが、英語でどう言ったらいいか分からない“、”説明したいが、分からない単語がある“等々、いろいろあると思います。大事なことは、これらの表現自体は前もって調べておけば、英文として覚えておくことができるということです。そして、実際にこのような事態になったときには、まずはそれを表現しておくのです。そうすれば、ネイティブにも、何を手伝えばよいのかが分かります。
・“That’s a good question.”の意味について
英語習得の過程で、巷間でよく言われている興味深いことに数多く出会います。その一つに、インタビュー等で質問された側が、“That’s a good question.”と最初に答えたとき、それは”(本当の意味で)相手の質問が良い質問だ“と言っているわけではない。すぐに答えを思いつかないときに、こういう表現を使って時間稼ぎをしているのだ、との主張があります。それに対して、私は違う意見を持っています。
私はいろいろな会議、特に国際会議において、ネイティブとのディスカッションを数多く経験してきました。上のような反応が返ってくる質問を、私自身がした時もありますし、他の参加者がした時もあります。そういったときの経験から、この表現に対して、私は全く違った印象を持っています。つまり、本当の意味で”良い質問だ“と言っている場合もあり、実際にその方が私の経験では多いと思います。そう考える理由を以下に書きます。
もし、時間稼ぎの表現であれば、その後の反応が熱のこもった回答になることは少ないのではないでしょうか。しかし実際の場面では、質問された人が少し考えてから答える場合はあるものの、その時間の長さに関わらず、しっかりした興味深い回答が返ってくる場合が多かったように感じています。その結果、予想以上の新たな情報が提示されることも多かったと思います。
このような表現のバリエーションには色々あり、今思いつくだけでも以下のようなものがあります。
That’s a wonderful question. / That’s an interesting question. / That’s an important question. / I like your question. / Thank you for asking me that question.
最初にこのようなことを言い始めたのがどなたかは知りませんが、その時には、本当に時間稼ぎだったのかもしれません。そしてそれは、文章の表面的な意味と、背後の(真!?の)意味のバランスが、丁度、日本人特有の建て前と本音の発想に一致したため、印象に残ったのではないでしょうか。
以上のような理解は、私の個人的な経験に基づいていますから、偏っているかもしれません。例えばビジネスの領域では、言われているような意味合いの場合が多いのかもしれません。しかし、私が付き合ってきたり、会議で出会ったりしたネイティブだけの特徴かもしれませんが、行間を読まなければ分からないような表現(注2)を使うネイティブはそれほど多くはないのではないかと感じています。少なくとも、時間稼ぎだと最初から決めてかかるのは、少々危険だと思います。
(注2)本音では“時間稼ぎ”をしたいのだが、表面上は「良い質問だね」と言っておくという意味です。
・映画の予告編は意外に良い練習材料になる
これも映画に関する章で書いた方が良かったかもしれませんが、英語の映画の予告編について、興味深い活用方法を思いついたことがあります。それは、聞き取り練習用の素材です。
日本語字幕が表示された映画を見ているとき、字幕を見ないようにしているにかかわらず、日本語字幕の内容が目に入ってしまい、本当に自分の耳で英語を理解したのかどうかが分からなくなる時があります。映画館で見ているのであれば、当然、日本語字幕を消すわけにはいきません。また、漢字は図形としての側面があるので、その一部が目に入ってきただけでも、自然に意味がわかってしまうこと(利点、それとも弱点?)もあります。英語の聞き取りをしようとしているときは、これは邪魔になります。
ところが興味深いことに、予告編の英語の音と字幕の内容は、短い部分の切り取りという特徴のために、一致していないことが多いのです。ですから、場面によっては、字幕を見ても英語の聞き取りの役には立ちません。しかも、文脈が分からない状態で英語の聞き取りをすることになるので、より難しい課題に挑戦することになります。こういう理由で、自分の実力を確かめる良い材料になる可能性があります。なお、当たり前ですが、場面によっては字幕と英語の音がほぼ一致している場合もあり、その際にはこの方法は役に立ちませんが…。
・LとRの問題について~聞き取りと発音
日本人にとってLとRについては、その発音と聞き取りの両面において大きな課題になります。特に聞き取りに関しては、大人になってから本格的な学習を始めた者にとっては、完璧に聞き分けることができるようになるのはほぼ不可能だと思っています。これはずっと以前での研究論文に関する情報ですが、誘発電位という脳機能検査の手法を使って、日本人が生理的にLとRの音を聞き分けることが出来ているか否かを調べた研究報告を読んだことがあります。その時の対象者は長期間英語圏に居住していて、日常生活では英語によるコミュニケーションに全く支障がない人たちでした。但し、帰国子女のような人ではなく、大人になってから英語を学んだ人たちでした。そして、結果は、LとRを脳は正確に聞き分けることができていない、というものでした。これは大昔の研究なので、現在では違った結果が報告されているかもしれませんが、この論文を読んだ時には、少しショックを受けたことを覚えています。
このテーマはずっと気になっていたので、あるときネイティブに、彼らにはLとRの音が、どの位、違った音として聞こえるのか、それとも近い音として聞こえるのか、を尋ねたことがあります。回答は、全く違う音に聞こえる、ということでした。
私自身、文脈の助けがあれば、時にLとRを高い確率で聞き分けることが徐々にできるようになってきましたが、その助けがない状態であれば(例えば、単語だけが単独で発音されている状態では)、依然として完全に聞き分けるのは難しい、と感じています。文脈が分かっていれば、light : right、play : pray、lead : read、load : road、clown : crown、loyal : royal のような違いは何とか聞き分けることができるようになりつつある、と感じています。
完璧に聞き分けるのは不可能だとしても、発音だけは何とか正確にしたいと常に意識しています。特に舌の位置をどこに持ってくるか、という点について常に意識しています。比較的最近に、Lの発音について“明るいL”と“暗いL”という違いがあるという情報がやたらと目に入って来るようになり、意識するようになりました。詳細は省きますが、前者は語頭に来る場合や直後に母音が来る場合に発音されるLで、後者は語尾に来る場合や直後に子音が続く場合に発音されるLの発音のようです。この辺については、もっと情報を収集していきたいと思っています。
実は、日本語にすると殆ど同じ音として表現されるのに、英語でははっきり区別される音の組み合わせがまだ他にもあります。その代表が cars : cards です。前者はzの発音ですが、後者はdz(tsの濁音)で、明確に区別される音です。これらの聞き分けも結構難しいと感じています。
・長期間英語の環境で生活している日本人でも、日本人特有の癖が抜けない人がいる事実
最近は、外国に住んでいる日本人で、日本人の特徴をテーマにして、YouTubeでビデオを公開している人たちが増えてきています。そういう人たちが話す英語を聞いていると、確かにネイティブに近い発音をされている人たちもいますが、日本人の癖が残っている人たちもかなりいるように感じています。この違いがどこから来ているのか、に関心を持っています。
これに関連して、英語だけを話す環境に長期間暴露されたら、自分の英語はどのように変化するのだろうか、という疑問も持っています。これについては断定的なことは言えないのですが、同じ1時間の間英語をしゃべったとしても、日本人の生徒がいる英会話学校で話した1時間と、ネイティブが沢山集まっている中で話した1時間では、違いがあるように感じるのです。少なくも自分で自覚した範囲での変化ですが、より英語が話しやすくなったと感じるのは、後者の場合です。それで、後者のような環境にもっと長期間暴露されたら、自分の英語がもっとましになるのではないか、と考えたりするときがあります。
いろいろな小テーマについて書いてみましたが、もっと詳しく検討する必要があるものもあるようです。いずれまた機会があったら、取り上げてみたいと思います。