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神々との世界戦争
『昨夜、全世界で発表されました、世界滅亡の放送は真実であると首相は強く主張しました。原因は神々の来訪と……』
この発表は全世界に衝撃が走ったが、回避方法は皆無である。しかし《神の子》と呼ばれる者たちはこの戦争の前線で戦うのであった。
そして睡蓮学園にいる四人の《神の子》はとある神と戦うのであった。
午前九時。
睡蓮学園の上空に突如現れた炎の塊に謎の襲撃を受ける。建物は壊れ、悲鳴があっちこっちから聞こえる。
その炎に向かって二つの影が飛び込む。剣を刺した少年を将人、銃を撃っている少女を渚という。
不意の攻撃に驚いたように炎が大きくなり、人間が現れると同時に炎は消えた。
その少年少女は吹き飛ばされ、瓦礫に突っ込む。
「大丈夫?」
将人に手を差し出すのは紗綾、渚に手を差し出すのは宮瑠実という。
この四人が《神の子》と呼ばれる者たちである。
「我が名はヘパイストス。炎と鍛冶の神である」
「案外おじさんだね」
宮瑠実の血も涙もない一言にヘパイストスは肩を落とす。地に足を着けると次は怒り出した。
「おっさん言うな」
十数個の火の玉が四人を襲う。将人は剣で斬り落とし、渚と紗綾は銃で撃ち落とす。一つだけ潰しきれず、紗綾に直撃する。
腕が火傷でただれたが数秒で治る。紗綾の能力は不死身。どんな傷も数秒で治る。
「プランAで行く。宮瑠実はまだ眼鏡外すな。紗綾は何があっても宮瑠実を守れ。渚は俺と一緒に攻める。自分の身は自分で守れよ」
渚は足元の瓦礫を吹き飛ばしながらヘパイストスに肉薄する。
「五倍パンチ」
ヘパイストスは渚の拳を完璧に防いだが、並の人間より遥かに速く、重い拳に後ろに飛ばされる。
将人は剣を引き抜き、飛ばされたヘパイストスの後ろに一瞬にして移動し、背中を斬り、元いた場所に戻る。
瓦礫の山に突っ込んだヘパイストスは能力の使い方の上手さに驚きつつも、その能力を解明していた。
渚の能力は力の矢印を伸ばしたり縮めたり、また方向も自在に操れる。
将人は視覚の範囲内ならどこでも一瞬で移動できる。
将人たちの持つ武器は対神用。だから神の攻撃を防げる。
「なんだよ、あの感触。かすり傷にしかならないぞ」
しかしこの武器でも神を倒せるわけではないのだ。
「あんな体、どんな生物にも当てはまらないわよ」
神に文句を言う罰当たりな二人。罵っている場合ではない。次の手を考えなければならない。
「今の攻撃に二度目はない。次のチャンスは宮瑠実の力を使う。いつでも使えるように用意しとけ。防御に専念する」
ヘパイストスは起き上がると炎の玉を数個創り、四人に飛ばす。それと同時にヘパイストス自身も四人に近づく。
将人は瞬間移動でヘパイストスの動きを止めるべく前に出る。
ヘパイストスは炎を腕に纏い、将人を殴る。それを将人は剣で防ぐも、歴然とした力の差を噛み締めていた。
何にしろ人間対神なのだ。元々勝てる見込みはない。勝てる方法は一つ。能力が神に近づくことだけだ。
将人に続いて渚も前に出る。二対一の攻防を繰り広げるが三分後には将人も渚も地面に這いつくばっていた。
「ファファファ。貴様ら人間ごときが儂に勝てるとでも思っていたか。残るは二人。二人まとめて灰にしてやる」
ヘパイストスは両手を上に挙げ、巨大な炎の玉を創り出す。その大きさ半径十メートル。
「宮瑠実!今だ」
将人は立ち上がり、近くに落ちている剣を掴む。
