君は野に咲く花でいい。
我が家の一人息子(現在小学校5年生)は、ユニークな子供だ。
皆がゲームやテレビ、スマホに夢中な中、彼の興味は山登り、生き物、植物など。
毎朝、生き物達の世話に忙しく5時半起きも厭わない。
そんな息子は当然、同級生と話が合わず、「キショい、キモい」と言われることもある。帰宅すると疲れ切って泣き続けたり、発熱したり、親としてこのまま登校させるのが良いのか、夫と毎晩、迷い、話し合う日々だった。
だがある日、学校帰りの道端に息子は土筆を見つけて大喜びで帰ってきた。
早速、採取にいったが、佃煮にするほどの量は無い。
その代わり周辺にはスギナがたくさん。
「スギナを取って再生させよう。繁殖力が強いから大丈夫だよ」はしゃぐ息子と一緒に摘んで植え替えたが、そう簡単には根付かなかった。
でも息子は「環境に慣れるまで根付くには時間が要る」と毎日、観察を怠らなかった。
(そうだね、君と同じだ)
私は心の中で息子の粘り強さを見守り続けた。
息子が寝た後の夫婦の会話も前向きになって行った。
すると2週間後、スギナの芽は出てきたのだ。
それからもスギナの快進撃は続き、2ヶ月後には完全復活した。
スギナは土筆の地下茎であるが調べると、とても栄養価が高く、中でもカルシウムはほうれん草の100〜150倍もあると知って驚いた。
「ねぇ、食べてみよう。どうせなら、スギナを再生させた時のように毎日変化を楽しめるものにしようよ」と2人で盛り上がり、酵素シロップを作ることにした。作り方は至って簡単だ。
スギナ、季節のフルーツ、臭みを消すハーブ、砂糖をガラス瓶の中でミルフィーユ状にして、毎日、朝晩1回ずつ天地返しをすれば、発酵が始まる。
天地返しは小さい息子の手だからこそ、瓶の中にスッポリと入り、上手にできた。
その頃、天地返しをしながら、学校でのいろんなことをポツリポツリと話してくれるのが日課になっていた。
毎日育っていく酵素のように、息子も少しづつではあるが、成長している様子が分かった。その時間は、ただの作業とは違う、私としては特別な時間になった。
酵素シロップは毎日、水位が上がり、香りも増し、いよいよ、肉眼でも発酵の証拠である泡が見え出したのは仕込みから3日目のこと。
天地返しをする度に、シュワーっと音が出そうな勢いでブクブクと泡が上昇し始めたのが1週間後、いよいよシロップが完成した。家族みんなで乾杯した。
覚えていてほしい。学校で嫌なことがあっても家は安全地帯であることを。
やがて私と遊ぶのにも飽きて友達が良くなる時が来るだろう。それでも私は寂しがらずに春が来る度、思い出す。
なかなか世間に理解されない息子とスギナを育てた10歳の春、毎日天地返をしてその変化を楽しんだ日々のこと。
そして息子にも忘れないでほしい。雑草と言えども皆、形が違ったように、人も皆、同じ生き方をしなくてもいいということを。
息子は綺麗に剪定された盆栽ではない、野に咲く野生の雑草のままでいいのだ。