留学はもちろん、海外に住んだことのない私が英語を習得できた私の英語習得法11
第11章 英語を習得していなければ不可能だった貴重な体験(1)
※第0章~第10章を読まれていない方は、先にそちらを読まれるように勧めます。
今回は英語習得そのものの話題提供はお休みにします。その代わりに、習得過程で私が実際に出会ったとても貴重な体験についてお話しします。いずれも、英語を話していなかったら、恐らく出会うことはなかっただろうと思われる経験です。このテーマを扱う場合は、毎回一つ話題を選んで説明します。今回はRachel Maddow という investigative journalist でMSNBCというケーブル・ネットワークでThe Rachel Maddow Show (TRMS)のホストをしている方について紹介します。そして、彼女がある時この番組で話された貴重なストーリーを共有したいと思います。
ところで、今回は一つだけいつもとは違うお願いがあります。MSNBC は基本的にリベラルの立場からニュース報道をしているネット上の放送局です。従って、異なる立場をとられる方にとっては、以下の紹介では、不快と感じられる内容が含まれているかもしれません。ここで私は、政治的な主張をしたいと思っているわけではありません。私が知ることができた貴重な情報を共有したい、というのが私の意図です。できるだけnonpartisanの立場から記述するようにしますので、ご理解のほど、お願いいたします。
・MSNBC とニュース・ショウのホスト達
あることをきっかけに2016年ごろから MSNBC のニュースを頻繁に聞くようになりました。もちろんすべてインターネット上で視聴したニュースです。そのニュース・ショウの構成は、日本のTV放送とはかなり違っています。各番組にはホストがいて、ホストの考えがショウの内容に色濃く反映されています。私にとってとても興味深かったのは、MSNBC に出てくるホスト達が話している英語でした。誰もが非常に分かり易く、聞き取りやすい発音で英語を話されます。中でも特に Rachel Maddow、Lawrence O'Donnell、Ari Melber という3人が語る英語には強い感銘を受けています(注)。それぞれがとても高度な内容を話されているのですが、できるだけ分かり易く話そうとする配慮がいつも感じられます。ここに挙げた3人のホストについては、ウィキペディアでもその詳細な情報を見つけることが出来ますので、興味がある方は是非調べてみて下さい。
(注)O'Donnell のショウは The Last Word、Melber のショウは The Beat という名前です。いずれもメインのホストは彼らですが、休みを取ったりした時は、別の人がホストを務めることがあります。
・TRMS で彼女から受けた印象
この3人の中でも特にRachel Maddow(以下Rachelと略します)のショウの進め方に強い感銘を受けています。彼女のショウでは、その時に話題になっている事件や政治的な出来事について、詳しい報道と解説がなされます。特にホストによる解説が秀逸で、難しい内容をやさしく説明してくれます。時にはその時点で話題になっている人物や書籍について、詳しい紹介が行われることもあります。それに加えて、ショウの中で紹介した人や著者をスタジオに招いて、インタビューが行われることもあります。その時にRachelは、ある独特のやり方でインタビューを行います。そのやり方を、最初は特に気に留めていなかったのですが、繰り返し彼女のインタビューを見るうちに、彼女の特徴的なやり方に気づきました。そして、そのやり方を見るたびに強い感銘を受けています。
彼女がインタビューをするときには、その前に必ずその人が書いた本や最近の特徴ある行動について、Rachel自身が詳しい説明をします。そしてインタビューの目的も説明した後で、実際にそのゲストを招き入れてインタビューが始まります。その始め方が常に非常に印象的なのです。
彼女はゲストと挨拶を交わした後で、まず次のように尋ねます。
「私が今説明した○○さん(ゲストの名前)のことで、何か誤って伝えたことがあるでしょうか。また、言い足りなくて補足説明が必要なことがあるでしょうか。」
と尋ねるのです。そしてほとんどの場合に、そのゲストが、「全く間違いはありません。とても上手に説明していただきました。」と答えるのです。このように始まれば、当然ゲストには、Rachelが自分のことをキチンと受け止めてくれている、と分かりますので、表情が明るくなり、和やかな雰囲気でインタビューが始まっていきます。
こういった状況を作り出す彼女の努力は、ゲストの考えを注意深く尊重しながらインタビューを進めていこうとする彼女の意図を如実に表しています。
・Rachel Maddow の Korematsu の話
