保護【短編小説】
私の過去?そんなもの聞きたいの?いいよ。じゃあ、教えてあげる。
私の人生はねぇ。まああああ人に恵まれない人生だったよ。
クソジジイ(父親)は子育てに無関心だったから、いるんだかいないんだか分からなかった。
クソババア(母親)は常に私の事を支配しようとしていたから、歪な愛を受けていたよ。
自分の思い通りになったら褒められるけど、そうでなければ殴る蹴るは当たり前に喰らってた。毎日の様に暴言吐かれてたしね。所謂教育虐待だよ。
私はねぇ、今日に至るまで純粋な愛ってものを知らずに生きてきたんだよ。
それに学校も、習い事も、私が過去に関わってきた場所は全部、私の居場所では無かったんだよ。
全部、禍々しい雰囲気を醸し出しやがるから、拒否されているのが子供でも分かったし、場所によっては言葉の暴力を受けていたから、私は、皆んなの負の感情を一身に背負う、痰壺になるために生まれてきたんだなぁと、その時確信したよ。
それでもさ、やっぱ生きていかなきゃじゃん?何でか知らねぇけど、自殺は悪とされているから。
あれ意味分かんないよな。自殺は悪ととか言っている奴はきっと、おめでたい人生送ってきてるんだろうなぁ。だからそんな糞みてぇな言葉を平気で吐けるんだよ。
あいつらってさぁ、私みたいな人生を送っても、そんなこと言えんのかなぁ?
まあいいや。とにかく何が何でも生きなきゃって思ってたから、大学生の頃はそりゃ必死に就活したよ。
大学受験失敗して、クソババアからアホみたいに罵詈雑言浴びせられて、挙げ句の果てには私が大切にしていた物を全部捨てられたから、何としてでも一流企業に勤めないとって思ってたんだよ。
それが、クソババアをぎゃふんと言わせる、唯一の手段だと思ってたから。
そして私は、自分が望んだ通りの企業に就職する事が出来たんだ。
勿論クソババアは大喜び。あいつの情緒ってほんとどうなってんだろうって思うくらい褒めちぎられたよ。
あ、因みにクソジジイはもうこの頃には死んでたよ。過労死だってさ。
あいつの事とかよく知らねーけど、多分ブラック企業だったんじゃね?まあ殆ど家に居ないような奴だったから、死んだところで何の感情も湧かなかったけど。
まあクソジジイの話はもういいや。たいした思い出も無いし。
それよりも私は、一流企業に就職できた喜びの方が遥かに優ってたから、こっちの話をしたい。嬉々として話したい。。。所だったんだけど、まあ案の定、この会社も、私の居場所じゃございませんでしたー笑。
上司や同僚からのモラハラ、後輩からの総スカン、またしても発生してしまった禍々しい雰囲気。
それでも耐えたよ。私自身に微塵の価値も無かったからね。一流企業の営業マンという看板だけは、何としてでも死守したかったんだ。
でも、大手って怖いねぇー。成績不良の人材を、自主退職に追い込むんだから。だったら潔くクビきれよって話だけど。
私はねぇ。5年間必死に優良な成績を保ってきたんだよ?それが、たった1.2ヶ月成績不良になっただけで、もうお役御免だとさ。
当然クソババアから追い出されたよ。もう家の子じゃないから金輪際顔を見せるな!!だって。
一瞬悲しかったけど、でも、ようやく解放されるんだって思ったよ。
今まで一人暮らしをする事も許されないくらい、クソババアの監視下に置かれてたから、束の間の自由を手に入れたんだよ。
まあー、半年間かな。自由な一人暮らしを謳歌していた期間は。
半年を過ぎた辺りかなぁ。バイト先からの帰り道でねぇ、声が聞こえてきたんだよ。
「恨みを晴らせ。今までお前が自分に向けていた、全ての刃を、外側に向けろ」ってね。
初めは空耳かなぁ?って思ったよ。でもねぇ、不思議なものでその声が聞こえてから、数日後にクビ切られたんだよ。客に変な思想を押し付けるから消えてくれ、だって。
まあそこも私の居場所じゃなかったから、何の感情も湧かなかったけどね。
暫くは貯金でやりくりしてたけど、貯金も底をついて、怠いけど働かなきゃぁぁって思った時に、またあの声が聞こえてきたんだ。
「人助けをしろ。そうすれば、お前は救われるだろう。」ってね。
だから私は包丁を鞄の中に入れて、ネオン街をひたすらに歩き続けたんだよ。人助け出来ないかなぁって思いながらね。
そしたらさぁ、左目の横にでっけー痣つけて、ビクビクしながら男と歩いている若い女を発見しちゃったのよ。ビンゴ!!!って思って嬉しくなっちゃったんだわ。
私ってさぁ、負のオーラ発している奴一発で見抜けちゃうからさぁ、この女、隣の男にDVされてんなってすーぐ分かっちゃったわけ。
だから、助けてやったんだよ。人助け。殺しという名の、人助けしてやったんだよ。
女は叫びながら、血まみれの男を凝視してたんだけどね、その後、一瞬私に向かって微笑んだのよ。で、猛ダッシュで現場から逃げてっちゃったのよ。あの瞬間に味わった多幸感は、一生忘れないんだろうなぁ。
その後偶然現場付近にいた人達に取り押さえられて、色々あって、今ここにぶち込まれている訳さ。私はねぇ、今が一番楽しいんだよ。だって、誰にも邪魔されないんだから。
私の事を支配する者は誰もいない、私の事を邪険に扱う奴もいない、規律さえ守ってればそれでいいんだから。
私ねぇ、今模範囚なんだよ。今日もねぇ、看守に褒められちゃった。貴方は人一倍責任感があって頑張り屋な人ねぇって。
私人生で初めてかも、純粋な気持ちで褒められたのって。
だからねぇ、ここにずーっと居られる事に、今日も感謝しようと思っているんだ。
え、誰にって?勿論心の中の神様にだよ。私の事を、保護してくれる場所を見つけてくださり、本当にありがとうございますってね。
あ、看守に呼ばれたから行かなくちゃ!じゃあまたね、お天道様。いつか、光の輪の中に、私も入れてね。