自覚する瞬間
自粛ムードなので、仕方なくひとりでビールを家で飲みながら、たっぷりと時間をかけ、湯船で読書を楽しむ日々です。
自宅で飲むんだったらいいだろうということで、昨日は人を招いての楽しい宴。人と話しながら飲むってやっぱりいい。
さて、正解がわからなかった高学歴女子は、その後どうなったのか?
職場で顔を合わせないといけない気まずさがしばらくは続いた。すれ違う瞬間、胃のあたりがギュギュギュッと何かに刺されたように痛んだ。
でも、慣れとは不思議なもので徐々にそれはなくなり、何も感じずに挨拶を交わすようになった。
そこから特に業務上関わる人間でもないので、忘れかけていた。
が、そんな2か月ほど経ったある日。
話しかけられたのである。
わたしは硬直してしまった。緊張感を露わにしてしまった気がする。
でも、このご時世なのでわたしは大きなマスクを着用していた。きっと赤い顔も、ちょっとニヤけていたであろう顔は見られなかったはずだ。
彼は、本の仕事をしている。選書する仕事を。
「この本、かわいいんです」
わたしはたぶん、最初周りをキョロキョロと見まわしただろう。
もちろん彼は私のほうを見ていた。たぶん。
でも自分に話しかかられたと認識できず見まわしたのだ。人間の咄嗟の行動って笑える。
周囲にはわたししかおらず、わたしに発せられた言葉だと認識した。
「へー、ほんとだ。かわいいね」
「最後がとてもかわいいんですよ」
「これってどこの国の本?」
「どこでしょうね。~スタインだからきっと中欧? いや、プロフィールにNYって書いてある」
「えーNYと中欧ぜんぜん違うじゃーん」
そんな他愛もない話をしながら、わたしは「最後が可愛い」というから、彼に見つめられながら、ちょっとだけ震える手でページをめくり続けた。
なんという、緊張感と幸福感。
「あーわたしまだ好きだったんだ」
認めざるを得ない。
その後も彼と、書店の中をぐるぐるしつつ本の話や彼の本にまつわる話を聞いた。
ふたりだけの時間。
噛み締めるだけで、甘酸っぱい。ふわふわとした時間。
どう次の手を打てばよいのか。やっぱりわたしには分からない。
そしてわたしは異動により、同じ場所で働くこともなくなる。
もうすぐ何もしないでも彼と会えることはなくなるのである。
さあ、どうする?
考えよ、頭をフル回転させて。
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