さて本章で読者の皆様に知っていただきたいことは、2018年の6月26日に放送された内容に関することです。この日は。Rachelが非常に面白い言い回しで、次のような意味の話をし始めました。以下は、彼女が語ったストーリーの言葉通りの説明ではなく、あくまでも概要です。また、語りの内容の順序も前後している部分がありますが、お許しください。さて、その話とは次のようなものです。
第二次世界大戦の枢軸国は、ドイツ、イタリア、日本でした。ドイツ系の米国人、イタリア系の米国人には何も起こりませんでしたが、日系の米国人だけ収容所に入れられたのです。あるときFred Korematsu という日系人が街を歩いていたところ、逮捕されて収容所に入れられました。彼はそれを不服として、政府を相手に裁判を起こしました。しかし、結局負けてしまいます。その際の最も大きな理由として挙げられたのが、海軍の情報局が調査した結果でした。調査により、日系人が暴動を起こす可能性があるとの結果がでた、ということが政府側から説明されたのです。彼は最高裁まで争ったようですが、結局負けてしまい、収容所に入れられてしまいました。
話は変わり、それからかなり時間が経ってからのことです。法律関係の歴史家で弁護士でもある Peter Irons のことが説明されます。彼は第二次世界大戦中の政策について研究するために資料を収集していました。1982年に彼は、ほこりをかぶった資料の中から重要な情報を見つけます。それは、第二次世界大戦中に行われた日系米国人の調査に関する資料だったのです。そうです! Korematsu の裁判で引用された調査資料だったのです。そして、何と驚くべきことに、調査結果はKorematsuが裁判で争っていた時の政府の証言とは逆で、日系人に暴動の危険性はないという結果だったのです。
この資料の重要性を知っていた Irons は、その後、何とかしてKorematsu を探し出します。そして彼に会い、この結果について彼に説明をしました。彼の説得により、Korematsu は再度政府を訴えることを決めます。そして、裁判に訴えた結果、今度は勝訴し、彼の有罪判決は取り消されることになります。
実際のRachelの語り口は、もっとドラマチックで、視聴者を引き付けるような話し方をします。私がこれを聞いた時には、とても強い印象を受けたことを覚えています。
さて、その回のRachelのメインテーマはKorematsuのことだけではありませんでした。Korematsu のストーリーの後に、何故この話が語られたかをRachelが説明します。それは丁度、トランプの第1次政権の時、イスラム系の人の入国制限の動きがでてきたことと関係していました。
トランプ政権よるイスラム系の人々の入国制限に対して、市民団体が憲法違反だと訴えて裁判が起こされていました。一審と二審では市民の側が勝訴したのですが、最高裁では結果が逆転しました。最高裁判事のうち5名が政府の対応が合法という判断を下し、その結果、トランプ大統領の主張が認められたのです。その時、この判決に反対した4名の最高裁判事のうちの一人のSonia Sotomayor という判事が、”米国は第二次世界大戦のときに日系人の収容所送りという過ちを犯した。今回もまた(人種による差別という)同じ過ちを犯そうとしている“と反対意見を述べたのでした。
とても興味深いことに、米国の最高裁では、最終判断に対して反対する判事が、反対意見を詳細に述べることが出来るのです。この判事が言おうとしたことを説明するために、Rachelがショウの最初にKorematsuの話を持ち出していたのです。そして、この判事がしつこくKorematsuのケースを取り上げたので、最後には主任判事が、Korematsu の判例は今後前例としない、とまで言うことになります。
・Korematsu の話が日本人一般にどの位認知されているだろうか?
Korematsu のことを知った後、私は機会がある毎に、周囲の日本人にKorematsuという名前を知っているか、と質問をするようになりました。私が質問した相手の多くは英語が話せる人だったのですが、つい最近まで一人もKorematsuのことを知っている、と言った人はいませんでした。最近、お一人だけ、Korematsu のことを知っているという人に会いましたが、その方は米国の西海岸で長期間暮らしていたことがある人でした。米国で暮らしているときに知ったということでした。従って、今までの所、ずっと日本に住んでいる方で Korematsu のことを知っている、という人に会ったことはありません。
私にはRachelのようにドラマチックにストーリーを語る才能がありませんので、恐らく上述の内容では、私が覚えた感動を読者が理解することはないでしょう。もし興味を持たれた方がおられれば、ウィキペディア等で検索して、詳しい内容をチェックされるようにお勧めします。