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2025年からの第2次トランプ政権は関税政策をどう変えるのか。再来する保護主義と世界経済への影響


1. はじめに

第1次トランプ政権(2017~2021年)下でのアメリカは、「米国第一主義(America First)」を旗印に、中国や同盟国に対して大規模な追加関税措置を断行し、世界貿易秩序を揺るがした。この保護主義的な転換は、鉄鋼・アルミニウムから幅広い消費財まで多岐にわたる品目を対象とし、米国内企業や消費者、さらには世界中のサプライチェーンに深刻な影響を与えた。
2025年に第2次トランプ政権が発足すれば、再度の強硬な関税政策復活が予測される。第1次政権期に築かれた貿易摩擦の構造は未だ根強く残っており、米中対立、保護主義的傾向の継続は、さらなる関税コスト増大やサプライチェーン再編を引き起こす可能性が高い。本レポートでは、第1次政権期の経験を踏まえ、2025年以降に想定される米関税政策の方向性と、その世界経済・同盟国・産業セクターへの影響を展望する。

2. 背景

前回のトランプ政権期において、対中制裁関税は約3700億ドル相当の中国製品に25%前後の関税を科し、鉄鋼・アルミニウムには232条を根拠に25%・10%の追加関税を適用した。これらの措置は国際的な混乱を生み出し、世界貿易機関の秩序が揺らぐ中、多くの国が対抗措置やFTA活用を通じて、リスク軽減に動いた。
しかし、バイデン政権下でも対中関税の多くが維持され、中国との対立構造は依然として解消されていない。こうした現状で2025年にトランプ氏が大統領職に復帰すれば、対中強硬路線や同盟国への圧力強化など、第1次政権期の政策が再来する可能性がある。さらに、通貨、技術移転、知的財産保護など多面的な論点も加わり、一段と複雑な通商環境が形成される公算が高い。

3. 関税措置の再来と具体的方向性

第2次トランプ政権は、以下のような政策的手段を講じる可能性がある:

  • 対中関税再強化:既存の対中追加関税を継続、拡大し、ハイテク製品や戦略物資、さらには半導体・EV関連部品など、米国が技術優位を確保したい分野に対しても選択的に制裁的関税を適用する可能性がある。

  • 同盟国への圧力復活:日本やEUなど長年の同盟国にも、貿易不均衡是正を名目に追加的な鉄鋼・アルミ関税や自動車・自動車部品関税を再度検討するシナリオがあり得る。

  • 新たな標的セクター:環境技術やデジタルサービスなど、21世紀型産業領域での関税カード行使も想定され、米国内産業育成を目指す産業政策との統合的運用が進む可能性がある。

4. 数値的インパクトと世界市場への波及効果

第1次政権期には、追加関税コストが米国輸入企業と消費者に500億ドル超の負担増をもたらし、世界のサプライチェーン再編を促した。第2次政権期でも、同様の、あるいはさらに高い関税が発動されれば、原材料価格上昇や生産コスト増大が再燃することは十分に考えられる。
米中間の貿易は再び縮小に向かい、中国側も報復関税や輸出制限で対抗すれば、農産品、工業部品、ハイテク素材などで需給が不安定化する。結果として、世界貿易成長率が再度低迷し、グローバルな投資判断やサプライチェーン最適化計画が阻害される恐れがある。

5. 各国の対応戦略

(1)日本の対応:

日本は第1次政権期に、日米物品貿易協定や日欧EPAなどを通じて米国依存を緩和しようと努めたが、第2次政権期には再び自動車関税強化の脅威や鉄鋼・アルミ追加関税適用リスクが高まる可能性がある。日本企業は北米生産体制を一層強化し、米国内調達比率の引き上げ、USMCAルールへの最適化を進めることで、関税影響を軽減しようとするだろう。また、アジア地域のFTARCEPを活用し、中国・東南アジアなど複数拠点から米国向け供給を行うことで、特定国依存度を下げる戦略が求められる。

(2)中国の対応:

中国は引き続き報復関税や非関税障壁で対抗する一方、内需拡大や技術自立、友好国とのFTA強化によるサプライチェーン多角化を図る可能性が高い。また、半導体・EV・バッテリーなど戦略物資での自立強化を進め、米国主導のグローバルバリューチェーンに依存しない経済モデルを目指すと考えられる。対外的にはRCEPやBRI(一帯一路)を通じた市場多様化や、CPTPP加盟検討など国際的影響力強化の動きが加速するだろう。

(3)EUの対応:

EUは第1次政権期と同様、WTOルール順守を訴えつつ報復関税を辞さない姿勢を維持する可能性がある。また、脱炭素・デジタル課税などEU独自の政策ツールを通じて米国との交渉を有利に進めるシナリオが考えられる。並行して、日欧EPA、CETA、インド太平洋地域との貿易交渉などにより市場多角化を図り、米国依存度低下と戦略的自律性の確保を進めると予測される。

6. 今後の展望と推奨アクション

2025年以降、第2次トランプ政権が発足すれば、対中強硬策や追加関税発動が再来し、グローバルな保護主義の拡大が懸念される。その中で企業は、地政学的リスクを踏まえた中長期戦略の再構築が急務となる。
具体的には、原産地証明の厳格化、FTA活用、複数地域への生産分散、米国内生産比率引き上げなど、関税コスト回避策の一層の推進が必要である。また、環境・労働基準など非関税要因や輸出規制への対応も検討すべきで、グローバル企業はポリシーリスクを分析し、柔軟なサプライチェーンを構築することが競争力維持のカギとなる。

7. 結論

第1次トランプ政権期に形成された貿易摩擦の構造は依然として残っている。もし2025年から第2次トランプ政権が誕生すれば、関税政策の強硬化や報復関税の応酬が再燃し、世界貿易は再び不確実性とコスト増に直面する可能性が高い。日本、中国、EUを含む世界各国は、多角的なFTA活用、サプライチェーン分散、米国市場向け戦略の最適化などを通じて、この新たな関税環境への対応を図ることになる。
今後の通商環境は、保護主義的政策と地政学的リスクが交錯する中、安定的な国際分業体制や多国間協調の再構築が難しい状況にある。企業や政府は、この新たな不確実性に備えた戦略を早期に策定し、実行することで、変動するグローバル経済秩序の中で持続的な競争力を確保することが求められる。

参考文献(主要出典元):

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