宮瑠実は眼鏡を外し、ヘパイストスの目を凝視する。宮瑠実の能力は目を合わせた者を動けなくする、いわゆるメドゥーサの眼を持っている。
ヘパイストスは宮瑠実の目を見て、動きが止まる。そうなるかならないうちに将人は瞬間移動をして、人間の心臓の部分に剣を突き刺す。何にもぶつからず、剣は貫通する。将人の顔に光明が差す。
しかし動きが止まったゆえに、頭上にあった炎の玉が重力に従い、まっすぐ落ちてくる。
「ふざけろ」
将人は剣を刺したまま瞬間移動で回避。しかし将人に続けとヘパイストスに近づいていた渚は急に止まることはできなかった。
危険を感じると人間は頭を手で守りたいもの。手を上げようとすると何かに阻まれた。
(これって、空気?これなら……いける)
手の甲にかかる空気の圧力を五倍に強める。それを上に引き上げる。気流が生まれ、炎を防ぐ壁となる。
そのおかげで不意の攻撃を回避できた。
炎の玉が落下したことで宮瑠実は動揺してヘパイストスにかけていた能力が消える。
巨大な炎が直撃したにも関わらず、ヘパイストスは火傷一つ負っていない。なぜなら自分の炎で身を焼くというのは神としてあるまじきことであるからだ。もしその身を焼けるとしたらそれは神器の生み出す炎だけだろう。
「貴様。儂の動きを止めるとは、神の逆鱗に触れた。神を怒らせたことを後悔させてやる。ーー神器よ」
右手に炎が渦巻き、神器が現れる。鎚の形をした武器で長さは二メートルを超え、頭部はくり抜きになっており、その空洞の中に炎が燃え盛っている。
「この炎は不死身であろうと死ぬ」
紗綾と宮瑠実に向かって神器を一振り。その炎は先程の炎の玉よりは小さいが、その純度が、その神力が桁違いだと神の子でもわかる。
紗綾は宮瑠実をかばうように宮瑠実の前に立つ。
「だめ」
宮瑠実は恐怖でその場に座り込む。
「やめろー」
将人は瞬間移動で紗綾の前に立つ。炎が直撃する寸前、将人の身に変化が起きた。右手が銀色に光ったのだ。
その右手で炎に触れると熱くもなく、炎は吸い込まれるように消えた。
次の瞬間、今度は左手が銀色に光出した。比喩ではなく本気で手から火が吹き出そう。
やり方はわかっている。能力はなんら変わっていないのだから。
ヘパイストスの後ろに座標を決定する。さっきと何も変わらない炎。ヘパイストスは抵抗もできずに背中に直撃する。神を唯一殺せる神器の攻撃。
背中には夥しい火傷を負ったが倒すにまでは至らなかった。
「貴様の力が物質移動だったとはな。その表情を見るに元々使えたわけではなさそうだ。チッ、この状況で進化するとは。いや、この状況だからこそと言うべきか」
形相はどんどん怖くなり、本格的に怒っているようだ。
将人は紗綾と宮瑠実に触れ、瞬間移動で渚の所に行く。
「もう攻撃の手がない。宮瑠実の能力がもう一度効くとは思えない」
「仮にもう一度、動きを止められたら勝機はある。今の私ならーーいける」
渚の声音はしっかりしていた。ここまで豪語するなら賭けてみる価値はある。
「オッケー。でもどうする?物理的に動きを止めるのは不可能だよ」
「私が止める」
聞き間違えることはない。このアニメ声は宮瑠実のもの。
「将人君は進化した。渚ちゃんも変わった気がする。私だって皆の役に立ちたい」
数年前から神の子の組織にいた将人と渚と紗綾。しかし宮瑠実はつい数週間前に将人に神の子認定をされ、組織に入れられた。宮瑠実の意思に関係なく。
地球滅亡の話は聞いていたけれど、実感も覚悟もなかった。けど私はこの場所に、戦場にいる。皆に助けてもらってばかり。そんなのは嫌。私は神と戦ったよ、って胸を張って言いたい。だから、私は……
