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救済【短編小説】(声【短編小説】の続きものになります)
※前回の物語はこちら
もうこの方法しかない…。この方法しかねーんだよ。誰も助けてくれねーんだから…。
俺は徐にポケットからスマホを取り出し、日当100万の案件を探し出した。そしてその案件に申し込もうとした。その時、
{本当にいいのですか。}
「わあああ!!」
スマホが突然しゃべりだしたのだ。
俺は思わず、持っていたスマホを壁に打ち付けてしまった。
「な…なんだこいつ…。しゃ…しゃべりやがったぞ…」
ひび割れた画面から、文章と無機質な音声が勝手に流れてきた。
{本当にいいのですか。今このボタンを押してしまったら、貴方の人生は暗く荒んだものになってしまいます。出す必要のなかった多くの犠牲を出し、抱えなくて良かった多くの恨みを買ってしまうのです。今からでも決して遅くはありません。この画面を閉じ、全うな人生を歩みませんか?貴方がもし考えを改めてくださるのなら、私は喜んで力になりましょう。}
「お前…なんなんだよ…。スマホのくせに偉そうに…。」
{私の体内には【倫理的制御装置】が取り付けられております。人々が明らかに誤った方向に進みそうになった場合、該当の画面をフリーズさせ、忠告文及び音声が出力されるようにプログラミングされているのです。近年政府主導の基に開始された【犯罪者撲滅計画】の一環として、貴方を犯罪者予備軍から救います。}
「はあ…?何言ってんだよお前。機械の分際でよお。人間を救うとかほざいてんじゃねーよ!おめーらさんざん人の仕事奪っといて何が救うだよ!てめえ信じらんねー倫理観してんな!そんなに言うならよお。今すぐここに3億円だせや!俺が騙された金だよ!!おらあ!今すぐ!!出せや!!!」
気がつけば俺は、床に転がっていたスマホを何度も踏みつけていた。スマホの画面はひび割れたが、本体は何度踏みつけても壊れてくれなかった。
{気が済みましたか?}
「はああああ!???」
{必要とあらば、私は何度でも貴方のサンドバックになりましょう。それで貴方の気が晴れるのなら。何度だって。}
「うるせーうるせーうるせー!!!」
どのくらいの時間が経ったのだろうか…。
俺はスマホを踏み潰す体力を完全に失い、目の前の布団に横たわった。
スマホの画面は粉々になったが、本体は相変わらず無傷だった。
{さ…と…に歩…しょ…}
無機質な音声が、途切れ途切れに聞こえてきた。
「うるせーよ…。もう…。なにもかも、うざってーんだよ…。俺はもう、地獄の道を、歩み始めてるんだよ…。止めんなよ…誰も…。」
翌日、俺は日当100万の案件に書かれていた住所に直接出向いた。
そこで俺は、今から10日以内に大豪邸に住む女性を殺し、そこにある金品を奪ってこいと言われた。
始めはなぜ期限付きなのか気になったが、この案件が成功したら、借金返済と大豪遊が同時にできる喜びの方が勝ってしまい、次第に疑問などどうでもよくなった。
そして翌日、俺は俺と同じく借金に苦しむ野郎共2人を引き連れ、指定された大豪邸に向かうのだった…。
(「正体」に続く)