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とある会社員、非日常への入口 ③
Episode 3 女性のシルエット
しばらくその場に立ち尽くしながら、過去の記憶がぐるぐると巡って、やがてまたどこかへいくのを待った。
私以外、人の影もない。静寂の中でわずかな生活音と虫の声だけが遠くの方で聞こえる。
(さてと、家に戻るか。)
ぐったりした気分で来た道を引き返そうとしたその時
キーーーン
はげしい耳鳴りと共に目の前が眩しく光った。
「……あなたは何がしたいのですか」
真っ白な光の中で、かすかに見えるシルエットから若そうな女性の声がする
「このまま何も成さずにその場をやりすごしていくつもりですか」
「これが本当のあなたですか」
何が起きているのか全く理解できないが、パニックにはならず不思議とそのままこの状況を受け入れた。
ためしに目の前にいるのは幻影だと仮定する。
やけに説教くさい幻影だ。
光はずっと視界を覆い続けている。
いかつい男の声ならこのまま押し黙ってしまいそうだが、華奢な女性のシルエットを捉えたのと、自暴自棄になっている今の精神状態が私を強気な物言いにさせた。 ※この辺の肝っ玉の小ささは筋金入りである
「急になんですか。いきなりお説教みたいなことを言ってきて。こっちは急に眩しくなって何にも見えないんですよ。あなたが会ったことある方かしりませんが、まずは名乗ってくださいよ。」
一間おいて、その女性は言った。
「…私はあなたが生み出した”概念”です。」
それを聞いて私は急に安心した。
「それってつまりここが”夢の中”で、あなたはその登場人物ってことだよね?じゃあ良かった。ここから先何があっても目が覚めるだけだし」
「あなたがそう思いたいのならそうなりますね。なぜなら私は”概念”ですから。ですが、あなたがここが『現実だ』と思い切れればここは現実なのです。」
「さらに言えばあなたが強く思い描けば、今この世界は思った通りになります。」
(なんだかどこかで見た○○構文みたいな返答だな…)
まだまだ疑問しか浮かばない私は、しばらくこのやり取りを続けることにした。
(続く)