「じゃあ、作戦はこうしよう。紗綾がヘパイストスを攻める。渚は自由にしていいよ。そう言える力を手に入れたはず。宮瑠実は俺が守る。たぶんヘパイストスは二度と宮瑠実の目を見ないはず。だから彼奴の目線に宮瑠実の目がいくように俺が動かす。紗綾、少し辛いかもしれないけど、俺も渚も援護はするから」
「わかってる。皆覚悟決めているのに私だけ無理なんて言えるわけないでしょ」
全員自分の役割を確認する。
蚊帳の外だったヘパイストスは超絶機嫌が悪かった。理由は、
「そこの坊主!神である儂を彼奴呼ばわりとは、死ぬ覚悟はできてるだろうな」
「そっちこそ、負ける覚悟できてるだろうな」
売り言葉に買い言葉で返す将人。紗綾に触れると小声で、左に飛ばす、と言った。
紗綾はヘパイストスの左側に飛ばされ、銃を乱射する。効き目がなくとも陽動にはなる。
ヘパイストスに殴られたり、炎で燃やされて、痛みはあるが一瞬で治る。サンドバッグ状態だ。将人は瓦礫を落として援護し、渚は殴ったり蹴ったりして援護しているがことごとくあしらわれる。
不死身なんていい事ない。今も昔も痛いだけ。
この体が神からの借り物だと知るまでは傷が一瞬で治ることが気味悪がられた。クラスでハブられ、虐められた。どんな傷も治るから人に言えないことまでされた。
今だって神にボコボコにされるだけ。あの頃と変わらず反抗できない。泣きたくなってくる。それなら渚のような能力の方がよかった。攻撃する力が欲しい……
突然体の内から力が湧いてくる。ヘパイストスの動きが遅く感じる。紗綾はヘパイストスの拳を手の平で受ける。すると青い電が生まれる。紗綾には何ともないが、ヘパイストスは苦悶して離れる。
「今のは《感電》?ああ、もう、どいつもこいつも進化しやがって。ただの不死身から吸血鬼に変わるとは」
触れた者の力をなくす吸血鬼のみが使える技《感電》。紗綾はようやく攻撃できる力を手に入れたのだ。
紗綾は確信を持ってヘパイストスと対峙する。感電は無意識に使えるようだから苦労もない。
「図に乗るなよ」
驚いたことに拮抗していた。ここが勝機と思った将人は最後の作戦を敢行した。
「渚、準備しとけ。トドメを刺す」
将人は宮瑠実に触れ、一緒にヘパイストスの視線の先に移動する。
「貴様の力は二度と効かん」
そう言ったのにも関わらず、ヘパイストスは動かなくなった。
宮瑠実も進化していたのだ。本当のメドゥーサの眼を手に入れたのだ。宝石のように輝く眼を。
動かないことを確認した将人は吠えるように叫んだ。
「渚、後は頼んだ」
「任せろ」
渚は右手に乱気流を発生させる。渚の進化は空気の矢印の変化だった。前までは自分にかかる矢印しか変えることはできなかった。
空気の矢印を二十本生み、長さを伸ばし湾曲させ、圧縮する。それを神器で傷ついた背中の一番酷いところを狙って当てる。
更に傷は深くなり、数十メートル吹っ飛ぶ。瓦礫の上を何度も跳ね、止まる。
するとヘパイストスの体は現れた時のように炎に包まれた。その時にはもう宮瑠実の能力は消え、ヘパイストスは静かに話し出した。
「貴様らの勝ちだ。よもや人間四人ごときに負けるとは恥さらしになってしまったよ。儂たちは下界では本来の力の半分も出せない。太古にそう決められた。だからこそ負けることもある。そして負けると今のように物質に変化して我々の世界に戻る。これも強制で神である我々にもどうしようもない。もう時間だ。さらばだ、二度と会うことはないだろう」
こうして神に勝つという功績を残した四人はその先神との戦いの前線で活躍するのであった。